緊急時のセーフティネットとしての障がい当事者団体の役割:
視覚障がいを有するスーダン国内避難民を事例に
Mohamed Abdin 客員研究員
緊急時のセーフティネットとしての障がい当事者団体の役割:
視覚障がいを有するスーダン国内避難民を事例に
Mohamed Abdin 客員研究員
背景
2023年4月に勃発したスーダン内戦では、1200万人以上の人びとが難民・国内避難民となることを余儀なくされた。激しい戦闘の舞台となった首都ハルツームからは、数百万人の人びとが家を追われ、国内外に流出した。一方、スーダンの地方都市では、ここ数十年間、首都へ人口流出が続き、行政サービスの質は著しく低下していた。そこに受け入れ能力をはるかに超えた国内避難民が押し寄せ、彼らは学校などの公共施設を避難所として利用することになった。紛争が長引くにしたがって、従来の公共施設機能を復旧させたい地域住民と避難民のあいだの関係性も悪化するなど、現在に至るまでさまざまな要因による困難が継続している。
この紛争下では、国際NGOの活動が著しく制限されているため、これらの国内避難民に対する緊急人道支援は十分には行われていない。国内避難民の生活状況はいっこうに改善されないままである。とくに、女性や障がい者などの社会的弱者とされる人びとにとって、こうした状況がもたらす困難は計り知れない。こうしたなか、数は多くないが、障がい者に対象を限定して受け入れる国内避難民キャンプがたちあがっている。この動きの背景には、国内避難民を受け入れている地域の障がい当事者団体の尽力があったと言われている。
目的
本研究では、この障がい当事者による支援活動に着目し、既存の当事者ネットワークはいかに組織されたのか、そしてこのネットワークは緊急時にどのように機能しているのかを明らかにする。これにより、障がい者と国内避難民という複合的な属性が交差するインターセクショナルな状況下で、当事者ネットワークがセーフティネットとして活用される可能性を考察することが本研究の目的である。紛争下という非日常において障がい当事者は、いかにして自分たちのウェルビーイングを実現しようとしているのかを明らかにする。
研究方法
本研究では、スーダンの地方都市の視覚障がい当事者団体を事例としてとりあげ、そのメンバーシップや沿革、平時における活動、今回の紛争という緊急事態のもとで、どのような経緯で、いかなる取り組みを実施してきたのかを、アンケートと聞き取り調査により明らかにする。現在も紛争下にあるスーダンには入国できないため、現地にいる知人にコーディネータ役を委嘱してオンラインでミーティングを行ないつつ、本調査を実施する。