01.はじめに

はじめに

 このサイトは、イラスト・漫画・小説の投稿や閲覧が楽しめるイラストコミュニケーションサービス「Pixiv(ピクシブ)」上において2019年から不定期連載をしていたエッセイ集「Falloutで学ぶアメリカの歴史と文化」を加筆修正しまとめ直したものである。
 筆者は元々アメリカン・ヴィンテージ家具や雑貨などに代表される「古き良きアメリカ文化」が好きであったのだが、Falloutシリーズというゲームに出会い、プレイすることでそれらにより一層の興味が湧き、ゲームの世界観をより深く味わう・考察するという楽しみの傍らゲーム内世界のモチーフとなった1950年代——「黄金期」とも呼ばれた当時のアメリカの様々な物事やキーワードに関して調査を行い、自分なりにまとめてみようと思ったのが始まりである。
 なお、これはあくまで「調べ物を通した、ゲームに関する個人的なエッセイ集」であり、参考資料として各種書籍や論文などの情報も引用しているが、この本自体は本格的な研究などに使えるデータベースではないということを断っておく。ちょっとした読み物として、「こういうものもあるのか」と軽い気持ちで読んでいただけたら幸いである。



黄金期のアメリカとはどんな時代だったのか

 学生時代、ジャズをやっている恩師にこんなことを言われた。「日本の流行は、アメリカから5年遅れている。しかしアメリカもまた、ヨーロッパの流行から5年遅れている」——時間には流れというものがあり、変化や推移を測る概念であると今日の学問は提唱しているが、我々がそれを強く感じるのは主に歴史を知る場面だろうと思う。
「Fallout」というゲームにももちろん歴史があり(それはゲームとしてのものであったり、ゲーム内の世界観であったりする)、様々な「変化」がそこにはある。この章ではFalloutシリーズの根底に流れる歴史、その元となった「黄金期のアメリカ」についてざっくり、のんびりと解説していこう。
 日本では1950年代半ばから70年代はじめ頃までの20年間、「高度経済成長期」というものが存在した。「オリンピック景気」などに代表される様々なブームが発生し、好景気が続いたのだ。白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫が電化製品における「三種の神器」と呼ばれ、新しい生活や消費習慣を表す言葉として流行した。この辺りの話は、当時を生きた先人に尋ねると良い思い出話を聞くこともできるだろう。
 では、変わってアメリカはどうかというと。第二次大戦が終結したのち、1950年に朝鮮戦争が勃発。戦争による経済効果(主に物資の買い付け)は、特需として朝鮮戦争が落ち着く53年までの3年間に10億ドル、さらに55年までの間接特需として36億ドルという額を叩き出したという。
 戦争は金になる、と言われる所以がここにあるのかはわからないが、とりあえず「戦争が起きて景気が良くなった」ようだ。のちに起こるであろうベトナム戦争ではそこまで経済効果がなかったのを見るに、この時代はまだアメリカのプロパガンダが上手く行っていた(=民衆が戦争の悲惨さをお茶の間で知る機会が少なかった)ようにも思う。
 この時期のアメリカ経済についての詳細は甲南大学・稲田義久氏の講義ページ(http://kccn.konan-u.ac.jp/keizai/america/02/frame.html)が分かりやすく面白いので、ぜひ一読をおすすめする。



2019.03.11 初版
2023.09.14 掲載