研究関心

心理学、中でも臨床心理学と社会心理学の境界に位置する臨床社会心理学、社会心理学を主に専門として研究してきました。最近では社会福祉学の視点からも研究を進めています。

1)抑うつの研究

大学の学部生時代から「落ち込みやすい人とそうではない人がいるのはなぜか」という抑うつの問題に関心がありました。若い頃、自分自身が対人関係上の失敗で落ち込みやすい、というところがあったのかもしれません。卒業論文ではHigginsのセルフ・ディスクレパンシー理論を取り上げました(勝谷, 1998)。

大学院進学後は、抑うつ的な人が他者からの評価をどう受け取けとめるかを調べました(勝谷, 2000)。パーソナリティの問題よりは、抑うつ的な人が友達や家族など自分にとって大事な人達とのあいだでの関わりがうまくいかなくなることで、さらに抑うつ的になってしまうという対人関係に着目した抑うつの対人モデル(Coyne, 1976)に特に興味をもちました。大学院からポスドク時代は重要他者との関わり方の特性のひとつである「重要他者に対する再確認傾向」の研究(勝谷, 2004; 勝谷, 2006; 勝谷, 2007)を行い、博士号を取得しました。

現在は、抑うつに関する社会的イメージの研究しています。学生や社会人に「うつ」あるいは「新型うつ」のイメージを自由記述で書いてもらい、その内容をテキストマイニングとよばれるテキストデータの分析手法で計量的に分析して、記述内容の特徴を調べました。すると、心の病気であること、原因、症状、治療に関わる記述のほか、気づかれにくさ、誰でもかかる病気、若い人がかかるなどに関する記述が見られ、うつのイメージが日本でもある程度共有されていることが示されました(勝谷 坂本朝川山本, 2011;  勝谷・岡・坂本, 2018)。専門家ではない一般の人々が抱く精神疾患についてのイメージの内容や特徴を調べることから、精神疾患や精神障害の理解につながる研究をしていきたいと考えています。

2)難聴者の精神的健康・心理的支援

私自身が難聴と診断された経験(くわしくはオーディトリー・ニューロパシーのページをご覧ください)がきっかけで、難聴者の心理学的研究にここ10年ほど取り組んでいます。過去の研究を調べると、ろう者や重度聴覚障害者の臨床心理学的研究はあるものの、聞こえにくさを抱えて聞こえる人とともに生きる難聴者の心理学的研究が非常に少ない現状でした。そこで、難聴を持っている自分自身で臨床心理学や社会心理学の立場から研究にまず取り組むことにしました。

これまでに、「難聴」についての一般的なイメージ(しろうと理論)の研究(勝谷, 2011)、軽中度難聴者におけるストレスと精神的健康との関係(勝谷, 2011)、難聴者の会話を支援する音声認識筆談ボードの効果研究(勝谷, 2015)、軽度中度難聴者のためのストレス対処プログラムの研究(勝谷, 2019)、中途で難聴になった方への心理的な支援策について考える研究(勝谷・栗田・名畑,2016; 名畑・名畑・栗田・勝谷, 2019)を行なってきました。

 難聴者が経験する日常生活のストレスや心理的な葛藤は、年齢、残存聴力、難聴になった時期等により非常に多様でした。それぞれ必要な支援の内容やタイミングが異なってくるため、きめ細かい支援策を考える重要性が考えられました。また、病気や加齢等で中途で難聴になった方々は、聞こえにくさから日常生活で多くのストレスを経験し、コミュニケーションの悩みを抱えています。これまで私は難聴者を対象に調査を行い、難聴に関わるストレスの特徴、ストレス対処法を調べました。難聴者の方々へのインタビューをまとめた冊子を教材として活用し、難聴にまつわる困りごとやストレスを理解するためのワークショップを実施しました勝谷, 2019

また、難聴当事者や難聴の研究者による研究会「難聴者の心理学的問題を考える会」の代表をつとめており、毎年心理学系の学会で難聴者の理解や支援のあり方を考えるワークショップやシンポジウムを開催してました。その成果をまとめ、かもがわ出版より「難聴者と中途失聴者の心理学」を刊行しました(難聴者の心理学的問題を考える会, 2020。難聴者への支援は心理的支援(勝谷, 2022)だけではなく、偏見や差別の解消、必要な情報の提供、環境の整備や社会福祉的な支援も必要で、今後考えていきたい問題です。心理学や社会福祉学の成果を踏まえた障害理解、障害者への支援に資する研究は今後もライフワークとして続けていきたいと思っています。 

3)情報モラル、情報リテラシーの研究

以前の本務校だった青山学院大学社会情報学部では、初年度の学生を対象に情報リテラシーの基礎を学ぶ「コミュニケーション基礎」を担当していました。授業担当していたときの試行錯誤の経験がきっかけで、当時この科目を分担で担当していた先生方と共同で大学生の情報モラルの調査研究をおこないました。具体的には、学生の不正コピー(いわゆるコピペ問題)(東・勝谷, 2016)やソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の利用の問題(勝谷・東, 2016)についてです。その結果、コピペ問題に関する学生の考え方は、学習者本人の統制力を重視する自分意識タイプ、学校教育や罰則など外部からの統制を重視する他者依存タイプの2タイプに分かれることなどがわかりました(勝谷・東・稲積, 2017)。

また、わたし自身が自分の耳の病気をきちんと診てもらえる医師、医療機関をみつけるまでにいくつもの医療機関を受診せざるを得なかった経験があり、医療情報や健康情報に関する情報リテラシー(ヘルスリテラシー)の調査研究もおこないました(勝谷・東, 2019)。検索サイトの技術が進み、病気の名前をキーワードに入れるだけでも情報源の確かなサイトが検索結果上位にヒットするようになりました。それらの情報を自分の健康管理や自分にあった医療機関の受診にどう活かしていけばいいのか、これからも考えていきたいと思います。

)当事者研究の研究

現職(東京大学先端科学技術研究センター)では、当事者研究分野熊谷研究室にて当事者研究の研究をしています。当事者視点での問題意識にもとづく聴覚障害者の快適な航空機搭乗(Makino, Tsujita, Katsuya, & Kumagaya, 2022)、当事者研究の経験によるリカバリー(Katsuya, Ayaya, Mukaiyachi, Hashimoto, Okuda, Suzuki, & Kumagaya, 2022)に関わる研究にとりくんでいます。わたし自身の体験、希少疾患による難聴判明と人工内耳埋め込み手術についても当事者研究の枠組みでまとめているところです(勝谷, 2022)。