実験道具・解剖方法など
ここでは、主にケシキスイ類を例として、微小なコウチュウ類の研究方法を紹介します。
標 本 の 作 り 方
ケシキスイをはじめとする,いわゆる微小甲虫の標本の作り方について紹介します.
ここでは三角台紙ではなく四角台紙を使用します.四角台紙の利点は,接着面が大きいので虫体が落下しにくいこと,また,インロー箱やドイツ箱といった収納箱から抜き出す時に,壁面等にぶつけてしまったり,地面に落としてしまった場合に,虫体が直接あたることが防げるので,標本が壊れにくいことなどが挙げられます.四角台紙だと,三角台紙と違って虫体の裏面が見えにくい,という方がいますが,そもそも詳細に観察しようと思ったら(解剖も含めて)台紙から外したら良いだけですので,標本が壊れにくいことを優先した方が良いというのが私見です。
<必 要物>
- ピンセット
- シリコンシート (適量)
- シリコンシートを載せた作業板
- 筆(x1)
- 四角台紙 (適量)
- ニカワ(Titebondなど液体のもの)
ケシキスイは集団を形成することが多く、1,000頭単位で採集されることも多いです。また、微小コウチュウは展脚に時間がかかります。これらの理由から、すべての個体を展脚することは時間がもったいないので、展脚は必要ありません。しかしながら、論文等で用いるために撮影を行う個体用に,数頭はその特徴が分かるように、きれいに展脚すべきです(写真も論文の一部です)。その他、同じ種が複数個体採集された場合は、数等は側面を上にしたり,腹面を上にして台紙に張り付けておくと,観察の際に便利です.
接着には,木工用ボンドではなく,液体ニカワが便利です(後で解剖などのためにはがそうとするときに,ニカワだと水で溶けるのですぐにはがすことが可能です).
展脚する際,大きな昆虫と違い,微小甲虫はピンセットで脚や触角を引っ張りながら伸ばすとちぎれてしまうことが多いです.そのため,展脚には筆を用います.私は精雲堂のホビーセーブル(太さNo. 00)を用いています.展脚(や解剖)をおこなう場合は,シリコーンシートの上で行うと,虫体がすべらないので作業がしやすいです.
まずは左手にピンセットをもち,下面を上にした甲虫を固定します.右手に上記の筆をもち,撫でるように脚や触角を伸ばしていきます.展脚後,ニカワで四角台紙に貼り付けます.ニカワは台紙の上で薄くのばして使用します.つけすぎないように注意が必要です.
ケシキスイの体長は、1mm~10mm程度なので,そのサイズの標本作成に用いる四角台紙は、六本脚で販売している、ドイツ製 小型昆虫貼付用台紙(無地タイプ)(型番等 b-1:幅4.5×長さ11mm 500個入/パック)がオススメです。
標本の表面が汚れているときは,消毒用エタノール(80%ほど)を,上記の筆につけて虫体をこすります.汚れが酷いときは界面活性剤を水に溶かし,筆につけて虫体をこすります.100円ショップで売っている,剥がすタイプのパックも便利です.虫体に薄く塗って,乾いたら剥がします.特に点刻など細かい部分を観察する場合は,パックをすると観察しやすくなります.しかし,パックをすると表面の毛が抜けてしまうことがあるので,毛の多い虫は止めておいた方が良いでしょう.また,超音波洗浄機を用いても効果があります.
微小甲虫の解剖方法
ここではケシキスイ等のいわゆる微小甲虫のゲニタリア(交尾器)を取り出す方法について解説を行います.解剖の手法は人それぞれですが,ここでは私が行っている方法を紹介します.
<必 要 物>
精密ピンセット( x2)
シリコンシート(適量)
シリコンシートを載せた作業板
Spot plate(x1)
10%水酸化カリウム(KOH)溶液 (溶液を作成しておく)
スポイト
腰高シャーレ(その他のガラス瓶でも良い)
四角台紙(適量)
ニカワ(液体)
ま ず は 虫 を 軟 化
沸騰したお湯を腰高シャーレに注ぎ,台所用洗剤を数滴入れます.このお湯をスポイトで滴板(spot plate) の1~4の穴に注ぎ,次に解剖したい微小昆虫を,台紙に貼ったまま1~4に漬けます(図2).上からできれば透明のシリコンシート(100均でも購入可能)をかけ,1~2時間放置して虫体の外側だけでなく内臓まで柔らかくします(図).ちなみに1回の実験で解剖する虫の数ですが,1日にたくさん解剖し過ぎても処理しきれないので,私は最大4頭ぐらいまでにしています.Spot plateには上左から番号を振っておき(図),それに対応した番号を書いたペフ版(図)を用意しておき,spot plate の1番に入れた虫のラベルはペフ版の1番に対応するというように,どのラベルがどの虫なのか,対応がつくようにしておきます.
1~2時間後,虫を取り出してシリコンシートを敷いた作業板の上に置きます.精密ピンセット(私は,六本脚で購入したDumont社製 INOXピンセット Biology No.5を使用しています)を両手(片手に一本ずつ)持ちます.虫体の破壊は最小限度にとどめる必要があるため,腹部末端節(見た目上の末端節)を開きながら,精密ピンセットでゲニタリアを挟んで抜き取ります.ゲニタリアは,どうしても腹部末端節から抜き取るのが難しい場合,腹部を(見た目上の)第一節から外します(図).この作業は,シリコンシートの上だと虫が滑らないので,解剖も容易です.
ゲニタリアを抜き出した虫体は,四角台紙にはり,上記ペフ板の対応する番号の箇所に針で刺します.ゲニタリアのみ抜き出さずに腹部ごと取り外した場合は,1~4の水をスポイトで抜き,代わりに70%程度のエタノールを入れ,そこに虫体を入れて一時保管します(後で腹部を取り付けるため).
Spot plate の5~8番の穴に10%KOH溶液をスポイトで入れます.1の虫のゲニタリア(もしくは取り外した腹部)を,真下の5の穴に入れて,KOHで処理をして,観察しやすいようにします.上にシリコンシートを被せ,溶液が蒸発しないようにしてから,室温で12時間から24時間放置します.Spot plate の9~12番の穴に水を入れ,そこに処理の終わったゲニタリア(もしくは腹部)を入れ,KOHを落とすため,何度か水を変えながら洗います.
取り外してゲニタリアを抜いた腹部ですが,水で良く洗ったのちに残りの体にはめ込みます.虫体は四角台紙にニカワで貼り付けます.腹部がうまくはまらないときは仕方ないので腹部とそれ以外の部分を同じ1つの台紙の上に貼り付けます.
取り出したゲニタリアの保管方法ですが,体の大きなコウチュウの場合はゲニタリア・チューブを使用する方が多いと思います.しかし微小コウチュウの場合は,ゲニタリア・チューブに入れるには小さすぎて,入れるのも取り出すのも一苦労です.小さすぎて見失ってしまうこともあり得ます.虫体はニカワを使って台紙に張り付けましたが,同じ台紙の上にゲニタリアをニカワで封入します.まず薄くニカワを塗ってゲニタリアを後で観察したい角度で貼り付けます.その後,針などを使って,上からニカワをコーティングして封入します(図6).こうしておくとゲニタリアを保管するだけでなくて見たい時にいつでもすぐ観察することができます.