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日本史の本3冊
前回は高校と、大学の教養授業の歴史教科書を読んだ。
今回は大学生向けの授業と、高校生向けの講座を基にした日本史の本を。2冊ともにライブならではの「勢い」があって楽しく読んだし、大いに刺激的だった。
まずは前回紹介した『市民のための世界史』の参考図書として、大いにプッシュされていたこの本から。
①『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』與那覇潤(2011年/文藝春秋)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163746906
→増補版(2014年/文春文庫)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167900847
私が読んだのは2011年版。基になったのは、愛知県立大学の「東アジアの中の日本史」という授業だ。
源平合戦以来の日本の歴史を通観し、今の日本の行き詰まりを説明し、決定的に「中国化」しつつある日本の今後を論じている。きわめて刺激的で優れた歴史講義だ。
日本は明治維新と太平洋戦争を経て、他のアジア諸国に先がけて「西洋化=近代化・現代化」を果たしたため、今日の繁栄がある…。筆者はこうした歴史観・日本観を否定する。
西洋に先がけ、今から1000年も前に「近世(近代前期)」に突入した中国の社会システムを基準として、日本史と世界史を叙述し直してみせるのだ。従ってキーワードは「西洋化」ではなく「中国化」。実に野心的な試みだ。
「中国化」とは何か。それはイエ(家族)、ムラ(地域)、会社などあらゆる中間組織とその組織内の権威を否定し、個人とその結びつきだけの社会システムにすることだ。
政治的にはそれまでの「封建制」から、一君万民的な「郡県制」になる。経済的には、徹底した自由競争と個人責任になる。
そして社会的には、「貴族的」な人権・法の支配・議会制民主主義などを軽んじ、「カネと力」を重んじる。そうか、だから今の日本は資産も能力もない人間が子孫を残せない(「残さない」のではなく)社会になりつつあるのか、と目からウロコが落ちる。
まとめであり、日本の未来を論じる最終章(第10章)だけでも、できるだけ多くの人に読んでほしい。
それにしてもこの本は、頭の悪い人間や自説に固執していると断じた人間に対する罵倒がすさまじい。耐性があるし自分もやってしまいそうになる私でも、しばしば閉口した。もっと穏やかな語り口の「教科書」を書いてほしかった気もするが、無理は言うまい。
ちなみに一番笑ったのはここ。『論語』びいきとしてはホクホクだ。
(2011年版:p292)
『聖書』や『コーラン』の布教が半分くらいは剣とともにあったのに対して、『論語』はおおむね文の力だけで広まったのですから。
②『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子(2009年/朝日出版社)
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255004853/
https://www.asahipress.com/soredemo/
なるほど各所で絶賛されただけある本だ。ただしタイトルはキャッチーだが、やや偽りあり。
日本の近代史を国際政治と軍事から読み直し、歴史研究部に所属する高校生らを相手に講義するという挑戦的な企画だ。膨大な資料と近年の研究成果に基づく説得力は抜群で、しかも叙述がエキサイティング。この著者ももちろん凄いが、次々と紹介される研究成果を挙げた学者たちにも凄みを感じた。
資本主義も共産主義も拒み、大東亜の理想を追った日本。「戦争は思想の戦いでもある」という、ルソーの指摘の正しさは痛切だ。
また各国の政治家や軍人から、「自ら」満州に渡った日本の農民まで、歴史が確かに「個人の営みの集合」であることがよく分かる。
たとえ戦争でなくとも国は国民を動員したいし、政府を支持させたい。そして戦争は、政府が始めて国民が死ぬ(これもルソーが言っている)。
日本政府は、この著者が学術会議のメンバーになることを認めなかった。
戦争を繰り返したくなければ勉強するしかない、と思わされる本だった。
ちなみに迫力では及ばないものの、続編とも言える『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』(2016年/朝日出版社)も優れる。
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255009407/
https://www.asahipress.com/sensomade/index.html
ところで沖縄の歴史は日本史だろうか?
アイヌの歴史は日本史だろうか?
そして私が生まれ育ち、今も暮らす東北の歴史は日本史だろうか?
私は時々この本を読み返す。そして日本史とは何かを考えている。
③『東北歴史紀行』高橋富雄(1985年/岩波ジュニア新書)