2023年度

4月14日:長谷川耀(大阪大学)

講演題目:固有でない双曲的測地空間のGromov境界について

要旨:固有な双曲的測地空間において, その点列境界と測地境界が位相も込めて一致することはよく知られている. 本講演では双曲的測地空間が固有とは限らない場合において, その点列境界と擬測地境界が位相も込めて一致することを紹介する. 

4月21日:森本真弘(東京都立大学)

講演題目:固有フレドホルム部分多様体とaffine Kac-Moody対称空間

要旨:

1980年代にR. S. PalaisとC.-L. Terngは,ゲージ変換群作用の軌道を典型例とする無限次元部分多様体のクラス(固有フレドホルム部分多様体)を導入した.その後,G. Thorbergsson, E. Heintzeらとの研究を経て,affine Kac-Moody対称空間と呼ばれる無限次元対称空間が定義され,固有フレドホルム部分多様体との興味深い関係を持つことが明らかとなった.本講演では,これらの研究発展を振り返りながら,講演者による最近の研究結果と今後の展望について説明する.

4月28日:Eduardo Martinez-Pedroza(Memorial University of Newfoundland)

Title: Quasi-isometries of group pairs

Abstract:  A recent trend in geometric group theory is to understand the large scale geometry of a group with respect to a collection of subgroups.  The objects of study are pairs consisting of a finitely generated group and a finite collection of subgroups, and there is a notion of quasi-isometry of pairs inducing an equivalence.  This relation captures classical phenomena in the study of quasi-isometric rigidity and brings up natural questions.  The talk will introduce some of these topics and discuss recent results obtained in joint work with Sam Hughes and Luis Sánchez Saldaña.

5月12日:小池貴之(大阪公立大)


Title: Holomorphic foliation associated with a semi-positive class of numerical dimension one


Let $X$ be a compact K\"ahler manifold and $\alpha$ be a class in the Dolbeault cohomology class of bidegree $(1, 1)$ on $X$.


When the numerical dimension of $\alpha$ is one and $\alpha$ admits at least two smooth semi-positive representatives, we show the existence of a family of real analytic Levi-flat hypersurfaces in $X$ and a holomorphic foliation on a suitable domain of $X$ along whose leaves any semi-positive representative of $\alpha$ is zero.


As an application, we give the affirmative answer to a conjecture on the relation between the semi-positivity of the line bundle $[Y]$ and the analytic structure of a neighborhood of $Y$ for a smooth connected hypersurface $Y$ of $X$. 



5月19日:岡本幸大(京都大学 数理解析研究所)


Title: On knots in the zero section which appear as clean Lagrangian intersections


多様体の余接束の中でconical endを持つLagrange部分多様体とゼロ切断の交差が横断的でない、"clean intersection"である場合を考える。Lagrange部分多様体に条件を課したとき、このclean intersectionに対して、ゼロ切断の部分多様体としての制約を見つけたい。講演ではrelative Symplectic Field Theory (SFT)によるアプローチを説明する。具体的にはLegendre接触ホモロジーと、Lagrange同境が誘導する準同型からなるSFTを利用する。特にゼロ切断がR^3、clean intersectionが連結かつ1次元の場合、結び目としての制約が与えられることを証明する。


6月16日:大井志穂(新潟大学)

題目:バナッハ環上の全射線形等距離写像について

要旨:単位的可換$C^{*}$環において,バナッハ空間として等距離同型性がバナッハ環としての同型性を導くことを主張するBanach-Stoneの定理以降,さまざまなバナッハ環に対して,その上の全射線形等距離写像の研究がなされてきた。とくに,全射線形等距離写像が結果として積の構造を導くバナッハ環はどのようなものであるのか?という問いは,長年にわたり保存問題における一つの重要問題である。

本講演では,Banach-Stoneの定理の紹介から始め,様々なクラスの連続関数やベクトル値連続写像で構成される種々のバナッハ環に対して,その上の全射複素線形等距離写像の結果を説明する。さらに,関連する準同型写像などの保存問題についても紹介し,それらを関連付けることで今後必要となりうる研究やその課題について触れる。

6月30日:平井広志(名古屋大学)

題目:行列スケーリングから非正曲率空間上の測地的凸最適化へ

要旨:行列スケーリング問題とは「与えられた非負行列 Aに右と左から正の対角行列をかけて,指定された行和,列和をもつようにできるか」という問題で,様々な応用があり古くから研究されてきた.最近になっても,作用素スケーリングや群軌道閉包ノルム最小化問題に一般化されて,さらなる拡がりをみせている.そこでは,非正な曲率をもつ空間(アダマール空間)上の凸最適化問題が重要となる.講演ではこのような新しいタイプの凸最適化やそれに対するアプローチを紹介する.


7月7日:高野暁弘(東大数理)

題目:The p-colorable subgroup of Thompson's group F

要旨:近年、JonesはThompson群Fのユニタリ表現に関する研究を行い、その中でFの元から絡み目を構成する方法を導入した。これによりThompson群と結び目理論との関係が構築された(AielloはこれをThompson knot theoryと呼んでいる)。この理論は組み紐群の類似と呼べるものであり、Jonesはその結果の1つとして、Alexanderの定理を証明した。つまり、任意の絡み目はFのある元から得られる。一方、Markovの定理は現在のところ証明されていない。

さて、Jonesは自身が構成したFの表現のあるstabilizerとして、いくつかの部分群を定義した。そのうちの一つは3彩色可能部分群と呼ばれ、我々はこの部分群の非自明な元から得られる絡み目は全て3彩色可能であることを示した。本講演では、この結果を3以上の奇数pに対して拡張する。すなわち、p彩色可能部分群を定義し、その群の非自明な元から得られる絡み目は全てp彩色可能であることを示す。また、その部分群は、Fのある一般化であるBrown-Thompson群と同型であることも示す。本研究は、児玉悠弥氏(東京都立大)との共同研究である。


8月18日(金):Hsiao-Fan Liu (Tamkang University, Taiwan)

時間:16:30~ 18:00  

会場:8号館610室 

Title: How to classify constant p-mean curvature surfaces in the Heisenberg group H_1

Abstract:

The Sine-Gordon equation (SGE) was discovered in the 19 century and S. S. Chern in 1981 gave a geometric interpretation of solutions to the SGE, that is the pseudosphere. This relates partial differential equations and differential geometry. Such a relation gives rise to the study of integrable systems and geometries. Motivated by this, we will introduce an approach to characterize constant p-mean curvature surfaces in the Heisenberg group H_1. In this talk, we will review some basics of H_1, present our recent results in this direction, and on-going projects with some open problems if time permits.


10月13日(金)小野薫(京都大学数理解析研究所)

集中講義

井関 裕靖(慶應義塾大学)

日程:11月13日〜17日

題目:群上のランダムウォークと調和写像

要旨:

CAT(0) 空間 Y にランダム・ウォークが与えられた可算群 G が等長的に作用するとき、G 作用の軌道にそのランダム・ウォークを移植することができる。

この移植されたランダム・ウォークの挙動は、G の作用に関する重要な情報を含んでいる。最近、G が Y の無限遠境界に固定点をもたず、移植されたラン

ダム・ウォークの rate of escape (drift) が 0 であるとき、Y の中に G の作用で不変な平坦部分空間が存在することを示すことができた。証明には、G

から Y への同変調和写像を用いる。また、この結果の帰結として、G が Y の無限遠境界に固定点をもたないとき、

(i) G の Poisson 境界から Y の無限遠境界への同変写像が存在する、

あるいは

(ii) Y の中に G の作用で不変な平坦部分空間が存在する、

のいずれかが成立することがしたがう。(i) により存在が保証される同変境界写像は、可算群の剛性理論において極めて有用な道具であり、Margulis超剛性

をはじめとする、いくつかの興味深い結果を導くのに用いられてきた。


講義では、CAT(0) 空間の基本的な性質および、可算群から CAT(0) 空間への同変調和写像に関する基本事項を外観した後に、上記の結果の証明の概略を解

説する予定である。余裕があれば、上記の結果の応用の可能性についても触れたい。


時間割:

月:4, 5限

火:4, 5限

水:4, 5限

木:4, 5限

金:4, 5限


2023年11月24日(金)石渡聡(山形大学)

場所:8号館610号室

題目: 非対称拡散過程の離散近似


要旨:リーマン多様体において、ラプラシアンにドリフト項、ポテンシャル項を加えた作用素(ドリフト付きシュレディンガー作用素)から生成される運動(非対称拡散過程)の離散近似について最近得られた結果を紹介する。本講演の内容は慶應義塾大学の河備浩司氏との共同研究に基づく。

12月18日(月)高津 大樹 (東京工業大学)

(普段と曜日会場が異なります)

時間:16:30 — 18:00

会場:8号館618号室

題目:K3曲面の自己同型群とその実質的コホモロジー次元について

要旨:

2次元コンパクト複素多様体で、標準束が自明かつ不正則数が0のものをK3曲面という. 近年、向井茂氏により楕円的K3曲面の自己同型群の実質的コホモロジー次元(vcd)がそのMordell-Weil群の階数の最大と一致する、という予想が提唱された。これに関連して、本講演ではK3曲面の自己同型群やそのvcdに関する性質について最近得られた結果を紹介する。特に、アンプル錐に付随するブローアップ境界の位相次元から自己同型群のvcdが決定される、という結果について説明したい。