漂流する星座
Drifting Constellations
山田 悠 Haruka Yamada
Sep. - Oct. 2025 盤洲干潟
山田 悠 Haruka Yamada
Sep. - Oct. 2025 盤洲干潟
《漂流する星座》は、盤洲干潟で潮がひいた時に現れる漂着物を星に見立て、その位置関係を線で結び、満潮とともに海へ還る可逆的な星座を描く作品です。制作と消失を繰り返し、その都度、空中写真・星図・命名索引として記録します。星座名は、この場所の生態、文化、労働、都市インフラの背景に基づいて付与しています。このページでは、描かれた星座の記録を継続的に更新して公開します。
アマモ座
観測日時:2025-10-04 09:10 JST
潮位:65 cm(中潮)
月齢:12.2
底が砂や泥になっている水深0.5〜5mの浅い海の中で生える植物で、海中に「アマモ場」をつくる。砂泥底にアマモが生い茂ることで、稚魚や小型甲殻類の立体的な生活空間となる。近年では砂泥の安定化や水質の維持に寄与する「ブルーカーボン生態系」としても注目されている。
クリーン作戦座
観測日時:2025-10-05 09:15 JST
潮位:52 cm(大潮)
月齢:4.3
盤洲干潟で行われる清掃活動の呼称。地域の有志や関係団体、企業、学生が参加し、多い時には約300人にも達する。参加者はゴミ袋を片手に、ガラス瓶や缶、プラスチック片、漁網、タイヤなどを回収する。小さい袋かと思いきや、砂の中から引くと巨大なビニールシートだった…というのもよくある話。人物の肩の部分とゴミ袋を持つ手が星座になっている。
ミユビシギ座
観測日時:2025-09-29 15:09 JST
潮位:148 cm(小潮)
月齢:7.4
冬に日本の海岸へ渡来する小型のシギで、盤洲干潟でもよく見られる。波が引くタイミングを追いかけるように浜辺を小走りし、表層の小さな甲殻類や多毛類をついばむ。干潟では大きな望遠レンズを構えた観察者の姿も多い。干潟で餌をついばむ群れは単一種ではなく、メダイチドリやハマシギ、トウネン、ミユビシギなど複数種が入り混じっていることが多い。
長靴座
観測日時:2025-10-04 08:26 JST
潮位: 67cm(中潮)
月齢:12.1
干潟に入るときに欠かせないゴム製の防水靴。柔らかく沈む地面での泥への沈み込みを抑え、貝殻や漂着物から足を守る。長靴は、陸と海の境界に立つための道具であり、干潟と私たちをつなぐ接点でもある。
チゴガニ座
観測日時:2025-10-18 09:49 JST
潮位: 84cm(中潮)
月齢:26.2
盤洲干潟で見られる体長約1cmの小さなカニ。淡水の影響が強い泥干潟に多く生息し、一面に無数に群れる。動かずに待っていると次々に地面から現れ、観察者が動くと一斉に巣穴へ隠れる。歩いていると足元の至るところにいて避けきれないが、足が地面に着くより先に素早く巣穴へ身を沈めるため、踏まずに済む。英雄に踏み潰されて星になった神話のカニ座とは対照的に見える。
貝むき座
観測日時:2025-10-04 09:21 JST
潮位: 67cm(中潮)
月齢:12.2
漁から戻った二枚貝を選別し、殻をむき、身を洗って出荷する作業の名前。東京湾沿岸の各地の漁村で行われた。貝を採り食べる営みは縄文時代の貝塚に遡るが、「貝むき」は、近世から近代にかけて東京湾沿岸で整った出荷体制のもとで行われた共同作業を指す。共同作業所や家の軒先で行われ、女性や子どもが担うことも多く、出来高払いの賃仕事として現金収入をもたらした。むいた後の貝殻は細かく踏みしだかれて貝殻道とされていたらしい。
埋立地座
観測日時:2025-10-25 12:06 JST
潮位:121 cm(中潮)
月齢:3.6
かつて遠浅の海が広がっていた東京湾では、江戸時代から埋立てが始まり、明治〜戦前には東京や横浜を中心に築港が進んだ。戦後の都市の膨張と工場立地にともなって大規模な埋立てが進み、千葉から富津にかけても埋立てと浚渫(しゅんせつ)によって海底地形と海岸線が大きく変化した。現在、自然に近い海岸線がまとまって残るのは小櫃川の河口干潟などごく一部となり、東京湾岸の多くは直線的で人工的な輪郭を描いている。(参考:千葉県立中央博物館)
マテバシイ座
観測日時:2025-10-18 08:33 JST
潮位: 80cm(中潮)
月齢:26.2
潮風や塩害に強いマテバシイは、明治以降、海岸防風林・街路樹・都市緑化に加え、海苔養殖のヒビ(篊)資材として房総半島各地で植栽された。海中に立てるヒビには、葉を落としたマテバシイの枝が用いられ、山の木が海の仕事を支えるかたちで山と海をつないだ。木ヒビは養殖初期から広く用いられたが、昭和24年(1949)の化繊網の普及以降は次第に減り、昭和30年代半ばには補助的な使用へと移っていった。盤洲干潟へ向かう後浜の道沿いでも、来歴は定かでないが目にすることができる。
砂だんご座
観測日時:2025-09-26 11:09 JST
潮位:139 cm(中潮)
月齢:4.3
盤洲干潟では、コメツキガニなどのカニが摂餌の際に小さな砂だんごを作って残す。口の中で砂と食べ物をよりわけ、食べない砂だけを丸めて吐き出すためである。干潮時には干潟一面に砂だんごが見られ、描かれた星座の線上にも、約2時間ほどで砂だんごができる。
砂利山座
観測日時:2025-10-25 11:20 JST
潮位:126 cm(中潮)
月齢:3.6
山を削って採取した砂利を、積み出し前または工事前に仮置きした小さな山。房総の砂利は良質とされ、埋立てや都市開発の資材として用いられてきた。採取した砂利を満載したダンプや、このような砂利山は房総各地で見られる。
腰巻き籠座
観測日時:2025-09-27 09:43 JST
潮位:120 cm(中潮)
月齢:5.2
干潟での採貝で使われた道具。江戸期から昭和40年代前半にかけて使用され、櫛状の爪が付いた金属製の籠を砂の中に入れ、腰に付けた紐で引きながら、柄の棒を小刻みに動かしてアサリを捕獲していた。(参考:富津埋立記念館 所蔵資料)
簀立座
観測日時:2025-09-27 10:48 JST
潮位:127 cm(中潮)
月齢:5.3
簀立(すだて)は引き潮になると干潟が出現するような遠浅の海で行われる伝統漁法。東京湾では大正2年(1913)に姉崎海岸で導入されたのが最初とされ、その後各地に普及していったが、工業化の進展とともに次第に姿を消し、昭和の終わりには金田海岸と富津海岸を残すのみとなった。竹簀(たけず)を弧状に並べ、海側に細長い通路を設けて網を張り、潮流に乗って入ってきた魚を囲い込み、手づかみや手網で生け捕りにする。現在は体験型の「簀立遊び」として継承されている。(参考:富津埋立記念館 所蔵資料)
アクアライン座
観測日時:2025-09-23 10:47 JST
潮位: 80cm(大潮)
月齢:1.2
東京湾の中央を横断して神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ、全長15.1kmの自動車専用道路。千葉側は橋梁、神奈川側は海底トンネルで、海底部はシールドトンネルで掘削された。近年の交通量は1日あたり約5万台前後。平成9年(1997)開通当初の通行料は普通車片道4,000円だったが、平成14年(2002)にETC特別割引で2320円、平成21年(2009)からはETC普通車は800円に値下げされている。アクアラインにより、かつて内房を大きく迂回していた房総と首都圏の移動が日常化し、往来・物流・観光の位相は大きく変化した。
バックホウ座
観測日時:2025-09-27 10:38 JST
潮位:126 cm(中潮)
月齢:5.3
東京湾岸では埋立造成、航路の浚渫、護岸補修、産業廃棄物の積み替えにバックホウ(油圧ショベル)が日常的に稼働し、土木技術が海岸線と地形を繰り返し更新してきた。木更津でも各所で大型重機が稼働しており、その光景は今も続く現在進行形の風景である。
星座と風景の記録写真
潮によりやがて消えゆく星座。ミユビシギ座の線に潮が触れそうになる直前の様子。
ドローン撮影:2025-09-29 17:03 JST|潮位:165 cm(小潮)|月齢:7.5
映像をVimeoで開く|https://vimeo.com/1129064037?share=copy&fl=sv&fe=ci
データ仕様:時刻=JST/位置=千葉県・盤洲干潟(全記録共通)/潮位=金田漁業協同組合の毎時潮高表を参照/月齢=国立天文台の定義/更新=随時
最終更新:2025-10-31
クレジット:撮影・記録=山田悠(Haruka Yamada)
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