医学的に問題がなくても,日常的に発話のしにくさを感じている人が一定の割合でいます.これは緊張してうまく話せないのとは異なります.私たちが日本国内15大学の大学生・大学院生約2,000名を対象に調査したところ,約3割の人が発話のしにくさを自覚していることがわかりました.私たちは,このような感覚がなぜ生じるのか,効果的・効率的な訓練法はどのようなものかについて研究しています.
詳しくは以下の論文をご覧ください.
北村達也, 能田由紀子, 吐師道子, 竹本浩典, 大学生・大学院生を対象とした発話のしにくさの自覚に関するアンケート調査, 日本音響学会誌, 75(3), 118-124 (2019).
音声リハビリテーションは,医師や言語聴覚士の指導の下,数ヶ月間に渡って実施されます.定期的な通院のほか,自宅での自主練習が大変重要ですが,地道にかつ正確に練習を続けるのは患者さんにとって大変な負担です.そこで,訓練の状況をIoT機器でモニタし,患者さんのスマートフォンにSNSで通知するシステムを開発しました.このシステムを使用することによって,訓練の継続性が高まるとともに,訓練効果も高まることが示されました.
また,ゲームと連携して楽しく訓練を続けられるシステムも開発中です.以下の概念図をご覧ください.
詳しくは以下の論文をご覧ください.
川村直子, チューブ発声による音声障害リハビリテーションを支援するe-Healthシステムの研究, 甲南大学博士論文 (2023).
村井武人, 北村達也, 川村直子, チューブ発声訓練支援システムにおけるゲーミフィケーション導入の試み, 音学シンポジウム, 信学技報(SP), Vol. 123, No. 88, 83-85 (2023).
川村直子, 北村達也, 自主的な音声障害のリハビリテーションの継続を可能とするためのIoTクラウドシステムの開発, リハビリテーション・エンジニアリング, 38(2), 93-102 (2023).
(c) Naoko Kawamura and Tatsuya Kitamura
声帯振動を改善する訓練法の1つにチューブ発声法があります.これは,ストローに息を吹き込むように発声を繰り返します.発声の改善には1日50回の訓練を1カ月続ける必要があります.
さて,チューブ発声法が正しく行われると口の周りに振動を感じます.訓練の時にはこの振動を感じるように指導されますが,その振動を感じにくい人もいますし,指導する言語聴覚士はその振動を把握することができません.
そこで,訓練する人の自己効力感を高めるために,口の周りの振動をセンサーで検出してそれに応じて下の動画のようにLEDの光でフィードバックする装置,Smart tubeを開発しました.この装置は振動の大きさや基本周波数によって点灯するLEDの数と光の色を変化させます.このシステムはArduino UNOを用いて安価に作られています.
患者さんを対象に長期運用実験を行った論文が音声言語医学誌に掲載されました.また,2023年現在,病院にて実証実験を行っています.
詳しくは以下の論文をご覧ください.
川村直子, 北村達也, チューブ発声中の口唇部の振動を可視化する携帯型フィードバックシステムの開発, 音声言語医学, 64, 1, 10-17 (2023).
Kawamura, Kitamura, Hamada, Smart Tube: A biofeedback system for vocal training and therapy through tube phonation, Proc. Interspeech 2020, 1011-1012 (2020).
甲南大学シーズ集にも掲載されています.お引き合いをお待ちしております.
上述したように,チューブ発声法の訓練は1カ月続き,その間モチベーションを維持するのは大変です.そこで,「ゲーミフィケーション」という考え方を取り入れ,チューブ発声法の訓練にシューティングゲームの要素を入れたシステムStraw fighterを開発しました.
このシステムはM5Stack上で開発されました.ストローを吹くとその振動を検出して弾が発射され敵を倒します.下の写真は実行中の画面です.ユーザーはゲームを楽しむだけで訓練を行うことができます.Straw fighterはゲームの結果をクラウドにアップロードする機能も持っています.そのデータを共有することによって,他のユーザーとスコアを競ったり,言語聴覚士が訓練の状況を把握したりすることができます.
詳しくは以下の論文をご覧ください.
Hamada, Kitamura, Kawamura, Straw fighter: A gamification-based system for supporting vocal exercise by tube phonation, LifeTech 2021 (2021).
カワイサウンド技術・音楽振興財団にてオンライン公演した動画を掲載します.2件目の講演です.発話のしにくさに関する話も含めてお話ししています.
謝辞 本研究はJSPS科研費,カワイサウンド技術・音楽振興財団,ひょうご科学技術協会,兵庫県科学技術振興財団,御器谷科学技術財団,中山隼雄科学技術文化財団の支援を受けて行われました.