〇近代日本経済史・経営史
幕末・明治維新から現在に至る日本の経済・経営・社会の歴史的研究、および日本と欧米あるいはアジア諸国との比較史的研究。
〇消費社会論
消費文化と小売業、広告、マスメディアなどの関係についての歴史的・社会学的研究。
ゼミの目標は、「根拠のあるユニークな見解を導き出す力」 と 「他人を説得できるプレゼンテーションの能力」 をゼミ員全員が身につけることです。 ゼミのさまざまな活動は全てこの目標を意識して行っています。
ゼミの雰囲気はアットホームで風通しが良いです。 ゼミ員同士も学年を超えて仲が良く、先生も実にフランクに接してくださいます。 先生は一人一人の個性を大切にしてくれる、とても面倒見の良い優しい方です。 また、やる気のある学生に対してはどこまでも応えてくれます。
経営史を学ぶにあたっての最終的な目標は、「現在」の企業経営の本質を理解することです。
今日の企業が直面している様々な問題を把握するためには、それらが歴史的に形成されてきた過程を理解することが不可欠なのです。経営史は、経営に関する諸問題を、歴史という長いタイムスパンの中に置き、少し離れたところから鳥瞰することによって、現在をより深く洞察しようとする学問です。
ゼミでは、これまでの経営(組織や戦略など)や経済(政府の政策など)の歴史を勉強すると共に、今日賞賛されているコア・コンピタンス経営は本当に良くて、日本型経営は本当にダメなのか?本当に有効なコーポレートガバナンスとは?など、歴史というツールを用いて、現在の問題の現状分析・対策の立案を議論しています。
「経営史」というと、昔のことばかり調べているというイメージがあるかもしれませんが、これらを見てもわかる通り、経済史や経営学、会計学や社会学とも密接に関わっています。
話を恋愛に置き換えてみて、例えば、2年間付き合っていて、ラブラブだったA君とBさんのカップルが、最近ケンカして仲が悪いらしいとします。
この問題を、最近のデートの回数などを分析して、原因を探ることもできるでしょう。しかし、例えば、半年のタイムスパンをとって考えてみるとします。もしかしたら、BさんがC君と遊んでしまったという事実が見えてきて、それが二人の仲を悪くしたと考えることもできるかもしれません。さらに、2年のタイムスパンを取ってみると、A君は、Bさんの顔だけで好きになって告白していて、最近、Bさんの性格面で嫌になっていると考えることもできるかもしれません。また、20年のタイムスパンをとってみると、A君とBさんの生まれや育ちが違いすぎて、根本的に合わないのだということが見えてくるかもしれません。
二人のケンカの直接の原因が、例えば、A君がBさんの誕生日を忘れていたということだったとしても、歴史をかんがみる事で、より深く、より本質を把握することができるのです。
今日わたしたちは無数の商品に囲まれ、それらを購入・消費して生きています。
消費社会論とは、「人はなぜ消費するのか」という問いに対して、合理的に説明がつかない部分について研究していく領域です。つまり、今日のわたしたちが行う消費活動は、単なる生命維持や生理的欲求の充足を超えたものであり、また、価格のみに左右されて商品を購入しているわけではありません。わたしたちが行っている消費は、他人とのコミュニケーションという側面を持っており、広告、ブランド・デザイン・ファッション(流行)などの影響も受けているのです。言い換えるならば、わたしたちは消費を通じて、見られたい自分を演出したり、他人にさまざまなメッセージを発信したりしているのです。
この消費者に対して次のような理論があります。
T.ヴェブレン「顕示的消費」
➤自分がヒマをもてあましている裕福な階級であるということを人に見せるために消費する
D.リースマン「他人指向型消費」
➤自分が帰属する集団の「人並み」に消費する
J.ボードリヤール「記号的消費」
➤他人との違いを示すために消費する
現在の私たちの行動でいうと、「車でもただ走ればいいというのではなくスポーツカー」 「同じバッグでも高価なルイ・ヴィトン」 「同じ住むなら少々高くても代官山のようなイメージの良い場所」「とびきりおいしい料理が食べたい」 「友達にさすが、と思わせる大学」 「仲間内や雑誌で話題のコンサート」 などなど。私たちは高価なもの、新しいもの、かわいいもの、おいしいもの、自慢できる体験、おしゃれな空間などを選択して消費しています。
このように、商品は社会的意味において消費されており、今日における消費は、経済合理的な行動というよりは、文化的な行動です。そして、このような意味における消費が大衆レベルにまで広がった社会を消費社会といいます。
ゼミでは、消費社会はいつ頃どのような過程を経て成立したのか、それは人々の生活をどのように変えたのか、近代小売業(デパート、スーパー、コンビニ等)、広告、ブランド、デザイン、ファッションなどは消費社会の展開とどのような関係をもつのか、また消費社会はどのような社会問題を招いたのか、というようなトピックを、多様な視点(歴史学、社会学、経済学など)から検討しています。
広告、ブランド・デザイン・ファッションなどについては、マーケティング論の領域でもありますが、消費という事象を、一企業や一個人ではなく、社会の中で起こっている事象として大きく捉えるところが、マーケティングとの違いだといえるでしょう。
2023年度、ゼミで取り上げた文献を挙げておきます。 興味のある方はぜひお読みになってください。
・三浦展 『第四の消費 つながりを生み出す社会へ』 朝日新聞出版 2012
・満薗 勇著『商店街はいま必要なのか』講談社現代新書 2015
・貞包 英之著『消費社会を問いなおす』ちくま新書 2023
・A.D チャンドラー著 丸山惠也訳『大企業の誕生』 ちくま学芸文庫 2021
・ジャン・ボードリヤール著 今村仁司・塚原史訳 『消費社会の神話と構造』 2015
毎週2回(月曜4・5限、木曜4・5限)のゼミの時間は、いずれも平野先生・4年生・3年生全員が出席し、輪読やディベート、卒業論文の発表などを行っています。
先生が指定した経営史や消費社会論に関係のある文献を数人で分担し、担当部分の要約(筆者が問題としている事とその答えについて)とプレゼンター自身の批評(根拠を提示して筆者の主張を批判・補強する)をプレゼンします。プレゼンに際し、プレゼンターは、発表する要約と批評をまとめたレジュメも作成し配布します。その後、筆者の主張やプレゼンターの批評について全員で活発に議論します。
プレゼンターは、表現力や理論的な説得力が身に付き、思いがけない質問をうけることで発想も広がります。
例えば、「日本企業は年功制を全廃して、成果主義を全面的に導入すべきである」といったようなお題が与えられ、YES側とNO側の2チームに分かれて議論します。自分のチームに有利な史料を探したり、作戦を立てたり、予めグループワークを伴います。
ディベートは相手を言い負かすのではなく、オーディエンス(ジャッジ)をいかに説得するかを競うものであり、第三者であるオーディエンスが理解できるように、限られた時間内で説得力ある話をしたり、相手の主張を聞いて即座に反証するなど、思考スピードが高まります。
ゼミ員が毎回交代で、興味のある時事問題(政治、経済、文化、スポーツなんでも可)についてスピーチを行い、それについて全員で議論します。
様々なニュースについての興味・理解が深まります。
必須授業
ゼミの専攻分野の専門知識を補うために、三田の授業では平野先生担当の以下の授業が必須授業に指定されました。
①経営史
②産業史各論 [比較小売業史]
卒論には比較的早い時期から取り組み始めます。具体的には、3年生の夏休み前にはテーマを仮決定し、三田祭が終わる11月には本格的に取り組み始めます。
卒論のテーマは、各自の問題関心を最優先にして決めることができます。テーマは先生の守備範囲である経済史・経営史、消費社会論に入っているに越したことはありませんが、先生は大変博識でいらっしゃるので、可能な限り私たちの関心を尊重してくださいます。ただし、その「関心」とは、単なる思いつきではない、自分自身にとって切実なものであることを求められます。本当に自分が知りたいんだというテーマに対するパッションが重要なのです。
≪2023年度卒業生のテーマ≫
・映像作品内で描かれる 家族の変化
・ペットの家族化と消費の個人化
・2000年以降の市街地再開発 事業の特徴
・近年のレトロブームの 特徴と背景
・青年の自己開示度に関する検討-対面と非対面の比較から
・アニメ・漫画の消費変遷―動物化するポストモダンーオタクから見た日本 社会から考えるー
≪過去の卒業生のテーマ≫
・観光地における人気形成要件の検証―長崎県長崎市を事例として―
・銀行は何を伝えてきたか?―銀行の新聞広告からよみとるメッセージ―
・インターネットビジネスのコングロマリット型多角化による範囲の経済性の検証―買収型:楽天と提携型:ヤフーの事例をもとに―
・オールタナティブ・ツーリズムの限界性について―近代観光の必然性―
・消費社会における広告音楽の機能―広告音楽の変容と日本の消費生活・音楽生活の変容―
・公益的視点による企業の農業参入形態・その経営方式の検証―ワタミ、カゴメを事例として―
・日本の90年代ファッションの特異性の考察
・現代日本における女性と就業―スウェーデンとの比較から―
・都市における高層建築の象徴性とそれに伴う経済的効果―消費社会論における考察から―
・韓国オンラインゲーム産業成長の要因―日韓プレイヤー比較を基に―
・化粧品ブランドの選択における店舗の「雰囲気」の考察
・日本プロ野球発展とメディアの関係―メディアの視点から見たプロ野球人気の変化―
・読書から見る明治期―近代型読書への再考察―
・虎屋の処世術―なぜ市場性と高級感を両立し得たのか―
・日本における中食市場の成長要因についての考察
・日本の新しい家族モデルとしてのワーク・ライフ・バランス
・近代建築の保存と再生の可能性
・戦後日本における販売信用の役割とその変遷
・日本におけるカタログ通信販売の発展過程について
・佐藤雅彦VS箭内道彦―消費財メーカーのCM制作におけるパワーバランスの変遷とその要因―
・所得格差が家族形成に及ぼす影響―議論の再考と『実体以上の格差感』という問題提起―
・日本アニメから見るジェンダーの変遷
・戦後の住宅志向の変遷
・近代日本における企業家松永安左ェ門の果たした役割
・現代日本におけるスピリチュアル・ブームについて
・日本における現代アートの可能性
・食のレジャー化の変遷
・戦後日本におけるデザイン論の変遷
・空気を読むとは
・中小同族企業の事業継承について
・テレビドラマと社会の関係―ドラマ「白い影」の起こした現象から考える
・日本における自動販売機の普及
・他の小売業態との比較から見る、日本における百貨店のイメージ形成戦略について
・労働時間の差から見る戦後ドイツと日本
・アウトレットモールブームはなぜ起きたのか
・昼食の変化から見る日本人の消費
・ルイヴィトン消費から現代の日本女性(若者)を読み解く
・キャラクタービジネスから見る日本とアメリカ
・日本におけるコメ離れの原因~アメリカ食糧戦略の視点から~
・東京の文化発信地についての考察―1970年代~2000年代までの渋谷を中心に―
・Jリーグの成功要因
・スポーツのエンターテイメント化について
・食料自給率の低下と日本国民の持つ農業政策や農に対する概念
・戦後日本消費社会における消費者法の影響について
3年生は春学期の間、課題としてブックレポートとペーパーレポートを定期的に提出します。
ブックレポートでは、自分で好きな本を選び、その本の中で筆者が問題としている事とその答えを要約し、それに対して批評を行います。ペーパーレビューは、本ではなく、実際の研究者が専門誌に投稿した論文について同様のレポートを行うものです。
平野先生が、文章の構成や形式、内容についてチェックをしてくださいます。
文章のエッセンスを引き出す能力・相手にも分かりやすく伝える文章力が身に付きます。
商学部では、三田祭期間中にゼミ単位で共同論文を発表することになっており、3年生が夏頃からこの三田論に取り組み始めます。
秋に入ると、三田論の作業で頻繁に集まったり、調べたりすることが増えるので、3年時の一大イベントかもしれません。
2023年度の三田祭論文
研究発表のテーマは、「学生街の変容とその要因-日吉・三田を通して-」です。
毎年4月(新歓合宿)と9月の中頃(夏合宿)に全員参加の合宿が行われます。
前者では年度初めのディベート、後者では3・4年生の卒論の中間発表や即席ディベートを行います。もちろん、勉強以外でのレクリエーションや飲み会も充実しています。みんなの仲が一段と深まる機会です!
2023年度は、つくばで2泊3日の夏合宿を行いました!三田論やディベート等の勉強企画だけでなく、筑波山登山も行い、非常に充実した合宿になりました!
聞き慣れない言葉かもしれませんが、エクスカーションとは「見学遠足」のことです。前期と後期各1回ずつほど、休みの日に博物館などに出かけます。
今まで行ったところは、ニュースパーク(横浜市)、日本郵船歴史博物館(桜木町)、江戸東京博物館(両国)、六本木ヒルズ「世界都市展」、東京ドームシティ「NHKプロジェクトX展」、日本銀行、東京証券取引所などです。博物館だけでなく、美術館、街の散策などもあります。
終わった後はだいたい懇親会が行われて盛り上がります。
2023年度は8月に港区近辺、2月に横須賀に行ってきました!
8月のエクスカーションでは寺田倉庫(品川)、港区立郷土歴史館(白金台)、21_21 DESIGN SIGHT(赤坂)などを訪れました。2月のエクスカーションでは猿島を訪れたのち、船に乗って「横須賀軍港めぐり」をしました。
2000年度にスタートした平野ゼミでは、毎年12月頃にOB・OG会を開催し、先輩方との交流をはかっています。
コロナにより数年間開催ができておりませんでしたが、2023年度はコロナ明け初のOBOG会を開催することができました!