02.黄金期の象徴、自動車

 アメリカの黄金期、と聞いて最初に思い浮かべるものは何だろうか? 良くも悪くも活気づいたウォール街、「理想的な」アメリカの家庭、軽快できらびやかな音楽——色んなものがあると思う。しかしそんな象徴たちの中でも一際輝いているもの、やはりまず挙げるべきは自動車ではないかと私は考える。そう、渋くてゴツくてかっこいい「アメ車」と呼ばれるものである。
 ゼネラル・モーターズ、フォード、そしてクライスラー。現代ではテスラモーターなど新興の自動車会社も台頭して来ているが、アメリカ自動車界のビッグ・スリーと言えば未だにこの三社の名前を挙げる人が多いのではなかろうか。それほどまでに、彼らの自動車は50年代のアメリカに浸透していたのだ。
 50年代のアメ車の外見的な特徴は以下の通り。アメリカの気候に則した大きく頑丈な車体、キャデラックに代表される「航空機の尾翼」を模したデザインのテールフィン(実際は単なる飾りで、空気力学的な効果は無かったと言われている)、そして装飾的な意味合いも含めて発展し起用されたクロームメッキ。さながらアメリカ自動車の歴史における桃山文化である。
 そして時代が下るごとにそれらはスタンダードとなったV8エンジンを搭載しはじめ全体的にパフォーマンスが向上、のちに「マッスルカー」と呼ばれるようになる。ここまで来ると70年代に入ってしまうので詳細は割愛する。
 では、「Fallout」の世界における自動車はどうだっただろうか。例えばFalloutの世界ではクライスラス・モーターズの「コルベガ」や「ハイウェイマン」と呼ばれる、どこか「現実世界の某車を彷彿とさせる自動車」がマップのあちこちに放置されていた。
 旧作の2では「ハイウェイマン」にファストトラベル代わりとして乗ることができたそうだが、現存し稼動する車がFallout世界にほとんどないのは悲しい事実である。ゲームシステム上の制限ももちろんあるのだろうが、栄華を極めた「アメリカン・ドリームの塊」を残骸としてマップ各所に放置することが、ある意味ではFallout式の「お茶目な皮肉」なのかもしれない。
 ちなみにこれらFallout世界に放置されている車両には、銃撃を受けたりすると少し燃えたのちに派手な爆発を起こす……というギミックがあった。車といえば炎上と爆発、そしてそれに巻き込まれることによる一撃死である。これは(シューター系)ゲームの宿命・お約束とも言えるだろう。ただ、Falloutシリーズの場合厄介なのがその爆発の元となる「燃料」だ。
 Fallout世界の自動車は、ゲームの代名詞とも言える「パワーアーマー」にも使用されている「フュージョン・コア」を動力源としている。早い話が核で動く車——原子力自動車である。
 今、この現代社会で「核で動く車」と言うと非常に不穏かつ危なっかしいものにも聞こえるが、1950年代のアメリカでは真剣に、本気で、「原子力で輝かしい未来が訪れる」と考えられていたようだ。当時は交通機関などにおいて原子力推進が研究されていたらしく、それを自動車にも応用しようと考えるのは何ら不思議なことではない。人間は技術の応用と小型化が大好きな生き物だ。身近な自動車にそれを適用しようとするのは当時としても夢のある話だったに違いない。
 実際、小型原子炉を動力源とした自動車は現実のアメリカにおいてもいくつか考案されていた。第二次大戦後のエネルギー不足を解決する手立てとして原子力が注目されたのだ。
 原子力自動車の代表的なものとしては「フォード・ニュークレオン」「アーベル・シンメトリック」「シムカ・フルグル」「スチュードベーカー=パッカード・アストラル」「フォード・シアトリティ XXI」などがある。いずれも原子炉や原子力電池を採用した「未来的な」コンセプト・カーだ。
 現実世界では実現には至らなかったが、原子炉はアメリカで1954年に就役した世界初の原子力潜水艦「ノーチラス」を筆頭にオハイオ級・ロサンゼルス級など、原子力電池は近年では冥王星の鮮明な写真を撮影したことで一躍有名となったニュー・ホライズンズなど宇宙の無人探査機や衛星に起用され、それは今日も稼動している。
 これは仮定の話だが、もしかしたら我々が老人となるだろう2070年代に原子力自動車が実用化され、さらに古き良きアメリカ、ミッドセンチュリー・デザインのリバイバルが起きたりでもしたら……その時は、Fallout世界のような自動車をこの目で見ることができるのかもしれない。
 楽しみではないと言えば〈嘘〉になるが、そんな日が来るまでは、Fallout4のアートブック・自動車デザインのページを見てワクワクするだけに留めておきたいところである。



2019.03.11 初版
2023.09.14 掲載