04.ああ、憧れのレトロ

 レトロ家具・レトロ雑貨。そう聞いて心踊る人がFalloutファンには多いかもしれない。もちろん筆者もその中の一人なのだが、「レトロ」とひとことに言ってもその時代や背景は様々で、日本では映画「ALWAYS 三丁目の夕日」などに代表される風景を思い浮かべることが多いのではないだろうか。
 日本で「レトロ」といえば、今や過去となりつつある「昭和の時代」を彷彿とさせる(昭和生まれの筆者としては多少の違和感もあるのだが、昭和という時代は60年以上の長さを持つためあながち間違いではない)もののような気がする。厳しく怒りん坊な父親、それをなだめる主婦、半ズボンをはいたやんちゃな少年たち。今ではすっかり行われる機会もなくなったであろう「ちゃぶ台返し」なども、そんなレトロな昭和の思い出だ。
 では、変わってアメリカにおける「レトロ」とはなんだろう? そもそも「レトロ」という言葉の持つ意味とは? ここではそんなアメリカのレトロ事情について紐解いてみよう。



「レトロ」という言葉の持つ意味

 まずは今回のテーマである「レトロ」という言葉について調べてみよう。「レトロ」とは英語の「retro」をそのままカタカナ表記した言葉で、「復古調の」「懐古的な」といった意味を持つ。また、現在では「再流行」「リバイバル」といった意味も持つようだ。
 似たような言葉に「ルネッサンス」があるが、これは14世紀イタリアで古典・古代ギリシャやローマを「再生」「復興」する文化運動という、ある一点の歴史にフォーカスしたものだ。そう考えると「レトロ」もまたある一点の、もしくはある一定の範囲の歴史について指しているように思える。
 では、その正体を探ってみよう。アメリカにおける「レトロ」の概念とはなんなのか。ネットなどで「レトロ アメリカ」と検索をかけると、ほとんどの検索結果は「レトロアメリカン雑貨・家具」である。「レトロ」と「アメリカン雑貨・家具」はセットで使われることが多いようだ。
 そこで、今度はその「レトロアメリカン」な家具や雑貨について見てみる。その多くは50年代から60年代アメリカをイメージしたモノのことを指すようだ。また、実際その時代に使われていたビンテージ品などもこれに含まれる。
 ダイナーの装飾に使われるようなブリキの看板や広告ポスター。パブによくあるサインミラー。そして古臭いようでどこか未来的で新しいデザインの家具や食器たち。見ているだけでも楽しい世界がそこにはある。アメリカにおける「レトロ」とは、どうやら「その辺」を指すようである。



レトロ、そのモノ的デザインとは

 アメリカにおける「レトロ」がどんなものなのか大体わかって来たところで、今度はそのレトロなモノたちが持つデザインについて「THE ART OF FALLOUT4」を片手に勉強してみよう。手元にある人は、是非一緒にページをめくってみてほしい。ちょうど280ページ目から、ゲーム内の家具などが少量ながら紹介されている。
 ざっと見て、何か気づくことはないだろうか。そのほとんどが角を取ったような、丸い形をしているのがわかると思う。現代日本では直方体な自動販売機が、Falloutの世界ではごろんと丸まった形をしている。公衆電話もまた、そうだ。
 インスティチュートの内装はやや直線的で「現代的」な印象も目立つが、そうではない環境のモノたちは揃って曲線で構成されたデザインを持っていることがわかるだろう。これが「レトロなアメリカ」が持つデザインの特徴のひとつだ。
 そんなデザインが多用された時代を、アメリカでは「アトミック・エイジ」と呼んでいる。日本語に訳せば「核の時代」「原子力時代」となるだろうか。自動車の項目でもふれたが、1950年代のアメリカは原子力とその活用に湧いていた時代だ(ついでに現代の感覚からすると、当時の人々は頭も少し「わいて」いたように思う)。
 さらに掘り下げると家具・インテリア業界的にはその辺りの時代を「ミッドセンチュリー」「ミッドセンチュリー・モダン」、さらにその中で生まれた工業的な美しさを持ったデザインを「インダストリアル・デザイン」と呼んでいる。1940〜60年代に興隆したモダンなインテリアデザインの総称だ。どちらかと言えば兵器・科学的または政治的な意味を持つ「アトミック・エイジ」より、現在インテリアショップなどで見かける謳い文句「ミッドセンチュリー」の方が聞き覚えのある人も多いかもしれない。



知れば知るほど欲しくなる

 ミッドセンチュリーにおけるデザインの特徴には、鮮やかでポップなカラー使い・プラスチックや木材、耐熱ガラスなどを材料とした流線形のデザイン・どこか「未来的で宇宙を思わせる」図案……などがある。「ミッドセンチュリー」や「レトロフューチャー」という言葉で画像検索をかければ、「ああこれ見たことあるぞ」というモノもいくつかあるかもしれない。
 そして見てしまうと、つい欲しくなってしまうのがオタク心というものだ。フォールアウトな、そしてレトロなモノに囲まれて生活できたらどんなに幸せだろう! そんな気分になるのである。
 ここでは、そんな「つい欲しくなってしまうモノ」を探すために役立ちそうな、具体的なデザイナーや商品の「名称」を紹介していこう。


 ミッドセンチュリー当時のアメリカで著名な家具デザイナーとしてはFalloutのゲーム内にもそのデザインを見ることのできる「ネルソン・クロック」のジョージ・ネルソン、近年リプロダクト品が出回り安価で手に入るようにもなった「シェルチェア」のチャールズ&レイ・イームズ、現在でも日本で入手可能な「あかり (Akari)」シリーズが有名なイサム・ノグチなど。いずれもインダストリアル・デザインの雄ハンマーミラー社が輩出したデザイナーたちである。
 変わって雑貨はというと、筆者がすぐに浮かぶのは「ファイヤーキング・マグ」だ。耐熱ガラスを使用した分厚いぽってりとしたマグカップで、当時広告媒体としても多く使われたことからビンテージ品をコレクションしている人も多い。他にもレトロ雑貨といえば本題からは少し外れるが、1988年創業のインテリア・雑貨メーカー・ダルトンや「遊べる本屋」でお馴染みのヴィレッジヴァンガードなどもよくレトロアメリカンなモノを取り扱っている。
 余談だが、筆者は長いことダルトンを海外の会社だと思い込んでいた。正確には日本の静岡に本社を置く、輸入雑貨・卸売業者とのことだ(ダルトン会社概要より)。決して回し者ではないのだが、ダルトンは市場を広く展開しており、かつ気軽に買えるプチプラな雑貨が豊富なのでおすすめである。
 そして最後に。もしおすすめのレトロ雑貨やお店があったら、ぜひ筆者に教えてほしい。きっと喜び勇んで見に行くことだろう。


 それでは、よきレトロライフを。



2019.03.12 初版
2023.09.14 掲載