フォーラム2


コミュニケーションと教育

 


報告者:藤井  佳世(横浜国立大学) 


司会者:野平 慎二(愛知教育大学) 


コミュニケーションにおける相互作用に着目した思想家の一人として、ユルゲン・ハーバーマスを挙げることができる。ハーバーマスは、フランクフルト学派第二世代の社会哲学者である。若い頃アドルノの助手を務め、アーベントロートに教授資格論文を提出し、ハイデルベルク大学、フランクフルト大学を経て、マックスプランク研究所の所長を務め、再びフランクフルト大学教授に就任した。その間、理論的内容は変遷を遂げるが、初期の頃から一貫してコミュニケーションや意思疎通の重要性を論じてきた。その理論は、ドイツにおける批判的教育科学(解放的教育学)の興隆を促し、解放と教育の議論を深め、教育改革期における教育実践に変化をもたらすなど、教育/教育学へ影響を与えた。ハーバーマス自身、教育に関する論考の中で民主化とコミュニケーションを重視する考えを説いていた。


ハーバーマスが長きに渡って取り組んだコミュニケーション論の再構成を通して見えてくることは、主体形成と社会批判を結びつけようとする思想である。主体形成は、第一世代と同様、人間の成熟や自律を中心に据えており、政治的主体に関する理論といえる。特に、ハーバーマスは主体形成をコミュニケーションから説明し直すことによって、社会批判とつなげている。社会批判について、ハーバーマスは、ホルクハイマーとアドルノによる『啓蒙の弁証法』における社会批判の理論枠組みに関して、現状の問題を指摘し続けることしかできないため十分な批判性を持ち得なかったと捉えた。それゆえ、ハーバーマスが提案したのは、生活世界と結びつくコミュニケーションや討議である。


本報告では、戦後ドイツにおける批判理論を主体形成と社会批判の思想として捉え、ハーバーマスとその後に焦点を絞り、コミュニケーションにおける相互作用を軸にすえることから現れ出る教育について考えみたい。


※ 対面+オンライン同時双方向型