長泥にて2012年5月より山階鳥類研究所が野鳥の標識調査を実施している。
7月21日に鴫原さん宅で、8月11日に調査地で
鳥研の研究員・仲村昇さんと米田重玄さんにお話を聞いた。
稿末に2014年2月に知らせてもらった調査の正確な数字を補追情報として加えた。
【標識調査】
調査地にカスミ網を張り、網にかかった鳥を捕獲~ベースに戻って足輪を装着し調査票に個体の情報を記入~放鳥を、30分サイクルで朝5時頃から6時間繰り返す。これを1回とし、長泥の調査では10日間隔で年10回程度実施する。
鳥への負担を最小限に抑えるため一連の作業は有資格者が細心の注意を払って行う。
8月11日は調査に同行し、ベースでの作業の合間に話を聞いた。
*カスミ網は国際的に所持・使用が禁止されているが、学術目的でのみ許可されている。日本では山階鳥類研究所が監督管理している。
(2013年7月21日)
――標識調査というのは鳥の種類を見るものなんですか、あるいは放射線の影響も分かるんですか。
仲村 放射線の影響を知りたいんですけど、1回6時間の調査を10日に1回くらいの間隔で、去年の夏には9回調査したんですね。
これを何年か繰り返すと、例えばもしウグイスに悪影響があった場合に、ほかの地域のウグイスとこっちの地域のウグイスを比べると、ひとつがいの親から生まれる雛の数が平均して少ないとかという結果が出る、かもしれない。出ないかもしれない。
そういうことが海外では注目されているので、日本でも似たようなことをやりたいということで、線量の高い所に調査地を設定して、ほかに北海道とか新潟とか同じように調査してもらっている地域があるんですけど、そこと比べてどうなのか。
1年くらいの調査だと、たまたまこっちが暑かったとか寒かったとかで結果が変わっちゃうので何も言えないと思うんですけど、何年かやっても継続してどうやらこっちは鳥がうまく繁殖できていないようだっていう結果があるのかないのか、っていうのを見たいっていうのがひとつ。
あと、おとなの鳥はけっこう同じ場所で繁殖することが多いんです。かなりの確度で同じ場所に戻ってきます。
今年も去年足環をつけたウグイスが何羽も捕まっているんですけど、そうすると、そいつらは去年足環をつけて今年まで生き延びて、ひと冬越してまた夏繁殖していますっていうのが分かるんですけど、それがもし死亡率が高くなっているとすると、ほかの地域と比べておとなの鳥が次の年捕まる割合が下がるかもしれない、っていうのもチェックしたい項目なんですね。
若い鳥は最初の冬でけっこうたくさん死んでしまうのと、ぴったり同じ場所に戻ってくる確率が低いので、それは生き延びているかどうかの指標にはあんまりならないんですけど、おとなに関しては生き残っていればかなり正確に戻ってきます。
それが全部網に捕まるかどうかはちょっと分からないんですけど、ほかの地域となるべく同じ種類で、条件を統一して比べます。
そうすると、例えばチェルノブイリの報告の中では、ツバメがたくさん死んでいて鳥がいない状態になるので、他所からツバメが「あ、ここ誰もいないや」って入ってきてまた死んで、っていうようなことになっているっていう論文が出ているんですね。
ぼくはチェルノブイリは行っていないので本当のところは分からないですけど、ここ(飯舘村長泥)に関して言えばちゃんと帰ってきていて、それもけっこうしっかり帰ってきているので、鳥に関しては現時点ではまだそんなに目に見えるほど極端な影響は出ていないんじゃないのかなと思っています。
われわれがやっている調査地から3kmくらい赤宇木に入った所で一昨年、東大の先生がウグイスを4羽捕まえたら1羽の腰のあたりにぼこぼことできものができていて、理由はよく分かりませんけどね、っていう発表をしたんですよね。
理由が分かるまでは原因不明っていうことなんで、確かによく分からないので先生の言うとおりなんですけど、みんなその写真を見たら、これはもしかして放射線で癌になったんじゃないかとか心配しちゃうわけですよね。
ぼくら去年長泥で50羽くらいウグイスを捕まえたけど、そんなになっているやつは1羽もいなかったんですよ。だから癌かどうかは知らないですけど、少なくともぼくらが見た範囲ではあちこち鳥がみんな癌になって早死にしているってことも、とりあえずはないんじゃないのっていうふうには思っています。
放射線が高いのは事実ですし、野生動物に影響ゼロってこともないとは思うんですが、見える影響が出るかどうかっていう話なんで、虫とかのほうが影響が出るとしたら出やすいかもしれないですね。
ちっちゃな虫なんかだと1年に何回も、蝶なんか1年に3回4回って卵生んでおとなになってまた卵生んでおとなになってっていうのを繰り返しますから。
ネズミなんかも年に3回4回って繁殖したりするんですけど、鳥は種類によっては年2回くらい繁殖するのもいますけど、たいがい1回のが多いですよね。
地面の近くで暮らす鳥もいるし、ちょっと高い所が生活圏の鳥もいるので、鳥の種類によっても食べるものによっても被曝の度合いは違うと思うんですけど、ぼくらが見ている限りでは鳥はいっぱいいるし、捕まえた限りで去年と同じ個体もけっこう帰ってきているし、明らかにまずい状態なんじゃないかっていう感じの印象はないですね。
――事故があった年の5月6月から飯舘村に入って村内を回っているんですけど、去年一昨年に比べて今年ツバメはすごく多いような印象があるんですけど。
仲村 ああ、そうですか。去年の夏と今年の夏・・・今年のほうがちょっと多いかもしれないですね。今年は田んぼ(試験田)がありますからね。ツバメは田んぼなんかの泥を巣の材料にしているので、前の年と同じ場所に戻ってきても巣の材料がないと、ここはダメだって他所へ行っちゃうんですよ。
ただツバメはそんなに正確に数を記録していなかったのと、ぼくたちは飯舘では山の中に網を張っているので、ツバメが捕れない場所でやっているんですよね。町なかで数えたり捕獲すればツバメも捕れるんですけど。
――鳥とか動物に関しては世間的にすごくセンセーショナルに扱っているじゃないですか。
仲村 そうなんですよねー。ちょっと騒ぎすぎなんじゃないのっていう気はしていますね。
――例えば鳥の屍骸を拾ってきて感光材の上に1カ月置きっぱなしにしておくと、被曝していれば当然像として出てくるわけじゃないですか。それを、線量の高いところで拾った鳥の屍骸を撮ったらこんな結果になった、って発表しちゃうもんだから、それを見て世間はなんかこう・・・
仲村 たいへんだ、って思っちゃうんですよね。
――放射能のせいで死んだ、みたいに直結しちゃうんですよ。
仲村 ああ、そうか。ぼくはそこまで考えなかったけど、そう言われればそうですね。
――そうじゃないでしょうと。
仲村 そうじゃないですね。
――鳥なんて普通に死ぬじゃないですか。
仲村 死にます。けっこうばんばん死んでいます。
鴫原 馬の死んだのを撮った人もいたな。
――ああ・・・ご存じないかもしれないですけど、飯舘村で牧場をやっているところで馬が原因不明で死んだっていって、その馬をミイラになるまで放置してそれを写真家が撮って発表しちゃったんですね。
仲村 原因が分からないのに?
――原因は分からないんだけど、写真を撮るときに線量計と一緒に撮ったりするんですよ。そうするとその写真を見る人は馬の死因と線量計が示す数値を結びつけて見ちゃうじゃないですか。そういうやり方をする人たちもいるんですよね。
そうじゃなくて、生物に対する影響っていうのはもっと長い期間、時間をかけてちゃんとデータを取っていって、データとしてこういう結果が出てますってやっていかないと分からないじゃないですか。
そういうことを一切やらないで、いかにもそれが原因なんだって見る人に思わせるような形にしちゃう。
鴫原 ああいうのがいちばん困るな。
米田 データということで言うと、ひとつ問題なのは前の状態が分からないというのがね。
仲村 そうなんです、2011年以前のデータと比べたいんですけど、そのデータを持っている人はほぼいないので、線量が低い所と比べるくらいのことしかできないんですね。
あとはここで調査して何年も経つうちに状態が変わってくれば、それは自然自体が人の手が入らなくなって変わる影響もあるでしょうけど、もし放射線の悪い影響があったとして、そこから回復するところは押さえられる可能性はあるわけですよね、とは思っているんですけど。
まあ、2年目の印象では鳥はそんなひどいことにはなっていないんじゃないのって、ぼくはちょっとほっとしているんですけどね。そういうのはあんまりニュースにはなりにくい。
ニュース性は少ないですけど、そういうのも必要だなと思って。外国の人もちょっとね、ニュースがあるせいか、影響があるある、ひどいひどいって、すごい言いたがる感じなんですよね。それはすごい気にくわないですよね。
米田 人にもよるんだけどね、それをすごい煽る人もいるんですよね。
仲村 研究者でもいますね。やっぱり論文とか書くときに、特に何もなかったっていうのじゃあ、あまり注目を集めないですからね。
ヤマトシジミの論文はぼくは専門外なのでどうなのかなと思ったんですけど、蝶のプロの人たち、あの論文を書いた人もプロなんでしょうけど、もっとマニアックな人たち、蝶の標本をいっぱい集めているような人たちがいるじゃないですか、そういう人たちの中でも当然話題にはなったみたいで。
その人たちはやっぱり細かい変異とかよく見ているので、(ヤマトシジミは)変異がすごい多い種類だから変異がちょっとくらいあったからってあまりびびんなくていいんじゃない、っていうような話みたいです。
たぶん羽の模様の細かい変異をつっつきだすと、異常率が高いっていうことにすぐなっちゃうんですけど、それが放射線の影響かどうかっていうのをどこまで証明できるかっていう感じですよね。
ぼくもその人のウェブサイトとか見たんですけど、幼虫期に寒冷地で育つときに寒さを体験するとへんな模様になることがある、っていうことはかなり普遍的な事実というか個体を幼虫状態で低温度下にさらすと、100パーセントなのかどうかは知らないですけど、特定の異常パターンが出ると。
それとは今回論文で報告したのは違うって言ってるんですけど、ぼくとしては斑紋の異常うんぬんじゃなくて、畸形の、目の形がおかしいとか触角がおかしいっていうのの異常率だけで高線量域と低線量域、あるいは汚染ゼロの沖縄との比較をもっとモニター増やしてやってほしいですね。
斑紋ももちろんやっちゃダメとは思わないですけど、からだの外見的な構造がおかしいってやつが1割とか出るんだったら、そりゃちょっとたいへんかもって思いますけどね。
卵から成虫になるまでの生存率も低くなっているとか、いろいろ書いてありましたよね。
まあ、鳥よりは昆虫のほうが影響が出やすいだろうとは思うので、なんらかの影響が出てもおかしくはないと思いますけど。
あれはすごい数字が大きいのと、あんまり(被災地の)核心部に入っていなくて、周辺部の所で採っているのにこんなにメチャクチャ(異常が)出るのっていう、なかなかショッキングな報告でしたよね。
あんなのが事実だったら、このへんのカタバミでヤマトシジミを採ったら99パーセント異常とかになっちゃうんじゃないのっていう気がするんですけどね。
でもインターネットでいろいろ公開しているのと、受けた質問について自分のサイトで回答とかもしているようなので、本人はきっとまじめで煽っているつもりもないんでしょうけど、ほかの蝶の専門家からすれば、根拠不十分なのにやっぱり煽っているっていう見方をする方もけっこういらっしゃるでしょうね。
やっぱり生き物関係で調査をして、影響があったにしろなかったにしろ発表されている結果がまだとても少ないので、すごく注目を浴びやすいのは仕方がないなとは思うんですけどね。
ぼくらの調査も1年で発表できるような内容じゃ全然なくて。地元の方とかには、こういう感じでこちらの経過として、印象では特におかしな感じではないですよって説明はできるんですけど、学会で発表するレベルではまだデータがたまっていないしなっていう感じなんですよね。それが歯がゆいんですけど。
例えば片目がないやつが見つかりましたっていっても、放射線の影響かどうかはなんとも言えないわけで、たまにそういうケガをしている鳥はいることはいるし、明らかに放射線の影響っていうことが分かるような形で異常を検出するのは、けっこう難しいんじゃないのかなっていう気はしますよね。
昆虫とかはそういう意味では飼育しやすいし、年間で数回世代が代わるし、鳥よりは放射性物質の被曝とか(放射線を当てたエサを)食わせるとかの実験もしやすいので、ほかの人が追試しようと思えばできることですよね。
それで結果どうなるのか、別な人がヤマトシジミでやってみて同じような結論になったとか、あるいは全然違う結論になったとか、誰かやってほしいですね。
(2013年8月11日)
――標識調査で繁殖がうまくいっているかどうかというのは、どうやって分かるんですか。
仲村 例えばウグイスの個体数に対してどれくらい若鳥がいたかっていうことなんですよ。
ここらへんにいるウグイスのすべてを捕まえられるわけでもないし、例えば親鳥と若鳥が100羽ずついたとしても、それぞれが網に入る確率はたぶん違うんですよね。
親鳥のほうが用心深いし賢いので網にかかりにくいとか、高く飛ぶので網の上を越しやすいとかいろいろあるので、これが実際の比率かどうか分からないんですけど、同じ努力量でやっているということなので、今年と来年とを比較した場合この数字が変われば幼鳥の比率として多くなった少なくなったというのは指標としては言えるわけです、絶対値ではないんですけど。
それを何年かやれば今年は雛がたくさん生まれた年とか――生まれたっていうか巣立った年ですよね、生まれてから巣立つまでの割合は正直分からないので。
途中でたくさん死んでいるかもしれないし、途中でたくさん死んでいるけどそれでもたくさん雛になっているのか、ちょっとしか生まれていないけどそれがみんな雛になって巣立ったのでたくさんいるように見えているのか、っていうのは判断できないんですけど、最終的に卵から雛が育って巣立ちましたっていうところまでいくと一応繁殖は成功したということになるので、その成功した雛が多いか少ないかっていうのを、大まかにはつかめるはずということなんですよね。
これがすごい少なければ繁殖がうまくいっていない――例えば卵が放射能の影響でうまく孵らない、ちゃんと発生しないとか、あるいは雛も先天的な異常があって正常に巣立ちに至るまで育たないということがあれば、やっていくうちにかなりの幼鳥が死んでしまって、親鳥がたくさんいても雛が見つからないっていう状況になる可能性も考えられるんですけど、観察しているだけだとなかなかそれは分からないので。
去年はまあまあ雛はいました。今年はまだ最終的な集計はしていないですけど似たような感じになりそうで、すごく悪いって感じはしないですね、ある程度の母数がないと判断しづらいんですけど。
あとは線量が低い地域と比べてどうかっていうのももちろん見たいので、ほかの地域で同じような一定のマニュアルでやってもらっているような人たちがいるのでその人たちの結果と比べて、例えば飯舘だけ雛が妙に少ないと、それが何年も続いているっていうのがあれば、放射線かどうかは別としてここは繁殖成功率がここ数年はよくないらしい、ということが出るかもしれないし、出なければ少なくとも繁殖成功率は大丈夫そうですよって言えますよね。
あとは、親鳥に足環をつけると次の年にけっこう帰ってくるんですけど、かなり正確に帰ってきます。
同じくらいのエリアに縄張りをつくってまた子育てをするんですけど、そうすると同じ鳥がまた網に入る可能性があるんで、生き残っている親鳥のまあまあいい割合が網に入るだろうということです。死んじゃうのもいますし、まれに多少引っ越すのもいるかもしれないので、生き残っていても全部が捕まるわけではないので、あくまで指標ですけど。
去年足環をつけた親鳥のうち何羽今年も確認できましたっていう最低限の生存確認ですよね、それを毎年毎年やっていれば、例えば次の年には4割5割帰ってきますとか何割ぐらい帰ってきますっていうのが分かれば、大雑把にどれぐらい死んでいるかっていうのが目安として分かります。
ほかの地域と比べて確認数がすごい少なければ寿命が短いとかけっこうたくさん死んでいるんじゃないかっていう心配があるわけですけど、今年やっている限りでは去年と同じ鳥がたくさん捕まっているので、あんまり寿命は短くないんじゃないっていう気はしますね。
それも1羽とか2羽しか捕まっていない種類はほとんどデータにならなくて、なるべくたくさん捕まえたほうが説得力があるのでたくさん捕まえたいんですね。ふた桁とか、できれば20~30以上捕れていれば、複数年の結果を比較して、こういう傾向はありそうだっていうのが言えると思うのでやっているんですね。
去年よりメジロは多いですね、すごく。今年すでにメジロを39放してますから去年の倍くらい総数でいっています。
ウグイスは去年よりちょっと少ないんですよね。去年のまだ半分ぐらいしかいっていないですね。去年はウグイスはいっぱい捕れていたんですけどね。いっぱい鳴いているんですけど、鳴いている割には捕れないですね。鳴いているオスのたぶん半分以上は足環つけましたね。このすぐそばで鳴いているやつはきっと、全部じゃないにしろそこそこの割合で網に1回くらい引っかかって足環つけられていると思うんですけど。
――足環にはどんな情報がつけられているんですか。
仲村 まず「KANKYOSHO JAPAN」て書いてあります。海外で見つかる可能性もあるわけですよ、渡り鳥は。だからその足輪がどこの国でつけられたかっていうのをまず示さなきゃいけなくて。
国内で見つかる場合はまれに環境省じゃない、例えばペットでつけていましたっていうリングとかあるので、ちゃんとこれは環境省が責任を持つリングですよっていうのを示すために必要です。
これは全部山階鳥研が数十年管理していて、足りなくなったらイギリスに注文するし、在庫を管理しながら全国の調査員に配給しているんですね。
それから、だいたいアルファベットが1個ついてそこから5桁の数字になります。リングの大きさごとにアルファベットと数字がついていて番号がだぶらないようになっています。
アルファベットの前についてるのがリングのサイズなんですよ。この2番リングだけはもうZまで使い切ってしまったのでアルファベットを2桁にしています。
これはデータベースに1年単位で全部登録するので、検索かければ見つかったリングについては、これは何年何月何日にどこで誰が何という鳥につけましたということが分かります。
ここ(調査票)に書いてあるのは日付けと番号と鳥の種別・年齢までが最低限必要なことで、この夏の繁殖期調査はもうちょっと細かいところまで見ていますけど、データベースに登録されるのは主に日付けと場所と種類、性別と年齢ですよね。その他備考欄があるので多少書きたいことがあれば書けます。
性別が分からないとか年齢が分からないとかがあるんです。特に繁殖期を過ぎちゃうとどっちもハゲ(抱卵斑)はなくなるし、オスメスで同じ色をしている種類なんかは性別が分かんなくなりますし。
あまり触ったことのない種類だと若い鳥とおとなの鳥の差も区別がつかないこともあるので、不明なら不明でいいんですけど、分かる限りで書いておくと、数カ月後とか1年後、何年後かにもう一回捕まったときにもすぐに分かるし、ほかの場所で捕まったときにも分かるんですね。
同じ場所に帰ってきた場合にはたいていその捕まえた人が初回のリングをつけたときのデータを持っているので、ちゃんと管理している人なら、これは去年おれが放したやつだとか10年前放したやつだとかすぐ分かるんですけど、ほかの人がつけたやつだと分かりようがないんですよね。
なので山階鳥研の標識センターに、何月何日にこの番号の鳥をこの調査地で捕まえたんだけど、こいつの素性を教えてくれって問い合わせをすると、何年後にここまで行っていましたとか、あるいは数日後とか数週間で北海道から沖縄まで行っていましたとかっていうことが分かったりするんです。
それが普段の標識調査の目的で、移動確認とか、どれくらい長く生きたかっていう確認です。
哺乳類の調査だと歯を使えば年齢がだいたい分かるんですよね。熊の調査を手伝ったことがあるんですけど、牙の後ろの退化した奥歯があって、ほとんど使われていないんですよ。それは抜いても熊の生活にはほとんど影響はないと言われているので、年齢の分からない熊を捕まえたら麻酔で眠らせて発信機をつけたりしている間に、1本その小さい歯をぺこっと抜いちゃうんですよね。あとでそれをスライスして色を付けると縞が出てきて、3歳とか10歳とか分かるんです。
鹿はたいてい歯の磨り減り具合で調べたり、あとは死体があればやっぱり歯を調べます。魚だと鱗の年輪とかありますよね。
鳥はそういうふうに年齢を計るものがないんですよ。いまの時点では知られていなくて。
若い鳥はちょっと粗末な羽があったり、きれいな色になっていなかったりすることがあって、そうすると今年生まれの若い鳥ですとか判断できる場合もあるんですけど、完全におとなになっちゃうと、おとなになって1年後とか2年後3年後とかは色が変わらないんですよね。
なので何歳か分からないっていうことがあって、野生で何年ぐらい生きるかっていうことが分からないんですよ。
飼育すればもちろん何年生きるか分かるんですけど、エサをしっかりもらったりして飼育条件ってやっぱりいいので、それも参考にはなりますけど、野外でどれぐらい生きているかっていうのを調べるには、標識をつけておいて確実に同じ個体が10年後に捕まりました20年後に捕まりましたっていうのがあると、最低これくらい生きましたとか、あるいはつけたときにゼロ歳って確定していれば再び見つかった時点でぴったり21歳とか、そういうのが分かるんですよね。
このへんの小っちゃい鳥はまあ長生きして10年弱ぐらいの鳥なので(足環をつけてから)5年も生きればけっこう長生きだねっていう話なんですけど、大きい鳥になると20年30年生きるんですよ。
カモメとか30年ぐらいの記録があって、けっこう長生きですよね。まあ30年生きるのは比較的まれだと思うんですけど、10年20年平気で生きる種類はけっこうあって、その場合も足環の記録から野外寿命っていうのを推定っていうか記録で確認しているんです。
観察で見るよりも細かいところまで見られるので、年齢とかも分かる限り記録しておくと、年によって雛がたくさんいるいないっていうのも分かるので、いろいろ活用できるんですね。
ただ網を張る方法だとなかなか捕まらないとか全然捕まらない種類があって、そういう種類はなかなかいいデータは取りづらいですね。
米田 例えばサギなんかだったらコロニーに集まって繁殖するから、そういう鳥はそこに行って捕まえれば、おとなは捕まらなくても子どもは捕まるんですね。それの経過を見ればね。
仲村 もう一回捕まえるのは、カモメだと雛は飛ばないで地面にいるので捕まえられるんですけど、自由に飛ぶようになるとなかなか捕まらなくなるんですよ。でも足環の番号が大きく刻んであればスコープで読み取れちゃうんですよね。そうすると、あいつは何番だから何歳っていうのが分かるので、鳥の人口統計みたいなのが出せるんですよ。
仲村 クワガタマニアが幼虫も捕るんですよね。自分ところで育てるともっと大きくできる場合があるので。それで(幼虫を捕るために)腐った木をぶち割るんですよ。
あるいはエサ用に持って帰ったりということを山で根こそぎやったりして、朽木という朽木を全部破壊していったりするらしくて。
すると本来山で朽木を食べようとしていたほかの虫とか生物とか、あるいは同じ種類のクワガタでも次から産卵場所がなくなったりして、その後の個体数とかに悪影響が出ることもあって、マナーの悪い人がいると地元の自然保護団体とか山の持ち主とかから、山を荒らしてろくでもねえやつらだってけっこう怒られることがあるみたいですね。
――そういう環境といった意味では、いま除染がどの程度の影響があるのかなと思っているんですが。
仲村 ああ、ありますね、きっと。地面にある落ち葉とか朽木をどんどん捨てていますもんね。あれはけっこう影響があると思いますよ。
――飯舘村でホタルを撮っているんですけど、たぶん半径数百メートルの範囲で除染しちゃうと、そのエリアのホタルが全滅しちゃうんじゃないかと思って。
仲村 ああ、それはあり得ますあり得ます、すごい心配です。
――ただまあ、いまのところ除染といっても人家の周辺だけでやっているので、山のほうはほとんど影響はないと思うんですけど。
仲村 そうですね、広域全滅にはならないでしょうけど・・・
米田 でもかなり斜面(の植物を)刈ってますよね、きれいに。
仲村 それはやっぱり人家の近くだからでしょう。飯舘の町中の道路脇とかけっこう派手にやっていますよね。
――実証試験だと山の中でもけっこう伐採していますよ。
米田 線量を下げるために除染するのか環境を残すためにそのままにするのかというのは、完全に相反するアレだから、しょうがないっちゃしょうがないんだけど・・・
――鳥であれば飛んでいって移住はできるんでしょうけど。
仲村 植物と虫レベルでは厳しいものがいるでしょうね。
米田 特に草花とかはね、すごい被害を受けそうやね。
――飯舘の中でも自分ちの裏山にクマガイソウを植えている人がいて、そこはぎりぎり除染の範囲から外れているらしいんですけど。
仲村 それ除染したら全滅しますよ。木を切り倒しても枯れますよね、日陰が必要なので。
米田 環境ががらっと変わってしまうな。
――長泥でもコミュニティセンターのモニタリングポスト(MP)は1μGy/hを切っていますけど(2013年8月現在)、あれは周りをかなり広い範囲で除染してその真ん中にMPがあるような状態なんで。
まあ、そこまでやればそれだけ下がるという実証にはなっているんだけど。除染して客土したところにいまは既に雑草がいっぱい生えて虫も戻ってきているんですけど、たぶんそれ、もともとそこにいた虫と入れ替わっちゃっていると思うんですよ。
米田 種類が替わっているでしょ。
仲村 そうでしょうね、種類が替わるでしょうね。
――事故のあとの処理の仕方なんか、多様性ということを無視して一面的にしかやっていないような感じがしますよね。
米田 まあ、ほとんど人間の都合だけでやってしまうっていう感じやね。
――しかも現場を見もしないで机の上だけで計画立ててるし。
――長泥で調査しようっていうのは、そもそもの最初から決まっていたんですか。
仲村 去年(2012年)の夏からこの調査をしたいということで去年の1月2月から計画し始めました。ほんとは一昨年からやりたいねって言っていたんですけどおカネがなくて。
で、そのときに30km圏くらいが一時的に立ち入り禁止になっていましたよね。じゃあその外側は自由に入れるだろうということで、いちばん線量の高いところが(事故原発から)北西部に延びた山のところなので、飯舘のなるべく南の方が線量高いだろうと、もし悪い影響が出ているとしたらこのあたりのほうがおそらく検出しやすいだろうということで。
ただこのへんは網を張って捕まえやすいいい河原がないんですよね。そうすると山の中に張ることになるんですけど、適当に張るとどんどん鳥が(網の)上を飛んじゃって捕れないんですよね。
ワーク効率が非常に悪いので、航空写真をGoogleとかで眺めながら、どこか鳥を捕まえやすいところはないかなと探して。
あれ(捕獲用網)を10枚、幅が1枚12m(高さ2m)なので約120mの延長で張って、(近くの別の場所に)5枚張ってあるおまけの方は去年の途中から張るようになったんですけど、そこもけっこう効率よく捕れているので、まあ結果的にはこの場所を調査地に選んでよかったなと思っています。
来る前に時間をかけた現地の下見はあまりできなかったので、航空写真だけで場所を決めるというかなりの賭けだったんですけどね。
ただ調査は飯舘の南部の、できれば線量が高いところで調査したいということで計画していました。
――場所の選定のあとで管理ゲートが設置されることになったわけですね。
仲村 そうです。去年5月の下旬に来て網場を作って、5月に1回、6月に3回調査して、7月の調査中かなんかにドーンとゲートができちゃって。
いつも南相馬からこっちに移動してきていたのであっちの(南相馬から赤宇木に入る)ゲートにぶち当たったわけですよ。通れなくなっちゃったということで、村役場にも聞いてみたんですけどダメですっていうことで。
去年せっかく溜めたデータを同じポイントでやらないと返ってくる答えの確認ができないので、伝手をたどってなんとか(通行許可が)取れたんですね。
――こういう(野鳥への放射能汚染の影響)調査は世界で初めてになるんじゃないですか。
仲村 それは・・・世界で初めてかどうかは分からないですね。チェルノブイリでは長期的なこういう調査をどれだけやっているのか、分からないですね。
インチキくさい人が(笑)ツバメで報告はしていますけど、各種鳥類でやったかどうか定かではないし、やっていたとしても僕はその報告は見たことがないので。
アメリカとヨーロッパではこういう、繁殖期に定期的に6時間くらいの調査をするっていうのは、アメリカの調査はチェルノブイリの事故のすぐあとぐらいから始まって、ヨーロッパはさらにその数年前からイギリスで始まっていたので、けっこう蓄積があります。
例えば福島第一原発の事故の放射性物質が拡散して太平洋を越えてアメリカにもばらばら降っていて、それがもしアメリカの鳥に影響が出るようであれば、アメリカでやっている人たちの調査で何か検出される可能性もあるんですけど。
繁殖の成功に関しては地元の気象条件がいちばん影響すると思うので、よほど調査地点数を多くして、気象条件やほかに該当しそうな原因がないのに広域で悪い影響があるとかっていうのがあれば(放射線の)影響があるかもしれないって出るんですけど。
アメリカの中でも原発事故が起きていますよね、スリーマイルとか。こういう調査地点がアメリカに何百地点かあるらしいんですけど、それがスリーマイルの近くでやっていれば、スリーマイルの影響がどれくらいあるとか、あるいはその後時間をかけて回復してきているとかっていう記録があるかもしれないので、(われわれの調査が)世界で初めてかどうかは分からないですね。
米田 結局、事故がなかったらここでも調査はしていなかったかもしれないし、事故の前の調査っていうのがないんですよね。それはもう、どうしようもないことで。
仲村 非常につらいですね。われわれの調査の結果、どうもここはほかの地域と比べてなにか、例えば繁殖率が低いみたいだという結果が出たとしても、もともとここは放射線の影響が起きる前から繁殖成功率が別の原因でいつも低いっていう可能性はあるわけですよね。だから、そう言われると過去のデータがない人はあまり大きな声でものが言えなくなっちゃうので。
米田 だからまあ、やり方としてはほかの所と比べてどうだったかっていうやり方でしかないわけなんですよね。
――以前から同じような調査をしていた地点っていうのは、日本にあるんですか。
仲村 日本にはないですね。ちょうど始めようといったときに事故が起きたので。もっと早くに始めていればよかったってなったんですけど。
特に渡り鳥の調査は秋がいちばん簡単にたくさん捕まる時季なので、いままでは移動を調べたいとか寿命を調べたいということで、秋と春のたくさん捕まえられる時季に頑張ってやろうと。
夏の繁殖活動をしている時季はあんまりたくさん捕れないし、やり方がまずいと鳥の負担が大きくて繁殖の邪魔をしたりということになりかねないので、山階鳥類研究所としても各地の調査員に(夏の調査は)あんまり推奨していなかったんですよね。
やっぱりもうちょっと前から、ベテランの人は可能なら夏も調査してねって言っときゃよかったんですけど。惜しいことをしましたね。
――ここで何種類くらいの鳥がいるんですか。(稿末に正確な数を補追)
仲村 捕獲した種類は今回の調査までで21種になって、去年捕まえて今年捕まえていないのが1種いるので、2年間で22種捕まえているんですね。
捕まえていない範囲で姿とか声で確認している種類が15~20くらいはいると思うので、40種くらいは確認していると思います。
――それは一般的に山中で確認できる数として、特に多いとか少ないとかということはないんですか。
仲村 少なくはないですね。夏の時期はそんなにたくさんは種類は増えないんです。渡りの時期の秋はすごい増えるんです。春もまあ賑やかになるんですけど、冬と夏は比較的鳥の移動は少なくて、そこに居ついているやつばかりなので、あんまり種類は多くないんですけどね。
(調査期間の)5月末から6月7月8月半ばまでで言えば、まあまあいいほうだと思いますね、森の中としては。
――外見上のなにか変化というものは確認できましたか。
仲村 去年と今年2年間で見ているなかでは、嘴の形がおかしいとか、羽がどこか白くなっているとか、そういうのは見かけないですね。
部分的に白くなるというのは、チェルノブイリではツバメで報告されていて、国内でもツバメに白い点があるとか言っていますけど、福島以外のエリアでも同じぐらいまじめに観察してどれくらいいるのかっていう数字を出してくれないと(なんとも言えない)っていうのがあります。
見ているだけだと、白い点々があるやつは「あそこにいた、こっちにいた」となって、例えば撮影すればこいつとこいつは違うからと(個体を識別できるので)いる数をほぼ全部数えられる可能性はあるわけですけど、白い点がないやつはみな同じに見えるわけですよね。そうすると、そっちは数を過小評価される可能性があるんですよね。
捕まえて足環をつけて全部区別しちゃえば、おかしくないやつが何羽捕まったのに対しておかしいやつが何羽っていう割合をかなりはっきり出せるんですけど、観察だとそのへんかなり誤差が含まれちゃうかなという心配はありますね。
事故前から多かった可能性も言いだすときりがないので、線量の低いところでも努力してデータを積み重ねて、それよりも明らかに数倍多いっていうようなデータを出してからでないと騒ぐべきではないと思うんですよね。
――そういうデータを得るためには調査は最低何年くらい必要ですか。
仲村 できれば1年だけじゃなくて数年間見るべきだと思いますね。
5年、少なくとも3年とかやって、それで毎年毎年出現率がこのくらいで、他所と比べて明らかに高いっていうところまでいっても、それでも放射線の影響かどうかは断定できないわけで、ちょっと変わった個体を1羽とか2~3羽見つけたくらいで騒ぐのはどうかな思いますけどね。
例えば南相馬の川原でも調査しているんですけど、南相馬のウグイスの中に何羽か、ちょっと頭の毛が薄くて明らかに禿げているんです。で、そのへんの皮膚が黒ずんでいて外見上なんかおかしいなっていうのが何個体か、去年と今年見られています。
ただ、それがなんのせいか分からないですし、たまたまその地域にそういう血統というかそういう特徴を持った家系があるのかもしれないですけど、震災の前の情報がないので分からないんです。
こんなのがもし飯舘で捕まっていたら、放射線の影響じゃないかってみんな思うわけですよ。でも飯舘村のウグイスにはそんなの一羽もいないわけですよ。だからねえ・・・異常個体を若干見たからって騒ぐのはほんとに軽率だなっていう気はしますね。
――南相馬にそういう鳥がいるのに、線量の高い飯舘にいないっていうのは、それはそれで妙な話ですよね。
仲村 そうなんですよ。だから少なくともその異常は空間線量とかに依存していないわけです。
同じ異常が阿武隈川のほうで1%くらいのやつが飯舘へ行ったら20%だったとかいったら、ひょっとしてとか思うかもしれないですけど、飯舘ゼロなので、まあ関係ないんじゃないのっていう気はするんです。原因は分からないですけど。
そういう異常個体は北海道みたいなところでも見たことはないですね、ウグイスではね。
でも北海道だと、いままでやっている捕獲調査で嘴の形がおかしい鳥とか事故の前からけっこうぱらぱら見かけていて、もう亡くなったぼくの師匠だった先生なんかは、昔はそんなに見なかったのに最近嘴がちょっと畸形になっている鳥を見かける頻度が増えてきたっていうことを、7~8年前にもう言っていたんですね。なんかおかしいと、心配だと。
海外では化学物質汚染とかで若干畸形が増えるっていう報告もあるので、日本でもそういう関連を調べたいっていうようなことを言っていたんですけど、もし飯舘で嘴の形がおかしいのが見つかると、簡単に放射線のせいにする人が現れそうだなと思って。
だいたいそういう人に限って昔の情報とか他所の地域でそういう異常個体、畸形個体を見かけましたなんていうのを十分に調べないで発表するわけですよね。
タンポポの話だって、昔から全国あちこちで「お化けタンポポ」っていうニックネームでいろいろへんなのが観察されているわけで、それの頻度についてもまじめに探すとたぶんいくつか報告はあると思うんですよ。それすら調べないで自分が飯舘で見ましたってだけで、それも数えるのは危険なので概算で0.1%とかって数字まで出すというのは、おかしな話なんですよね。
――まともに考えたら話にならないんですけど、そういうなにかしら危険性を裏付けるような情報をほしがる人はいて・・・
仲村 一旦そういうので騒ぐと根拠が薄くても拡散して、それがどれだけいい加減かっていうのは、なかなか広がらないんですよね。
――反対にそういうことを言うと原発推進派だとか、あるいは御用学者だとかのレッテルを張られたり。
仲村 ほんとに原発に近いところは影響がゼロとは思えないし、当然(線量が)高い地域ほど影響が見えやすいと思うんですけど、でも木とかにそんなにすぐ影響とか出るかねと思いますよね。
1年草だったら多少影響が早く出る可能性もありますけど、タンポポって1年草ですか? 違いますよね。アサガオみたいに種子を蒔いたらその年に花が咲いて実をつけます、本体はその年に枯れちゃいますっていうのが1年草ですよね。
タンポポなんかは綿毛の種子はちっちゃいので、その年のうちには花を咲かせられないわけですよ。そうすると芽を出して、最初はちっちゃい葉っぱを出して、一所懸命光合成をして、ちょびっとゴボウみたいな根っこをつくって、それで根っこに栄養を貯金して、2年とか3年かけて貯金が満期になったらやっと花を咲かせられるわけです。で、タンポポはそれで枯れるわけじゃないですよね。
米田 枯れない枯れない。
仲村 何年か連続して花を咲かせるわけですけど、そうすると例えば種子が被曝してもし遺伝子に異常があったとしても、2011年に被曝した個体からできた種子が、もしほんとに畸形個体が出るとしても、花が咲くのは早くて2013年ですよね。もしかすると2014年以降じゃないのという気がするんですよ。
だからもし2012年にあんなおかしいタンポポを見たっていう場合は、それは(原発事故による)放射線の可能性はけっこう低いんじゃないの、っていう気すらするんですよね。
――あるいは、もともと畸形の出現率が高かった可能性もありますよね。
仲村 そうです、ありますあります。
――いまとなっては分からないですよね。
仲村 そうなんです。だからね・・・あれはほんとね、論外ですよね。あと、読む人も多少は科学的知識を持って読んでくれって思いますよね。
――世の中的には、とりあえず危険だと思っていれば安心できるっていうのがあるんじゃないですかね。
仲村 それは分かりますね。そして福島の農産物でも風評被害がすごいんですよね。農協とか必死で全量検査とかやっているんで、ぼくら毎回特売所でいっぱい買って帰っておいしいおいしいって食べてますけど、野菜も果物も。福島とひと口に言っても広すぎるのにひと括りにしたら、ほんと可哀想ですよね。
仲村 レコードチャイナっていうネット上の中国メディアの日本語サイトがあるんですよ。いろんな中国のニュースを翻訳して紹介していて面白いのでたまに見ているんですけど、その中で日本のなんとかっていう人が、福島県の人はこれからもう結婚しないほうがいいみたいなことを言ったっていう記事が流れていたんですね。
そんなこと言うやついるのかなと思って、そのなんとか大学のなんとか研究所のだれだれっていう、その人が日本に実在するのかと思って、それすら怪しいと思ったので日本語で検索かけてみたんですけど、ヒットしないんですね。
だからぼくの中ではその人の実在をけっこう疑っているんですけど、ほとんどデマじゃないかという気がしているんですけど、仮に実在するとして、ネットでひとつも引っかからないっていうことは、たぶんまともな話をしているレベルの人じゃないんじゃないのっていう気がするんですけど。
――中国メディアってかなりいい加減ですからね。人名なんか間違えたまんま出していたりするし。ただ、そういうことを言っている人がいるのは事実です。
その人がなんで名前を知られるようになったかっていうと、放射能の汚染マップを作ったんですね。公表されていたとびとびのデータを火山灰の飛散のデータを応用して線でつないで色分けしたマップをツイッターで発表して、当時まだ情報が少なかったり錯綜していた時期だったので、それで汚染の状況を知ったとか危機意識を持ったという人がたくさんいて。そのおかげで自分は救われたというふうに言う人もいます。
その人が何を言っているかというと、福島はもうダメだとか、あるいは福島で農作物を作る農家は人殺しだとか。
仲村 うわー、信じられないなー。とんでもないなー。
――東京でそういう主張をする人たちが中心になったセミナーみたいなものを開いて、その人がパネリストになって発表して、会場からの質疑応答で、いわきだか相馬だか出身の人が、あなたはそういうふうに福島の人間を誹謗中傷したけれども、自分は福島出身の当事者としてそのことの真意を問いたいと発言したとき、その人はあなたのことを当事者とは認めないとだけ言って回答しなかったんですね。どういう理屈なのかよく分からないんだけど、その質問者は事故以前に東京に出てきていて・・・
仲村 被曝していないと、いうことですかね。
――被曝していない、あるいは事故の被災者ではない、という意味で言っているのかなと。
仲村 でも、それだけじゃ答えになっていないですよね。
――だから答えることを拒否しているんですね。あなたは当事者じゃないんだから、わたしはその質問に答える責任はない、というような対応。
それ以前にもツイッターで福島に対するヘイトスピーチ的な発言をばら撒いていて、それで勤務している大学にクレームを寄せた人が何人かいて、大学のほうから訓告だかなんだか、大学が教員の個人的活動に介入することの是非はともかくとして、そういうことはやめろと言われたらしいんだけど、結局また繰り返してますよね。
最近ちょっと路線変更して、福島はもう線量下がったんだから大丈夫だよみたいなことを言いだして、じゃあ最初のあれはなんだったのっていったら、それに対する言い訳としては、あのときはデータが不十分だったんだから福島を忌避するのは当然だったんだ、というような言い方をしていますよね。
仲村 まともな研究者は情報不足のときに、あんまりいい加減なことを言わないように慎重になるものですけどね。
それに飛びついちゃう人も、誰かの言っていることを正しいと信じてそれを拡大再生産すると、その説の責任は自分にはない、先生がこうおっしゃっていると。
ほんとにそうなのか、その影響に責任を持つのかと聞かれても、先生がおっしゃっているというだけのことですよね。信じるものがほしいだけですよね。
――例えば原発にしても、反原発の運動というのは昔からあるわけじゃないですか。だけど実際にこういう事故が起こるまではみんな原発を受け入れていたわけですよね。
それは東電なり国なりに騙されていたんだと言うけれど、原子力ムラが安全神話をわれわれに植え付けたのであって、われわれはそれを信じていただけなんだというのと、被災者を貶めてでもなにかしら権威らしきものにすがって安心したいというのと同じだと思うんです。
仲村 思考停止になっていたっていうことですからねえ。自分の責任は全部免れられると思っていたら、それは間違いですよって。
――東京電力の管内に住んでいて原発の電気を無自覚に使ってきた責任というものがあるはずだと思うんですよ、自分を含めて。
東電と国の責任がとても大きいものがあるのは、それは動かせない事実だけども、それを抜きにしておいて反原発を、言うなら言うでまあいいんだけども、その流れでもって福島を貶める・・・被災地、被災者を貶める、それは全然違う・・・違うというレベルのものじゃないですよね。
それに一部の学者とかジャーナリストとかが乗っかっているわけですよね。
仲村 もちろん乗っかっていない学者もけっこういると思いますけど、あんまり積極的に発言するとたしかに御用学者だって言われるリスクを恐れるっていうのも、あるでしょうね。それに、影響がそれほどないというのを示すことも、実はけっこう難しいですからね。
――放射能の影響であると証明するのが難しいのと同じように、影響ではないと証明するのも難しいですよね。
仲村 そうなんですよ。時間とお金をかけてあんまり影響がないですって示すのもけっこう難しいので。
農協みたいに高い機械を買って検査して、検出限界以下ですってデータをいっぱい出すっていうのも、もちろんポイントポイントでできることで信頼回復にいちばん大事なことだと思うんですけど、長期的な影響なんてこれから見ていかなきゃいけないことだし、それに人体実験なんてできないわけですから、やっぱり野生動物をなるべく長期的に見ていくっていうのがひとつの参考になるとは思うんですね。
だけど、なかなか時間と手間をかけた調査をするのはたいへんなので、やっている人はちょっと少なそうですよね。昆虫の調査をする人もどれくらい現地に入っているのか分からないですよね。
ぼくらも去年も今年も10日にいっぺんくらいしか入っていないですし、でも朝の暗いうちから昼前くらいまで同じ場所にいて、張った網を見回っていないときは道路にいるわけですよね。あるいは南相馬とかぷらぷらしていますけど、虫の調査をやっている人とか見かけないですよね。
来ているのかもしれないですけど、全国にいる動物、植物の研究者ってすごい数いると思うんですけど、それがみんな福島に来いとは言わないですけど。東大の先生が来ているのは1人会いましたけどね。
あと被災地も広いですから、どれくらい来ているのかなっていうのは気にはなっていますね。
ぼくらもいちばん(線量の)濃いところは行っていなくて、かなり濃いところまで行った人に会ったことがあります。
環境省の依頼で行ったって言っていましたけど、車から原発の建屋が見えたって言っていましたからね。すごい短時間で出てきて、総被曝量はぼくらより少ないんですよね。
ぼくらは去年は1回3泊4日で100μSvくらい被曝したんですけど、今年は60~70μSvでしょ。今年と去年でもかなり下がっているんですよね。
書類を整理している間とか待っている間は道路にいるわけですけど、道路の上は(線量が)低いですからね、そんなに被曝しないんですよ、あんな山の中にいても。
でも、もしかしたら生物研究者の中で来ない人の中には(被曝を)恐れて来ない人もいるかもしれないですよね。
チェルノブイリで植物に影響が出たなんて話、聞いたこともないし、誰も調べていないんですかね。チェルノブイリではお化けタンポポが50%ありますとかいうんなら、タンポポを調べる価値は大きいなあという気はしますけどね。
まだ、2年半経っても、生き物関連で信頼性の高い報告はあまり目にしていない気がするんですよね。環境省は情報を持っていると思うんですけど、あんまり出している気配がないんですよね。
恐らく原発に相当近いところでミミズとか魚とか虫とか捕っているんですよ。たぶんそれのサンプルの線量とかは測っていて、公表しろって言ったら公表すると思うんですけど。
ものすごい高い値のミミズが出たりしたら、じゃあその付近でミミズを食べる鳥はどうなるのかとなりますけど、それが例えばミミズに畸形がどれくらいいるのかとかっていうのは、記録しているのかどうかも分からないし。
そもそもミミズの場合、畸形があったとしてもわれわれに分かるのかとか、Y字形のミミズとかいたら面白いかもしれないですけど、われわれの観察で区別できるような顕著な畸形があるのかどうか。
あるいは生息密度とかって場所による差が大きそうなので、ちょっとミミズが少ないっていっても、他所だって多いところから少ないところまであるでしょうから、多少多いとか少ないとかっていってもそれで放射能の影響どうこうは言えないですよね。どこ掘ってもミミズがいないとなったらちょっとマズイかもしれないですけど。
ほんとに建屋の1km以内とかで野生動物調査をして、例えばそこにツバメの巣があって、そこの雛が背骨が曲がっていて飛べないとかいうのがあるんだったら、それは被曝のせいだろうとは思いますけど、このへんではそんなん、ないんじゃないの、っていう気はしていますね。
あと、生き物はもともと放射能とかいろんな原因で遺伝子は傷つくんですよね。宇宙から自然放射線は入ってくるわけで、そういういろんな理由で発癌性物質とかを取り込んだときに遺伝子が傷つくわけですけど、じゃあすぐ癌ができるかっていったら、できないんですよ。
遺伝子修復能力を持っているんですよね、生物は。ちょっと壊れたら、ハイって直せるんですよね。
だから通常の、年間1mSvでしたっけ、自然放射線を浴びても直せちゃうんですよね。その程度で癌にならないわけですよ。
じゃあそれが2mSvになったらどうなのか3mSvになったらどうなのかっていう話なんですけど、修復し損なう確率がちょっとずつ高まりますよっていう話で、5m~10mSvくらいだとたぶん統計的にほとんど差が出ないほどにしか変わらないと思うんですよね。
人間ならほかにいっぱい発癌要素はあるわけで、家系もそうだし食品添加物とかタバコとかあるわけで、癌になったらどれがいちばん大きな要因だったか分かりゃしないわけで、そこに超強力な放射線を浴びていなければ、そんなに極端に変わらないだろうと思うんですよね。
補追情報:上記の日付以後に実施された調査も踏まえ、捕獲数などの正確な数字を仲村さんから教えてもらった。そのメールから該当箇所を以下に引用する。
実は、外見の異常については、前田さんとお話した後に、数個体が確認されました。
南相馬市のオオヨシキリ1羽で、3枚の羽根が白くなっている個体がいました。あとは、飯舘村のサンコウチョウ1羽で、羽根1枚が白い個体がいました。
また、2013年の1回目として5月下旬に飯舘村に行った時、ゲートを通行できなかったため、仕方なく元の調査地より3km西の地点で、1回だけ調査した(通行証が得られたので、6月上旬の2回目から元の調査地で実施)のですが、この時にクロジ1羽で顔や胸の羽毛の一部が黒化(本来黒くない羽根が真っ黒になっている)している個体がいました。
私は、羽毛が部分黒化した鳥を見たのは初めてでしたし、他でもごくわずかの例しか聞いたことが無い、(部分白化などと比較して)珍しい羽色異常です。
ただ、クロジは夏に飯舘にいない種なので、北方または高標高の山地から移動してきて、飯舘で越冬していた個体と思われます。このため、以下の「福島県で繁殖している鳥」の捕獲数には入れていません。
2012年は繁殖期に県内3地点で24種469個体の鳥を捕獲して、羽色の異常はゼロでした(南相馬で、後頭部が剥げて皮膚が黒ずんだウグイスが1羽いましたが)。
2013年は繁殖期に県内4地点(郡山でも8月に1回ツバメ捕獲をして、44羽標識しました)で35種539個体を捕獲して、羽色異常が2羽でした(南相馬では6羽の皮膚黒化ウグイスがいました)。数だけで言えば増えたことになります。
ただ、原発事故前から、部分的に白化した鳥は各地で何度も見たことがあるので、この結果については、もうしばらく推移を見守る必要があると考えています。
また、一般的な野鳥での羽色異常の出現率についても情報が乏しいので、データベースにある過去記録などを探ってみるつもりです。