NDI社のElectromagnetic articulography (EMA)装置Wave Speech Research System (Wave)に関する情報を掲載しています.
日本国内の代理店はアドバンストシステムズ(株)です.同社はNDI Waveのレンタルサービス,実験支援サービスも提供しています. そのため,装置一式を購入するよりもはるかに安い費用で実験を行うことができます.
なお,NDI社はWaveおよびその後継機種の販売を終了していますが,サポートは継続しています.
利用法を説明した動画を作成しました.紙の資料には書ききれない部分を把握していただくのに役立てていただければ幸いです. 事前に実験参加者の方にご覧いただくと計測がスムーズに実施できると思います.
ここで示している動画は2020年より前に撮影されました.2021年2月現在,国立国語研究所を中心にWaveによる計測の際の感染リスクを減らすための検討が行われています.
(1) 装置のセットアップ
(2) 歯型の採取:後ほど咬合面,口蓋形状を計測するために歯型をとります.
(3) リファレンスセンサの貼り付け:計測空間の座標の原点となるリファレンスセンサを鼻根点 (ナジオン) に固定します.固定には化粧用の接着剤を用います.
(4) 5Dセンサの貼り付け:動きを計測したい点に5Dセンサを貼り付けます.口の中は医療用アロンアルファ,口の外は化粧用接着剤を用います.
(5) フィールドジェネレータの位置合わせ:頭の位置に合わせてフィールドジェネレータの位置を固定します.
(6) 計測:計測用ソフトウェアWaveFrontを用いて計測を行います.この動画の公開後,WaveFrontはバージョンアップし,見た目や出力ファイル形式などが変わっています.
(7) 咬合面計測
(8) センサ位置の記録
(9) 口蓋形状の計測
Waveでは400 Hzまたは100 Hzの標本化周波数にてセンサの3次元座標を計測することができます.経験的に100 Hzの方がデータ欠損などの問題が生じることが少なく,計測が安定します.
各5Dセンサの3次元座標は,タブでセパレートされたテキストファイル (TSV形式) にて保存されますので,Excelで様々な操作ができます.このファイルには,音声と同期するための情報も記録されます.
ビューワーとしてはM. Tiedeさんが開発したM-viewがよく知られています.
Waveのオリジナルのセンサにつながっているワイヤは,太くて硬く発話に悪影響を及ぼす可能性があります. そこで,私たちはワイヤを細く柔軟性のあるものと交換したセンサを開発しました. 新型センサはオリジナルセンサと同等の精度を保ちつつ,発話のしやすさを実現しています.詳細は以下の文献を参照してください.
Kitamura, Nota, Hashi, Hatano, Replacement of sensor cables for reducing effects on articulation in the Northern Digital Incorporated's Wave electromagnetic articulography system, JASA Express Letters 143, EL154 (2018).
EMAによる計測では,舌や口唇などに貼り付けたセンサの空間座標が記録され,咬合面や正中矢状面などの発話の座標系を規定する面の情報を直接得ることはできません.従来,咬合面計測用のバイトプレートが用いられてきましたが,私たちはCOVID-19の感染対策を考慮し,新たなセンサプレートを用いた咬合面および3次元口蓋形状の計測手法を検討しています.
能田由紀子, 北村達也, 竹本浩典, 前川喜久雄, 磁気センサシステムによる調音運動計測のための口蓋・咬合面の計測法, 日本音響学会秋季研究発表会, 1095-1096 (2022).
能田由紀子, 北村達也, 口蓋3次元データの作成とWAVEでの発話計測実験への応用, 言語資源活用ワークショップ2021 (2021).
以下の文献にてWaveについて解説しています.
北村達也, 動画で見る音声生成系の観測手法, 日本音響学会誌, 76(12), 700-705 (2020).
北村達也, 磁気センサシステムによる調音運動のリアルタイム観測, 日本音響学会誌, 71(10), 526-531 (2015).
謝辞 本研究の一部はJSPS科研費の支援により行われました.