障がい当事者同士の連帯意識と緊急時のセーフティネット
―視覚障がいを有するスーダン国内避難民を事例に―
Mohamed Abdin 客員研究員
障がい当事者同士の連帯意識と緊急時のセーフティネット
―視覚障がいを有するスーダン国内避難民を事例に―
Mohamed Abdin 客員研究員
背景
2023年4月に勃発したスーダン内戦により、1200万人以上が難民・国内避難民となり、特に社会的弱者である障がい者は深刻な困難に直面している。スーダン国内では、この人びとを支援する国際NGOの活動が大きく制限されるなかで、障がい当事者が自律的なネットワークを活用して、視覚障がい者を主たる対象とする避難民キャンプを設立・運営している。この活動は、人びとのウェルビーイングの実現のために重要な役割を果たしており、これが実現している背景には、障がい当事者同士の強い連帯意識が存在すると考えられる。こうした自生的な活動の実態を明らかにすることには、今後に障がい者支援を強化するために大きく貢献できるという社会的意義がある。
目的
本研究の目的は、こうしたネットワークが緊急時にどのように機能し、セーフティネットとしていかに活用されているかを明らかにし、障がい者支援に新たな知見を提供することである。具体的には、スーダンの視覚障がい当事者による支援活動に着目し、 以下の項目を解明する。
(1)視覚障がい者を主たる対象とする避難民キャンプは、いかなる経緯で組織化され、どのように運営されているか
(2)こうしたキャンプを運営し、そこに居住している人びとのあいだには、どのようなネットワークが存在しているのか
(3)障がい者と国内避難民という複合的属性が交差する状況のもとで、障がい者同士の連帯はいかに構築され、セーフティネットとして機能しているのか
(4)紛争下という非日常において、障がい当事者がどのようにウェルビーイングを実現しようとしているのか
研究方法
(1)調査対象:スーダンの首都および地方都市で設立された視覚障がい者を主たる対象とする国内避難民キャンプの住人(運営者と裨
益者)
(2)調査項目:出生地や年齢、家族の構成、教育歴、障がい者支援団体での活動経験、紛争勃発後の避難経路、国内避難民キャンプで
の生活の実態、地域社会との関係性などに関する各人のライフヒストリーを聞きとる
(3)調査方法:現地に住む知人(コーディネータ兼調査助手)に、まず、代理でライフヒストリーに関する半構造化インタビューを実
施してもらう(約20名)。そのデータを解析して重要なインフォーマントを選定し、コーディネータの協力を得てオンラインでイン タビューを実施する(7~10名)
倫理的配慮
(1)コーディネータ兼調査助手に、この研究で必要になる以下の倫理的配慮に関して事前にていねいな説明をおこない、理解してもら
う
(2)調査対象者には事前に調査の目的やデータの取扱方法などを十分に説明し、参加は自由意志によることを伝えて、調査に関する同
意を得る
(3)回答したくない質問には、答えなくてもよいことを事前に説明する
(4)調査対象者が匿名を希望する場合には、個人が特定されないようにデータの取扱方法に慎重な配慮をする
(5)調査データは厳重に管理し、研究目的以外には使用しない
(6)東洋大学倫理審査委員会の指針に従い、必要な手続きを遵守する
期待される成果
本研究が対象とするのは、内戦が続くスーダンにおいて国内避難民となった視覚障がい者である。すなわち調査対象者は、複数の困難が交差するインターセクショナルな状況のなかで生活することを強いられている。この人びとの当事者ネットワークと連帯意識がいかに機能し、ウェルビーイングの実現のためにどのような役割を果たしているのかに関する研究は、管見の限り皆無である。このような現状に鑑みて、紛争下における障がい当事者ネットワークの実態を解明する本研究には、大きな学問的・社会的な意義がある。また、本研究が最終的に提示する新たな障がい者支援のモデルは、将来の障がい者支援の実施のために重要な貢献をすると思われる。