書籍等紹介

講演等で,「勉強するためにオススメの本はありますか?」と聞かれることが増えました。時間の関係で詳細をお伝え出来ないことが多いので,私の読んだことのある書籍をご紹介いたします。各書籍は,ビジネスパーソンの方や学生さんからのお問合せが多いので,専門向けというよりも,「心理学に興味を持った一般の方が読む本」を中心にしています。なお,紹介文はあくまで個人的な感想です。

学生さん向けの書籍紹介

2020年4月現在ですが,新型コロナウィルスの影響で,学生さんの学生生活も大きな影響を受けています。そこで,家庭での時間を少しでも有意義に使ってもらう目的で,大学生のうちに読んでおくとお得な(あくまで岩野が役に立ったというだけですが)書籍をご紹介します。

山﨑政志(2014).極意がわかるビジネス文章の書き方とマナー

学生のうちは,メールを含むビジネスレターを書く機会が少ないと思います。しかし,教員や事務への連絡メールもビジネスレターです。知らず知らずに恥をかかないように,一読することをお勧めします。この方は,場面ごとに例文が書かれているので,とても参考になります。

古谷治子(2011).知識ゼロからの最新ビジネスマナー

ビジネスマナーの入門書としては,入りやすいと思います。イラストも多いですし。就職活動前に,まず目を通しては如何でしょうか。

ガワンデ,A. 原井宏明(訳)(2013).医師は最善を尽くしているか―医療現場の常識を変えた11のエピソード―みすず書房

これは,本当に良い本です。ノンフィクションであり,小さなことでも実行するのが如何に重要で難しいかが書かれています。対人援助職ではなくても,一人ひとりが出来ることをするために,おおいに助けになる本だと思います。

サンキュータツオ(2017).ヘンな論文 角川文庫

文庫本で出ているのですが,面白いです。研究と聞くと,何となく堅苦しいイメージがありますが,そんなことは無いと分かる本です。興味の対象を明らかにするために,徹底的に取り組もう!というのが研究ですから。個人的には,コラムがしっかりしていて,大学のゼミでも紹介しています。

マキューン,G. 高橋璃子(訳)(2014).エッセンシャル思考―最少の時間で成果を最大にする― かんき出版

仕事の仕方を改める切っ掛けになった本です。後輩のAくんから紹介された本なのですが,当時,仕事量が増えてきてオーバーワーク気味で困っていました。内容が自分の仕事に対する考えにフィットしたので,その後の業務パフォーマンスが向上したと思っています。「忙しい」が口癖の方にオススメです。

ガワンデ,A. 原井宏明(訳)(2013).死すべきさだめ―死にゆく人に何ができるか― みすず出版

ガワンデの本,2冊目です。こちらも非常にオススメの本です。先日,老年心理学という講義で,「何かオススメの本はありませんか」という質問があり,真っ先に思いついたのが,コレです。人生の後半に本当に必要なことは何か,とても考えさせられる一冊です。

高橋佑磨・片山なつ(2014).伝わるデザインの基本―よい資料を作るためのレイアウトのルール― 技術評論社

仕事柄,プレゼンや発表をする機会は多いです。ある意味,本業ですから。ただし,発表の仕方は教わったことはありませんでした。そんな時に,この本を勧められました。この本には発表用資料やスライドの作り方が理論的かつ具体的に書かれています。お陰で,随分スライド作成が上手になったと褒められたものです。発表する機会がある人は必見だと思います。

紺野やえ・MB(2015).服を着るならこんなふうに KADOKAWA

はい,マンガです。メンズファッションの選び方や着方についての本です。男子学生は読んだ方がいいです。なぜなら,カッコよくなれるからです。私のファッションセンスは壊滅的で,後輩にダサイと服を捨てられたことがあります(実話)。その後,この本でファッションの仕組みが分かり,なんとか人前に出られるようになりました。騙されたと思って,まず1巻を。

ビジネス・産業場面関係

舞田 竜宜・杉山 尚子(2008).行動分析学マネジメント―人と組織を変える方法論― 日本経済新聞出版社

こちらもパフォーマンス・マネジメントの本です。そして,こちらも物語調で書かれています。島宗(2000)と比べると,図が少なく,その分会話などで説明してくれているので,こちらの方が小説のような印象が強いと思います。内容も少し多めですので,個人的にはまず島宗(2000)を読んで,次にこちらを読まれると理解が進むように思います。

島 悟・佐藤 恵美(2010).まんがメンタルケアシリーズ④職場ストレスでヘコまない実践テクニック 株式会社エクスナレッジ

職場でのトラブルやストレスに関する本です。所々にマンガや挿絵が入っており,内容も分かりやすく,しかも現実にありそうな場面が多く出てきます。認知行動療法やストレスマネジメントの応用が多く出てきます。平易なことばで読みやすいので,職場のストレスに関心のある方は読まれて損はしないと思います。

子育て・発達障害関係

ニキ・リンコ(2005). 俺ルール!自閉は急に止まれない 株式会社花風社

自閉スペクトラム症の当事者の方が書かれた本です。難しい学術書を読むよりも,この本を読んだ方が自閉スペクトラム症の方々の見ている世界を知るのに,役立つかもしれません。私も学生の時に読んで,「なるほど」と思った記憶があります。自閉スペクトラムの方々は,いまだに周囲から適切な理解を得られない場面があります。少しでもそのような状況を変えるために,手にとって欲しい本の1冊です。

東条 健一(2013).リカと3つのルール―自閉症の少女がことばを話すまで― 新潮社

自閉スペクトラム症と,応用行動分析に関する本です。特徴的なのは,心理学に全く関係のない父親の目線で書かれていることです。診断の受容から,エビデンスの無い介入に振り回される所など,現実味があるように思えます。一方で,あくまで専門家が書いたものではありませんので,応用行動分析の正確な情報を知るには足りないでしょう。こちらも物語調ですので,応用行動分析に興味を持ち始めた方には,読みやすくざっくり分かる,といった内容かと思います。

サフレン,S.A.・スピリッチ,S.・パールマン,C.A.・オットー,M.W. 坂野 雄二(監訳)(2011).大人のADHDの認知行動療法―本人のためのワークブック― 日本評価社

注意欠如多動症(ADHD)の方向けのワークブックです。ADHDの方が生活で困る問題について,認知行動療法を使って解決するためのテクニックが書かれています。忘れ物や部屋の整理など,ADHDの方以外でも使える知識が満載です。私も,書類整理などにかなり使っています。同じくセラピストガイドも出版されていますので,そちらはより詳しく書かれています。

調査・統計解析関係

対馬 栄輝(2008).SPSSで学ぶ医療系多変量データ解析 東京図書株式会社

統計関係の仕事を依頼されることが,ここ2年くらいで増えました。統計に関する書籍は非常に多いのですが,大学関係の方はSPSSという統計ソフトを使える環境にあるので,まずこちらをご紹介します。多変量解析は,データ同士の関係などを調べる方法です。実際のSPSSの画面が載っていますので,初めての方でも見様見真似で分析ができると思います。

山田 剛史・杉澤 武俊・村井 潤一郎(2008).Rによるやさしい統計学 オーム社

SPSSは,非常に優れた統計ソフトなのですが,高価です。個人で持っている人はどれくらいいるのでしょうか(ほぼ居ないと思いますが)?そこで,R(あーる)のご紹介です。Rは,フリーの統計ソフトです。しかも,世界中から最新の情報が更新されていますので,一度慣れてしまうと使いやすく,かなり高度な統計解析も可能です。この本は,そんなRに関する本の中でも特に丁寧で,大学の卒業論文程度までなら十分カバーしていると思います。

山田 剛史・村井 潤一郎(2004).やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ よくわかる心理統計 ミネルヴァ書房

統計の基本中の基本から分散分析までを学ぶために最適の本です。個人的には,統計を学ぶ時に必ず最初に読んで欲しいと思うくらい良い本だと思っています。説明が平易であり,例が分かりやすく,数式が必要最小限しか出てこないという,数学嫌いにはうってつけの本です。私も,学生時代に穴が開くほどほど読んで,書き込みました。心理学を学ぶ方は,どこかで読んで欲しい1冊です。

認知行動療法関係

山上敏子・下山晴彦(2010).山上敏子の行動療法講義with東大・下山研究室 金剛出版

行動療法のエキスパートである山上敏子先生が,東大の学生さん達に行った講義をまとめたものです。平易なことばでありながら,行動療法の雰囲気や大事な勘所(かんどころ)が書かれている,素晴らしい本です。一般の方でも読める内容ですし,専門家も通読することで気づくことが多いのではないでしょうか。また,ひと昔前にあった,「行動療法は冷たい」といった誤解も,本書を読めば払拭されると思います。個人的には,満足間違いなしの良書だと考えています。

アディス,M.E・マーテル,C.R・大野裕(監訳)・岡本泰昌(監訳)・うつの行動活性化療法研究会(翻訳)(2012).うつを克服するための行動活性化練習帳:認知行動療法の新しい技法

認知行動療法は,色々な技法や内容があります。その中で,うつ病の治療の用いられる行動活性化(療法)についての本です。この本の特徴は,クライアントさんご本人が自主学習するための,いわゆるセルフ・ヘルプ本ということです。そのため,専門用語も最小限であり,自分で行動活性化を体験することができます。

玉井仁・星井博文・深森あき(2016).マンガでわかる認知行動療法 日本能率協会マネジメントセンター

認知行動療法の書籍は多くあるのですが,入門書は分かりやすさを優先し過ぎて,専門家が読むと「ん?そうじゃないんだけれど」と思う場合もあります。本書は名前の通り,マンガで分かりやすく認知行動療法を紹介していて,それほど違和感を感じないのではないかと思います。なお,基本的に「認知療法」としての説明が中心ですので,行動療法や行動分析については,別途書籍で学ばれると良いでしょう。個人的には,登場するネコが可愛くて好きです。

不安・強迫関係

原井宏明・岡嶋美代(2012).図解 やさしくわかる強迫性障害

強迫症(潔癖症や確認ぐせと思って下さい)の方とカウンセリングをすることは多いのですが,そんな当事者の方にも好評の1冊です。まず,著者の原井先生と岡嶋先生は,強迫症の第一人者であり,内容がとてもしっかりしています。また,不安系の治療では,認知行動療法の技法であるエクスポージャーと儀式妨害という方法を使います。その手続きや工夫が分かりやすく書かれているのも嬉しい所です。さらに,当事者の声も載っているので,治療のイメージを持ちやすいでしょう。

内山喜久雄・坂野雄二(2008).認知行動療法の技法と臨床

少し専門性が高いのですが,多くの症例が載っている認知行動療法の本です。自分がどうやって不安症や強迫症の勉強をしたか考えたのですが,基本的に認知行動療法の勉強をしていたら,自然と学んでいたことに気付きました。なので(不思議なのですが),あまり不安症だけの書籍を持っていないことが今更ながら分かりました。この本は,心理学を学ぶ学生さんにはうってつけで,執筆陣も豪華です。もしご興味があれば,気になる章だけでも読まれると良いかと思います。

コミュニケーション技術関連

北田雅子・磯村毅(2016).医療スタッフのための動機づけ面接法 逆引きMI学習帳

動機づけ面接法という技法の書籍です。動機づけ面接法は,会話を通して相手のやる気(動機づけ)を引き出すテクニックとお考え下さい。解説書は何冊かあるのですが,この本は翻訳書ではなく,日本人によって書かれており,また内容もかなり平易です。対人援助技術として,動機づけ面接法は是非知って頂きたい技法ですので,一読の価値ありです。

堀越勝・野村俊明(2012).精神療法の基礎:支持から認知行動療法まで

堀越先生は,大変著名な心理士の先生で,講演などは大変勉強になります。この本は,特定の流派についてというよりも,広く対人援助を行う際に知っておきたいコミュニケーションや考え方が書かれています。まさに書名の通り,「精神療法の基礎」と言えます。後半が著者同士の会話形式で書かれている所も,分かりやすいポイントです。

専門的に認知行動療法を勉強したい方向け

坂野雄二・鈴木伸一・神村栄一(2005).実践家のための認知行動療法テクニックガイド:行動変容と認知変容のてめのキーポント

私たちが開催している勉強会の基本テキストとして使用しています。今で言うところの「第二世代」の認知行動療法ということになると思いますが,行動療法と認知療法の基本姿勢は変わらないので,今でも十分実用的です。一読された後は,続編もありますので合わせて読まれてはどうかと思います。

神村栄一(2014).認知行動療法実践レッスン:エキスパートに学ぶ12の極意

こちはら,中級編です。基本的な取り組み方が分かった方が,さらにスキルアップするための情報が多く含まれています。元々は雑誌に掲載されていた「認知行動療法中級レッスン」という連載なのですが,連載当時から読んでいて,私自身も大変勉強になる内容だと思っていました。

原井宏明(2010).対人援助職のための認知・行動療法:アニュアルから抜け出したい臨床家の道具箱

こちはら,中~上級編といった感じです。読み手の好みが分かれるかもしれませんが,私のような”自称”行動療法家にとっては,納得しやすい内容です。認知行動療法も理論の多くは学習理論に拠る所が多いので,行動分析や基本的な学習理論を知っていないと,理解が難しいかもしれません。ただし,巷では「CBT=マニュアル」という誤解が多いので,そうではないことはこの本を読めば分かると思います。

島宗 理(2000).パフォーマンス・マネジメント―問題解決のための行動分析学― 産業図書株式会社

応用行動分析(ABA)を使って,企業におけるパフォーマンスを向上させるための具体例が書かれています。内容も物語調で書かれており,読みやすい内容です。しかも,150ページくらいの薄さ!情報源もしっかりしているので,パフォーマンス・マネジメントを学びたい方は必読の1冊と言って良いかと思います。