発声中の皮膚振動計測

発声中の顔表面の皮膚振動 (2012年)

発声や歌唱の際には,わずかではありますが,顔や首の皮膚の振動を通して音が体の外に出て行きます.そのときの振動を計測することができれば,発声や歌唱の仕組みを深く理解することができます.また,発声や歌唱の訓練のフィードバックとしても利用できるかもしれません.

この研究では,世界で初めてスキャニング型レーザードップラ振動計という装置を使って発話中の顔の振動を測定しました.この装置は対象の振動を非接触で測定することができます.さらに,周波数ごとの振動を測定することができます.

測定の様子の写真を以下に示します.頭を固定するため話者には横になってもらってい,顔の上に測定装置を固定しました.

次に,母音「あ」と鼻音「ん」を発声した際の測定結果を示します.赤に近いほど振動が大きく,青に近いほど振動が小さいことを表しています.レーザーから目を守るため,ゴーグルをかけてもらっています.

母音「あ」では口の周りも振動していること,鼻音「ん」では鼻や額も振動していることがわかります.私たちの頭には副鼻腔という空洞があります.鼻音の場合,この空洞を通して音が伝わり,額からも音が放射されていることがわかります.

詳しくは以下の論文を参照してください.

歌唱中の皮膚振動 (2012年)

声楽家の世界では,歌唱中の身体感覚を「声をあてて」,「頭蓋骨を広げて」などの独特な表現を用いて表されることがあるそうです.このような表現で歌唱しているとき,声楽家の身体はどのように振動しているのでしょう? この研究ではスキャニング型レーザードップラ振動計を使って声楽家の歌唱中の顔の振動を測定しました.

測定の様子の写真を以下に示します.頭を固定するため,背もたれから2本の棒が突き出ている特殊な椅子を作りました.さらに,首は手術用のネックピローで固定しています.

実験の結果,地声と裏声の皮膚振動には違いがあること,高い声では額の振動が大きくなることなどがわかりました.「高い声は突き抜けるイメージ」ということと対応しているかもしれません.

詳しくは以下の論文を参照してください.

チューブ発声法による訓練時の皮膚振動 (2013年)

言語聴覚士が用いる訓練の1つにチューブ発声法があります.この訓練法ではストローに息を吹き込むように発声することを繰り返し,発声がうまくいった時には口の周辺に振動が感じられます.この振動をレーザドップラ振動計にて計測したところ,振動を意識した部分の振動が実際に大きくなることが確認されました.

詳しくは以下の論文を参照してください.

腹話術発声時の皮膚振動 (2013年)

腹話術に革命を起こした「いっこく堂」さん.そのときの皮膚振動を測る幸運に恵まれました.計測の結果,腹話術で話しているときには,鼻周辺の振動が大きくなることがわかりました.これは鼻から音が出ていることを意味しています.口が開いていないのですから音は鼻から出るしかないわけですが,それを確認できた意義は大きいです.

しかし,そうだとするとわからないことがあります.鼻から声が出ていれば,いわゆる鼻声っぽい(細かく言うと「開鼻性」をもつ)声になるはずですが,いっこく堂さんの腹話術は鼻声っぽくありません.その点をご本人にうかがったところ,「鼻声にならないようにしています」とのお返事でした.音声科学的には考えにくいことですが,何か秘密のテクニックがあるのでしょう.

計測の様子や結果は以下のテレビ番組で放送されました.

ソプラノ歌唱時の皮膚振動 (2014年)

いわゆる裏声は「頭声」ともいい,歌うとき,そしてそれを聴くときに歌声が頭に響くとされています.頭に響くということは,頭が振動しているのではないか?ということで,プロのソプラノ歌手3名にご協力いただき,歌唱時の額の振動を計測しました.

結果の一部を以下に示します.PF1は地声,PF2,PF3,PF4は裏声で,数字が大きいほど声が高いときの結果です.赤に近いほど振動が大きく,青に近いほど振動が小さいことを表しています.3名のソプラノ歌手について調査した結果,声が高くなるほど額の振動が大きくなる傾向がありました.

詳しくは以下の論文を参照してください.

甲南大学シーズ集にも掲載されています.お引き合いをお待ちしております.

謝辞 本研究の一部はJSPS科研費の支援を受けて行われました.