03.皆がハネた、スウィング・ジャズ

 ゲームをプレイしている内に、そのゲームが起用している音楽も好きになった……そういう経験はないだろうか。ここ20年ほどでゲームミュージックもその地位と音楽としてのジャンルを確立し、随分とポピュラーな存在になった。そしてゲームの表現の幅がより大きく広がるようになった近年、ゲームオリジナルの楽曲ではなく既存の版権曲をゲームの世界に組み込むゲームメーカーも多くなって来た。Falloutシリーズもそのひとつだ。
 既存の版権曲であるということは、気に入ったアーティストが居ればその音楽ジャンルやアーティストのみに絞ってアルバムなんかも購入出来るということだ。Youtubeに公式MVがアップされていれば、それを探して鑑賞することも出来る。
 しかし、その音楽が一般的にどういうモノとして市場やリスナーに認知されているのか? 検索するにもどのような文言で検索すれば良いのか? そんな疑問を解決するために、1950年代前後のアメリカ音楽について紐解いていこう。

 Fallout世界で飛び交う音楽の多くは1930〜50年代のアメリカで実際に流行っていた楽曲たちで、その多くは音楽ジャンル的に「(アメリカにおける)オールディーズ」「スウィング・ジャズ」「ロックンロール」と呼ばれるものだ(ニューベガスはこのふたつに更に「カントリー・ミュージック」「カウボーイ・バラード」なども含まれる)。ただ現代日本で「オールディーズ」と言うと60年代の日本のフォークソングや、昭和の歌謡曲と思われる事がほとんどなのでその点では注意が必要だ。今回はその中でも作中ラジオへの出典が多い「スウィング・ジャズ」に焦点を当ててみよう。



スウィング・ジャズの歴史と構成

 スウィング・ジャズは簡単に言うと前身であるニューオリンズ(ディキシーランド)・ジャズの流れを汲んだ「新しい形態のジャズ」として1930〜40年代に流行した音楽だ。その多くはいわゆるビッグバンドと呼ばれる演奏形態で、ジャズ全体の歴史では初期にあたる。
 ジャズの大きな特徴として「即興演奏」「アドリブ」による演者同士の掛け合いが現在もあるが、当時のスウィング・ジャズでは「譜面通りに演奏する」ことが多かったようだ。というのも、当時はちょうどレコードが普及し始めた時代。それまでライヴメインで一期一会の演奏を楽しんでいたリスナーが、レコードに録音されたモノ(その多くは良質な演奏だったことだろう)と同じパフォーマンスをライヴ演奏にも求め始めたからなのだ。
 また、この頃から編曲家などの間で「密集した7thコード」を用いた「厚みがあってオシャレなハーモニー」が開拓されていった。言われてみると、この頃の歌のコーラスは何かと音の重なりが豪華だ。今時のJ-POPのコーラスだとサビでも2音(大体3度の和音か、もしくは長6度の開放和音)くらい、というところが当時は倍の4音(基本のコード3音+7度)だった訳だ。これがスウィング・ジャズに華やかさを付与している一因でもある。
 では、なぜそんなコーラスが「華やか」に感じるのか? というと。先にも述べた7th(=7度)コードの存在がまず最初に挙げられる。これは例えば「ド・ミ・ソ」という和音があった場合、その和音に根音(ルート音)である一番根っこの「ド」から7度、つまり7つ数えた音「シ」をプラスするという意味だ。鍵盤が手元にある人はぜひ数えてみてほしい。ポップス音楽理論という分野では、こうした数字や法則を使い、色んな音楽を数学的に解剖・構築している。なかなか楽しい学問である。



スウィングという言葉の重要さ

 そして一番大事なのが「スウィング」。ジャズで大事なのはスウィングすることだ、もっとスウィングして、などと今でも言われたりする、リズムの概念だ。言葉だけで説明するのが非常に難しい概念でもあるのだが、簡単に言えば普通の8ビートなどがタタ・タタ・タタ・タタ……というリズムであるのに対し、タンタ・タンタ・タンタ・タンタ……とどこかスキップするような、ウキウキするような「ハネた」リズムのことである。
 こういうリズムの音楽を総じて日本では「ハネモノ」と言ったりもする。分かりやすい例を出すと、ゲームでも流れるディーン・マーティンの「Ain't That A Kick In the Head」。アレこそスウィングの手本のような曲だ。それから、ジャズのスタンダードとして名高い「In The Mood」など。当時のアメリカ・ジャズ界では一時期「ジャズ」という言葉が「スウィング」に置き換えられてしまったくらい、人気のあるリズムだったとも言われている。
 余談だが、FO:NVのDLC「Dead Money」に登場する戦前の歌手ディーン・ドミノが二つ名として「キング・オブ・スウィング」と呼ばれていたのも恐らくこういった理由からだろう。ちなみに実際のアメリカ・ジャズ界で「キング・オブ・スウィング」と呼ばれたのはFalloutなラジオでも度々名前と曲が挙がるベニー・グッドマン。こちらは歌手ではなく、スウィング・ジャズを代表する著名なクラリネット奏者だ。



スウィング・ジャズのその後

 流行りあれば廃りあり。という訳で一世を風靡したスウィング・ジャズも時代の流れと共に新しいスタイルのジャズへとその地位を渡して行くこととなる。1950年代、マンネリ化したスウィング・ジャズの後にアメリカで台頭するようになったのは「ビバップ」。ここでアニメの「カウボーイ・ビバップ」を思い浮かべた方はいるだろうか。そう、あの「ビバップ」だ。スウィング・ジャズを継承した、もしくはアンチ的な立場から生まれたジャズスタイルだと言われている。
 スウィング・ジャズでは例え生演奏のライヴでも「譜面通りに演奏すること」「レコードに吹き込んだ通りに演奏すること」がほとんどだった。そんな中「ジャズと言えばやはり即興演奏、アドリブだ!」という一派がカウンター・カルチャーとしてアドリブ主体のジャズをやり始めたのが始まりだそうだ。流行は螺旋階段式に繰り返す、とはよく言ったものである。
 この辺りで、「ジャズの帝王」と名高いマイルス・デイヴィスとかが出て来る訳だが……興味深いのはジャズ→スウィング→ビバップと流れるジャズの歴史の中で、そのホームタウンや中心人物の人種が変わっていることである。土地はニューオリンズからシカゴ、そしてニューヨーク。人種はアフリカ系アメリカ人から白人主体の人種混合、そしてまたアフリカ系アメリカ人へ。音楽もFalloutの主人公よろしく、色んな場所を旅するのである。



2019.03.12 初版
2023.09.14 掲載