ミストCVD
原料を霧状にして輸送し、成膜容器中で加熱して分解することで薄膜を成膜する手法
主に酸化物薄膜の成膜に用いられる
利点
原料を溶液のかたちで輸送:基板到達以前の気相反応が発生しにくい
溶媒と原料(溶質)、キャリアガスの組み合わせが多様
大気中・溶媒中で安定な原料を選定すれば、(MOCVD等と異なり)気相中での反応はほぼ無視できる
(溶媒が水の場合)高純度化が容易:意図しない不純物が混入しづらい
原料溶液の残渣洗浄が比較的容易(溶媒で洗浄可能)
(溶媒が水の場合)加熱水蒸気により酸化の促進が期待できる
欠点
溶媒に対して難溶の塩では原料輸送量が増やせない
濃度を上げて原料輸送量を増やすと溶液の粘度が増加し、霧化量(=輸送量)が低下する
凝固点・沸点も変化する
基板表面に液滴が到達する構成の場合、気化熱で基板の温度が低下する→生成物の結晶性が低下、原料由来の不純物が取り込まれやすい(後述)
反応に気液固の三相混合流が関与するため、反応過程が複雑
反応炉中の圧力次第で溶媒の沸点が変わるため、極端な低圧での成長は原理上不可能
(CVD全般の問題点として)原料由来の炭素・水素不純物が生成物中に取り込まれる→ミストCVDでは溶媒由来の不純物も取り込まれる(水の水素等)
現行のミストCVD装置全般の問題
大気圧での成膜:流速の向上や熱対流の抑制が困難
除害装置がほぼ無いor適当:作業者の安全性、除害のノウハウが蓄積しない
溶液の量・濃度・温度等で霧化量が変化するため、原料輸送量が安定しない
原料溶液の安定性(不活性気体中であればある程度改善できるはず・・・)
・Cold-wall式
試料の加熱にセラミックヒータ(~600℃)を使用、基板上流での不要な反応を低減
・ガスボンベ不使用、自己停止機構
キャリアガスは空気であり、排気側から真空ポンプで吸入することで上流側にガスボンベを必要としない
真空ポンプの故障等で吸入が停止した場合原料の供給が自動で止まるため、反応暴走・内圧上昇が原理上起きない
吸気量の制御で減圧成長が可能、成膜条件の拡張および気相反応抑制・膜厚均一性の向上が期待できる
・除害機構
分解後のガスおよび未反応の原料は簡易のウェットスクラバーで反応・トラップしてから大気に放出している
v1:試作、霧化・加熱機構の動作を確認 NT高の原で展示
v2(2023):展示用に設計、持ち運びやすいパッケージに MFT2023で展示
v3(2024):成膜容器の小型化&上面に測定・観察用のビューポートを追加、ミスト導入口を横側に変更
MFT2024で展示
v4(2024-2025):継手の変更(クイックタッチ→PTFEタケノコ)、ミスト輸送配管の内径増大
PTFEが溶ける・吸排気ポンプに液滴が入る問題
v5(2025):部品設計用の3DCADをFusion→FreeCADに移行しモデル再作成、基本設計の見直し
ミスト生成容器の溶液漏れ対策&ガラス不使用化に向けた設計、生成容器外の水循環/水抜き機構追加、成膜容器として多孔質アルミナを採用
熱対流・流量不足による原料散逸、ヒータ引き出し線の取り回し問題
原料に使えそうな材料の調査
v6(2025-2026製作中):成膜容器・排気系の構造を大幅変更
将来的な発展に向けたtodo
・ヒータの変更(~1000℃)による成膜温度向上、温度コントローラーの追加
・構造の刷新(耐熱/耐薬品性の材料、必要に応じて観察窓・継手周辺の水冷等)
・in situ測定機構の追加(反射測定)
・(今は考えなくても良いが)気相反応の抑制→face-down(基板固定どうする?)
水等の溶媒に溶け、大気中で安定な塩であれば使用可能
酸
クエン酸系→入手性〇、分子量大のため炭素混入しやすそう
文献を軽く見た感じ塩の熱分解温度が高いのでHot-wall(電気炉に石英管を入れ、その中で成長)が良いかも?
酢酸→入手性〇、刺激臭(人間にとって辛い)
塩酸→入手性〇、ステンレスが侵される(塩素とあわせて意図しない不純物のもとになる)、原料分解温度はやや高め
硫酸、リン酸→入手性〇、原料の熱分解が難しそう、配管内に長期間残留の可能性がある
アセチルアセトン→他機関の研究でしばしば用いられる。入手性が良くない・・・
様々な金属と錯体を作るが、溶解度が低い塩は塩酸等の強酸と併用されることが多い
真空中での加熱では200℃前後で熱分解が始まる塩が多い J. V. Hoene et al., J. Phys. Chem. 62 (9), 1098 (1958).
塩基(両性元素、錯イオン)
水酸化物→強塩基のためガラスを腐食する(=ミスト容器劣化+コンタミ)、熱分解が困難
アンモニア水→高濃度溶液で錯体を形成する金属はある、高濃度溶液は入手困難?
炭酸塩、炭酸水素塩→低温で分解するが水酸化物になることが多い、難溶の塩が多い
比較的低い温度で酸化物になるものであれば・・・
総じて、酸より原料輸送量があまり大きくできないと思われる
金属
有機酸や塩酸に溶解する材料で、比較的人体に安全なものを選ぶと亜鉛、マグネシウム、鉄、アルミニウムあたりか
※有機金属化合物は無機金属と比較して体内に吸収されやすいため、取り扱いに細心の注意を払うこと
仮に人体に安全であっても曝露は可能な限り避けること
加えて、廃液・排気ガスは可能な限り中和・希釈を行い無害化すること
亜鉛:酸にも塩基にも溶けるが、マグネシウムと比べ反応は穏やか
酸化亜鉛を溶かす方が早いかもしれないが、酸化亜鉛成膜のために行うのは本末転倒
蒸気圧が高いので扱いに注意
マグネシウム:塩酸と激しく反応する 塩化マグネシウムを買ってくるのが早い
鉄:未着手 容器と配管がかなり汚れそう
アルミニウム:酸に対して容易に溶けるが、酸化アルミニウムの使い道が絶縁膜くらいしか思いつかない
II族に対するドーピングや、III族同士の混晶でバンドギャップ変化に使えるかも?
銅:酸との反応が非常に穏やかなので出発する原料は金属銅ではなく酸化銅が良さそう
コバルト:塩化コバルトから出発するのが楽か
インジウム:酸化インジウム系導電膜が作製可能だが、インジウム化合物は発がん性や肺気腫等の人体に対する悪影響を及ぼす報告が多数見受けられるため自宅で迂闊に取り扱うべきではない材料だと考える
スズ:酸化スズが透明導電膜に使えるが、インジウムと同様肺に対する悪影響が報告されている(スズ肺)
鉛:論外
尿素→熱分解で窒素ドープできないか?
イベント等で動かす際はホウ酸を使って酸化ホウ素の膜を成膜している
入手性が良いうえ人体にとってほぼ無害で、調製も水に溶かすだけでたいへん使いやすい
反応後のガスは刺激臭、また有機化合物・塩化物系の分解反応を考えると何かしらの酸性ガス+有機ガスが排気に含まれていると考えられる
成膜容器下流に流れる排気ガスは真空ポンプで吸い込み、スクラバーに吹き込んでいる
スクラバー:水に重曹等を溶かして酸性ガスを中和している(これで刺激臭はだいたいなくなる)
有機系のガスは多孔質素材で吸着or水に少しだけアルコールを加えて溶かしこむ?
多孔質フィルタは湿式スクラバーとは別に設ける、コンプレッサーに用いられる水分離用の銅製多孔質フィルタエレメントが入手性・組付けの点で楽か
→反応後ガス+水分で銅が若干溶けだすことがあるが、大気解放前に反応して排気ガスの危険性を低下させているという意味では良さそう。Al/Mgの投入・電解等で銅を析出・濾過させると溶液中から粗銅が回収できる
以下画像等
初期の実験系(仮組時)
Si基板上に酸化ホウ素の成膜テスト
基板端の膜厚が厚く、干渉色で色が変わっている
Si基板上に酸化ホウ素の成膜テスト
原料が付着しているだけ?
ヒータが近すぎてPTFEが焦げた
自作したミストCVD(v2)の動画(一部パネル無し)
ミスト導入配管の径を太くすることで壁面での結露を低減
MFT2023で展示
自作したミストCVD(v2)の動画
成膜容器上側にビューポートを取り付け→その場観察が可能に
ミスト流は成膜容器側面から対向させて導入、成膜容器はミスト生成部よりわずかに高い位置に配置している
→配管管壁で結露した液滴はミスト生成部に戻るため、成膜容器への流入を抑制
成膜容器の全体的な構造としては縦型、ファインチャネルに近い
成膜容器のフットプリントを小型化(60mm角→50mm角)、製作コスト低減
MFT2024で展示