シンポジウム


学びのメディア変容の思想史的/同時代的考察

―GIGA スクールの時代をどう見るか―


報告者:奥井 遼(同志社大学)

國崎 大恩(福井県立大学)

広瀬 綾子(新見公立大学)


司会者:西村 拓生(立命館大学)


【概要】

新型コロナウイルスによるパンデミックは、私たちの教育や研究のあり方を大きく変えてしまった。今後、ワクチンや治療薬が普及したとしても、もはやかつての日常には戻れない、いわば文明史的な変化に私たちは直面しているように思われる。そのような大きな変化の一つのあらわれが、学校教育へのICT の急激な導入拡大である。とりわけ日本では、2018年の経産省の「未来の教室」実証事業から始まり、コロナ禍直前の2019 年末に文科省が打ち出していたGIGA スクール構想が、感染拡大・一斉休校を契機に一気に加速して実現に向かっている。他方、こんな話もしばしば耳にする。すなわち、シリコンバレーで最も人気がある学校は(低中学年では)ICT 機器を一切使わないシュタイナー学校である、と。これは何を意味するのか。ICT の教育への導入は、子どもたちの育ちや学習過程や人間関係に大きな変化をもたらすこと、そしてそれが決してポジティブな影響だけではないことを、当の技術の開発・販売者たちが直感している、ということかもしれない。

しかし今、日本では、ICT 導入に対して教育現場にあった様々な疑問や戸惑いを、「子どもたちの学びを止めない」という大義名分が押し流しているかのようである。その奔流に対して、敢えて立ち止まって、そのことの意義と危険とを反省することは、教育学の重要な使命であるように思われる。とりわけ、過去においても学習のメディアの変容が教育のあり方を、延いては人間のあり方そのものを、大きく変えてきた歴史があることを、私たちは知っている。その歴史に照らして、今、コロナ禍を契機に進行していることを考察してみたい、というのがシンポジウムの企画趣旨である。

ご登壇いただく三人の会員の現時点での報告の見通しは以下の通りである。奥井遼会員には、オンラインコミュニケーションやテレプレゼンスに関する現象学的研究を踏まえて、ICT を含めた現代テクノロジーと私たちの生活世界、とりわけ身体的コミュニケーションとの関係を考察していただく。國崎大恩会員には、新教育(アメリカ進歩主義教育とデューイ)における学習メディアの変容の思想史的考察を踏まえて、ICT 導入に関する今日的議論から「学ぶ、教える」という関係性の問い方そのものの問い直しを展望していただく。広瀬綾子会員には、シュタイナー学校での(高学年での)ICT 導入に関する思想的・原理的考察を通じて、そこから今日の日本の教育におけるICT 導入の根拠や背景を照射し、問い直していただく。