イアン・ハッキング『数学はなぜ哲学の哲学の問題になるのか』

イアン・ハッキング『数学はなぜ哲学の哲学の問題になるのか』, 金子洋之・大西琢朗訳, 森北出版, 2017年.

※ご指摘いただいた誤訳・誤植のリストを下に作りました。今後の増版のさいに反映させていただきます。

金子洋之先生がメインでわたしは2章分のお手伝いです。アマゾン等では10月31日発売となっていますが、じっさいには10月初旬となる予定です。確実にみなさまのお手元に届くよう、ご予約をお願いします。 発売されました。どうぞよろしくお願いいたします。

内容は訳題のとおりです。ハッキングのいつものやり方で、いまの数学の哲学で議論されている問題に直接アタックするのではなく、なんでそもそも哲学者はこんなにも数学にこだわってしまうのかという角度から、数学の哲学を説き明かします。

「なぜ」に対する答えは2つ、「証明」と「応用」です。思考だけによってある命題が疑いの余地なく確立されてしまうという体験。そしてそれらがこの世界にあまりにもうまく当てはまってしまうという驚き。数学を哲学的に興味あるものとしているのはこの2つだとハッキングは言います。

では証明と応用はどのような意味で哲学的に興味深いのか。それを明らかにするための最良の方法は、それらがどのような歴史的偶然のもとで生まれ、発展し、定着するようになったかを跡づけること。『確率の出現』以来の、ハッキングの十八番とも言えるアプローチで本書は書かれています。

「でも証明と応用っていまの数学の哲学の議論とはあまりマッチしないね」と思われた方、そのとおりです。証明と応用について詳述したあと、ハッキングは、現代英語圏における「唯名論/プラトニズム」の対立がいかに数学にかんする本来の興味から離れてしまっているかを批判的に論じます。

本書の原題 Why Is There Philosophy of Mathematics At All? は、直訳すれば「なんでそもそも数学の哲学なんてものがあるのか」。英語圏における数学の哲学の現状に対して少し挑発的に、ハッキング先生が「そもそもやねえ…」とお得意のウンチク説教を炸裂させるのが、本書です。

ハッキング先生、さすがに少しお疲れかしら…と思わせる箇所もないではないですが、それでも、まさに彼らしい、彼にしか書けない、面白い本です。多くの方に読んでほしいと思います。よろしくお願いいたします。

さいごに、訳題はもちろん(私の指導教員である)伊藤邦武先生が訳された『言語はなぜ哲学の問題になるのか』からお借りしたものです。(おそれ多いことですが)「言語本」とあわせて、この「数学本」も楽しんでいただければと思います。


誤訳・誤植などリスト

  • p.144 「道徳科学」→ 「精神科学」(澤田和範氏より)

  • p.160 「ポール・グヤー」→「ポール・ガイヤー」(澤田和範氏より)

  • p.169 「闘争的な無神論者」→「戦闘的無神論者」(澤田和範氏より)

  • p.191 「infintesimal」→ 「infinitesimal」(澤田和範氏より)