文学研究科修了生座談会
「修了後のキャリアと私」
文学研究科修了生座談会
「修了後のキャリアと私」
登壇者 2007年度 英文学専攻 博士後期課程満期退学
川崎美佐子さん(右)
聞き手 文学研究科 英文学専攻 北原妙子教授(左)
大学院進学の動機とその後の学び
北原
本日ご紹介しますのが2007年度に大学院博士後期課程を満期退学された川崎美佐子先生です。現在は、早稲田大学で助手をなさっています。そもそも川崎さんはどうして大学院に進みたいと思ったのですか?
川崎
実は東洋大学の学部時代にとても面白い授業をたくさん受けたことがきっかけで、学びを深めたいと思い、東洋大学の大学院へ進みました。
井上円了像と川崎美佐子先生
北原
そうだったのですね。私が着任したのが2005年で、その時はすでに院生でTAもされていたから、当時からお世話になっています(笑)。川崎さんはそこで終わらず、キャリアアップを続け、テンプル大学の日本校でTESOLという英語教授法の資格を取りました。その後さらに早稲田大学のドクターコースに進み、現在は科研費も取って、博士論文の作成に取り組んでいます。こうした経緯について、どのようなモチベーションで今までのキャリアを歩まれたかお話しいただけますか?
川崎
東洋大学の大学院で博士課程を満期退学した後、非常勤講師として東洋大学で教える機会をいただきました。英語の授業では文学を中心に教えていたのですが、ちょうどその頃、アクティブラーニングやコミュニケーションに重きを置くような英語の授業がはやり始めていました。その流れの中で、英語の授業で文学をどのように教えていけばいいのか考えるうちに、「英語を教える」ということ自体に興味を持つようになりました。そして、英語教授法という分野があることを知り、そちらの分野もより深く学びたいと思い、テンプル大学の修士課程に進む決心をしました。
北原
テンプル大学は全ての授業が英語で行われるので、大変だったと思いますけれども、いかがでしたか?
川崎
英語圏での留学経験がなかったため、全て英語で行われる授業についていけるか不安もありましたが、自分を試したいという気持ちもあり、つらさを感じながらも、楽しく授業を受けることができました。
TESOL ─ 英語教授法とその研究
北原
よかったですね。相当勉強なさったのだと思います。英語教授法はどういうものか、知らない方のために、簡単に説明していただけますか?
川崎
英語教授法とは、母語以外の学生にどのように英語を教えるかを研究する分野で、主にコミュニケーションをベースとした教授法です。学習者の心理的な側面も含まれており、私はその点にとても興味を持ち、学びを深めていきました。
北原
今伺ったお話によると、学習者がどういう心持ちで勉強しているか、例えば英語が苦手、不安がある、熱意があるなど、いろいろな側面を博士論文で扱われているのですよね。
川崎
私は主に学習者の心理、とりわけ感情調整に関心を持っています。実際の授業においても、英語が苦手な学生ほど不安を感じやすいため、その不安をどのように軽減して、そして楽しみをどのように高めていくかに強い関心があり、現在はそれに基づいた研究を行っています。
現在の仕事(大学助手)について
北原
授業の実践が研究につながっていくという、よい循環を生んでいると思います。
実際にお勤めになっている早稲田大学では、どんなお仕事をしていますか?
川崎
現在、私は助手として勤務しており、学生対応を含めた事務仕事が主な仕事です。
北原
学生対応ですとTA時代から、いろいろな学生対応をなさったので、経験が活きていると思いますが、その点はいかがですか?
川崎
ちょうど東洋大学の博士後期課程在学中にTAを経験し、学生対応や学科内の運営にも少し携わることができました。その経験が、今の助手の仕事に大いに活きていると感じています。
北原
TAの経験は教歴にカウントされますから、それが活きていると伺い嬉しく思いますが、大学院での思考的な訓練などが今のお仕事に役立つことはありますか?
川崎
大学院での研究経験を通して、多角的かつ批判的な側面から物事を捉えたり、論理的に物事を考えたりする力を身につけることができたと感じています。そうした能力は、事務的な作業にも大いに活かされていると思います。
英文学と英語教育の架橋
北原
事務作業も頭を使いますからね。川崎さんはイギリス文学、特に詩がお好きで学ばれましたが、そこから現在の英語教育というところにどんな感じでつなげたのですか?
川崎
文学を授業で教えていたので、「どのように文学を教えるか」が常に私の課題でした。文学を教える中で、教えること自体に興味を持ち、「どのように英語を教えるか」という教育面に強い関心を抱くようになり、テンプル大学大学院に進学しました。学習者の心理が英語学習に大きく影響していると知り、実際に授業を通してそのことを実感していたので、学習者心理をさらに掘り下げて学びたいと思いました。
北原
英文学は英語を学ぶ際オーソドックスな教材だと思いますが、川崎さんは大学院で学ばれて面白かった、忘れがたいということがあったら、英文学について教えていただけますか?
川崎
知識も浅い状態で大学院に進みましたが、英文学の授業の一つに「メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む」という授業がありました。フランケンシュタインはアニメで知っていたのですが、原作があることは全く知りませんでした。さらに、先生の説明によると、メアリー・シェリーのフランケンシュタインは、ギリシャ神話のプロメテウスがゼウスに背いて火を盗んでそれを人類に与えた話や、粘土から人間を作る話などを題材にしていると聞いて、とても衝撃を受けました。非常に深い内容であることがわかり、もっと学びたいという好奇心が強く湧いてきたことを覚えています。
広がる英文学の学び ─比較文学的視野─
北原
いいですね。ギリシャ神話、聖書、西洋文学が横につながっていて、縦の歴史も流れているというのが、例えば現代のゲームやアニメというサブカルチャーにも活かされているところを実感できたのではないかと思います。
他にも比較文学が面白かった、ということもお話いただけますか?
川崎
当時、「比較文学」という授業がありました。担当の先生のご専門がイエイツでしたが、私が学部時代に1年間フランスのストラスブールに交換留学していたこともあり、イエイツの詩に加えて、フランス詩のランボーやヴェルレーヌの詩も一緒に読みました。また、それらの詩の評論を日本語で読むこともしていました。英文学専攻の学生だけではなく、日本文学専攻の学生も受講しており、さまざまな情報交換ができ、「これぞ大学院の授業だ」と感じたことを覚えています。
北原
素晴らしいですね。学内にいながら、他専攻の学生と切磋琢磨できるという、学内交流があったということですね。そういう授業が今後も展開されるとよいと思います。
東洋大学大学院の魅力
北原
川崎さんは、東洋大学の大学院の魅力は何だとお考えになっていますか?
川崎
真っ先に挙げられるのは、少人数できめ細かく指導を受けられる点だと思います。先生方との距離も近く、個別にいつでも相談できるので、研究を深めることができると感じました。
私の専攻はロマン派のウィリアム・ブレイクという詩人でしたが、そのほかにもイギリスの散文、アメリカ文学、さらには英語学といった分野も学ぶことができ、文学プラス言語学としっかり学べる点が非常に魅力的だと思いました。
北原
英文学と米文学プラス英語学というように、英語で書かれた作品などを立体的に学べる仕掛けは、伝統的な英文科の強みだと思います。
英文学専攻といえば他大学が所属する、大学院英文学専攻課程協議会(英専協)という学会がありますが、そちらについてはいかがですか?
川崎
12大学が合同で行う研究発表会に修士1年のときに参加しました。他大学の学生たちの研究を知ることができ、また他大学の先生方から直接意見やアドバイスをいただけたことが、その後の修論の完成にとても役立ったと感じています。こうした貴重な機会が得られるのは、東洋大学の大学院だからこそだと思っています。
北原
東洋大学が英専協の加盟校であるというのは、大きな利点だと私も感じます。川崎さんがいらした頃は、日本英文学会の会長でいらした海老根宏先生も東洋大学に在籍なさり、他大学から多くの学生が授業を取りに来て下さった時代でした。
今は、本学から他大学に、例えば立教大学や青山学院大学に授業を取りに行っていますが、他大学との交流があるのもメリットの一つだと思います。
大学院進学を考える人へ
北原
総括しますと、後輩の方の学びを続けたいという課題に、どのようなお言葉がありますか?
川崎
私は研究や教育に興味があり、自ら東洋大学大学院に進みたいと思っていました。実際に大学院で授業を受けて、知的好奇心が高まり、学ぶことの大切さや楽しさを実感できました。それが今も学び続けるという姿勢につながっていると思います。さらに、それは勉学だけではなく、今の自分の人生の豊かさにもつながっていると感じています。自分の人生を豊かにし、楽しい学びを追求するためにも、大学院はとても有意義な選択肢だと思います。ぜひ東洋大学大学院で学ぶ楽しさを体験していただきたいと思います。
質疑応答
質問者A
川崎先生は今現在、早稲田大学の助手として勤務なさっているとのことですが、大学教員以外の選択肢、あるいはキャリア形成について悩まれたことなどはありますか?
川崎
私の場合、東洋大学に入ってから学部の授業とは別に研究会に参加し、英語を学んでいました。その時から大学院に進んで研究者になりたいという思いはずっとあり、それだけは変わらずにここまで来ました。違う選択肢というのがまったくありませんでした。さらに、教職の授業も取っていたので、教えることにも興味があり好きだったため、現在教職についています。他の選択肢が思い浮かばなかったことは、私にとって幸せなことだとも感じています。
質問者B
私自身も学部時代に受けた授業に触発され、より深く学びたいと思い、大学院進学を考え始めましたが、研究テーマを確定できず、色々と悩んだことがありました。私のようにもう少し深く学びたいと思っても、何を研究したいのか中々決められない人は、一定数いるのではないかと思いますが、どのようにして、ウィリアム・ブレイクを研究対象と決めたのですか?
川崎
学部時代は、実は英語学に興味があり、卒論では「There構文」とフランス語の「Il y a(イリヤ)構文」の比較をテーマにしました。英語学が専門だったのですが、語学だけでなく文学にも興味があり、いつか学びたいという気持ちがありました。大学院に進んだ際には、文学を専攻しようと思うようになりました。先ほどお名前が挙がった海老根先生の「英文学史」という講義で、ロマン派詩人の中でも少し外れた存在であるウィリアム・ブレイクに興味を持ちました。彼の詩は研究が少なく、読解が難しいということもあり、挑戦してみたいと思いました。そこで、大学院博士前期課程、そして博士後期課程では英詩を学ぼうと決めました。
学部時代から大学院を通して、英語を語学的に、そして文学的に学ぶことに対する興味が一貫してありました。そこから今度は英語をどのように教えるかという興味につながり、現在の研究に至っています。全てがつながって、今の研究にたどり着いていると感じています。
白井先生(司会)
私から簡単な質問です。東洋大学の学部時代から東洋の大学院に行くというふうに考えていたことですが、他の大学に行くといった選択肢は途中で出てこなかったのですか?
川崎
当時、東洋大学大学院にはとても有名な先生がいらっしゃり、大学院は非常に活気づいていました。学部時代から知っている先生のもとで深く学びたい、ここ以外は考えられないという気持ちでしたので、他の大学院という選択肢はありませんでした。
白井先生(司会)
博士課程なども考えて、自分の出身校で信頼できる先生に教わりたいということですか?
川崎
そうですね。ロールモデルとなる先生方が東洋大学大学院にいらっしゃったことが、進学を決めた大きな理由です。
白井先生(司会)
ありがとうございました。
談話を終えて
英語や英米文学に興味はあるが、進学した先にどのような道が拓けるか分からない、と思っていらっしゃる方には、一つのロールモデルとなるようなお話を伺えたかと思います。「自分の人生を豊かにするためにも、また楽しい学びを追求するためにも、大学院という選択肢があっていいのではないか」という川崎先生のお言葉に感銘を受けました。このサイトをご覧の皆様もぜひ後に続かれ、英語の学びを通してご自分の道を探してみませんか?