最終更新:2012年11月6日
2010年3月と2010年2月に、タイ王国にて資料等の調査を実施しました。ここではそれについて紹介します。
[経過]
3月3日 (水) タイ王国着、調査協力者と打ち合わせ
3月4日 (木) 国立公文書館、国際交流基金バンコク事務書図書館、古書店(3軒)にて文献調査
3月5日 (金) チュラーロンコーン大学総合図書館、文学部図書にて資料調査、日泰文化会館建築予定地であったルンピニー公園見学
3月6日 (土) 日泰文化研究所、日本文化会館があったター・チャン周辺視察 バンコク王朝の重要史跡等見学
3月7日 (日) アユッタヤー王朝の重要史跡見学
3月8日 (月) 国立図書館音楽資料室、国立図書館本館、タイ国立文化センター資料室にて資料調査
3月9日 (火) タマサート大学図書館、シルパコーン芸術大学図書館にて資料調査
3月10日 (水) バンコク・アート・アンド・カルチャー・センター見学
3月11日 (木) 日本帰国
[協力者](順不同、所属は当時)
岩井茂樹(チュラーロンコーン大学)
パッチャラーパン・スワンナクート(チュラーロンコーン大学文学部日本語学科)
ナムサイ・タンティスック(チュラーロンコーン大学文学部日本語学科)
[入手した文献・資料等]
日泰関係に関する外交記録等の資料集、1942年版(1943年発行)(タイ国立文化センター資料室所蔵)
"The Thais at Leisure: The Thai Pavilion, World Expo 88, Brisbane, Australia", Bangkok: Department of Export Promotion, Ministry of Commerce, Royal Thai Fovernment, 1988.
The Siam Society, "Culture and Environment in Thailand: A Symposium of the Siam Society", Bangkok: The Siam Society, 1989.
『泰日王室・皇室慶祝祭』プログラム冊子、1990年。
Cornelis B. Evers, "Death Railway", Bangkok: Craftsman Press, 1993(?).
Milton Osborne, "Southeast Asia: An Introductory History", Seventh Ed., Chiang Mai: Silkworm Books, 1997.
水野うしお『タイにはタイの事情がある』、Chiangrai: Aree Books、2005年。
Direk Jayanama, Jane Keyes, transl., "Thailand and World War II", Chiang Mai: Silkworm Books, 2008. (original text 1967)
"2008 Special Exhibition in Honor of Senior Artist; A Retrospective Exhibition of the National Artist SAWASDI TANTISUK", April 10th - May 29th, 2008, The National Gallery.
その他、文献コピー、CDなど多数。
[メモ]
日本では昭和18年に『ウタノヱホン 大東亜共栄唱歌集』(朝日新聞社刊、編纂には日本音楽文化協会、日本少国民文化協会、国際文化振興会等が関わった)が刊行された。これはその後、「南方」各地の言語に翻訳されて贈られる計画があったのだが、実際に贈られたか明らかでない。贈られたとした場合、日本にとっての同盟国であり文化協定の締結国であるタイ王国は、その対象として第一に挙げられたと考えられる。しかし、今回の調査ではタイ王国に対してこの種のものが贈られた証拠を見出すことはできなかった。
日泰文化研究所とその後身である日本文化会館は、王宮近くのター・チャン(「象の渡し場」の意)にあったという記述は、当時の日本側の資料に多く見出せる。現地での文献調査の結果、それが「ナー・プララン21」という住所に所在していたことが判明した。その場に赴いてみたところ、たしかにその住所はター・チャンの桟橋からすこし東側に入ったところで、王宮を目の前にする場所であった。その場には現在、2階建ての横に長い建物が建てられているが、おそらくそれほど古いものではない。日泰文化研究所・日本文化会館があった建物はすでに失われたのかもしれない。
日泰文化会館はルンピニー公園内に建築されることが計画され、設計図のコンペが行われたことが明らかになっている。この建築計画に言及する日本語文献のなかには、計画は中止されたと記述するものがあるが、中止の理由や中止決定の経緯は明らかになっておらず、詳しいことはわかっていない。今回の調査でルンピニー公園内を見学したところ、設計コンペで優勝したような設計図に基づいて建物が建てられた形跡は見当たらなかった。公園管理事務所の閉所後に見学したため、公園管理関係者の話をきくことができなった。なお、タイ語文献にも建築が中止されたと記述するものがいくつかあった。
タイ王国国立図書館の建物
チュラーロンコーン大学総合図書館のエントランス
チュラーロンコーン大学文学部のキャンパス
アユッタヤーの遺跡
ター・チャン船着場付近の街並み(このあたりに日泰文化会館があったと思われる)
[経過]
2月16日 (水) タイ王国着、調査協力者と打ち合わせ
2月17日 (木) 国立博物館見学、紀伊國屋書店、ASIA BOOKS等の書店にて文献収集、
展覧会「日本とタイ-ふたつの国の巧と美」(タイ王国文化省芸術局、日本国文化庁、九州国立博物館主催)見学
2月18日 (金) 国立博物館楽器室見学、チュラーロンコーン大学書店にて文献収集、
マヒドン大学音楽学部にて資料調査、(夜)Thailand Philharmonic Orchestra 演奏会鑑賞
2月19日 (土) チュラーロンコーン大学中央図書館にて文献調査、(夜)国立博物館にてタイ伝統音楽演奏会鑑賞
2月20日 (日) 入手した資料の整理、調査成果の確認、以後の計画について打ち合わせ等
2月21日 (月) カンチャーナブリーの史跡・博物館等見学(JEATH戦争博物館、連合軍共同墓地、タイ-ビルマ鉄道センター、
クエイ川鉄橋、第2次世界大戦博物館、泰緬鉄道)
2月22日 (火) 国立図書館にて文献調査、(夜)サヤーム・ニラミット(タイ伝統文化公演)鑑賞
2月23日 (水) 国立図書館にて文献調査
2月24日 (木) 国立図書館にて文献調査
2月25日 (金) 日本帰国
[協力者](順不同、所属は当時)
岩井茂樹(チュラーロンコーン大学講師)
ペンポーン・ケオフォンランシィー(チュラーロンコーン大学大学院)
スティサー・スタシクン(チュラーロンコーン大学文学部日本語学科)
[入手した文献・資料等]
『最新 盤谷案内地図――改訂復刻版昭和17年のバンコク案内地図』、SEIUN(THAI LAND)、発行年不明。
『標準 大東亜分図6 タイ国篇――復刻版昭和18年のタイ国地図』、SEIUN(THAI LAND)、発行年不明。
Thamsook Numnonda, "Thailand and the Japanese Presence, 1941-45", Research Notes and Discussions Series No. 6, Singapore: Institute of Southeast Asia Studies, 1977.
Grant K. Goodman ed., "Japanese Cultural Policies in Southeast Asia during World War 2", New York: St. Martin's Press, 1991.
Scot Barmé, "Luang Wichit Wathakan and the Creation of a Thai Identity", Singapore: Institute of Southeast Asian Studies, 1993.
Chris Baker, Pasuk Phongpaichit. "A History of Thailand", Second Ed., Cambridge University Press, 2009. (First Ed. 2005) Sorasak Ngamcachonkulkid, "Free Thai: The New History of the Seri Thai Movement", Bangkok: Institute of Asian Studies, Chulalongkorn University, 2010.
Stefan Hell, "Siam and the League of Nations: Modernisation, Sovereignty and Multilateral Diplomacy, 1920-1940", Bangkok: River Books, 2010.
"Artisanship and Aesthetic of Japan and Thailand", Bangkok: the Fine Arts Department, 2011.
バンコク国立博物館ボランティア日本語ガイドグループ『バンコク国立博物館の至宝』、バンコク国立博物館ボランティア、2011年。
タイの楽器に関する本(タイ語書のため詳細不明)
その他、文献コピー、CDなど多数。
[メモ]
国立図書館所蔵の日系英字紙”Bangkok Chronicle”(1942年4~6月発行分)を閲覧した。同紙が掲載する日本に関する記事の多くは、同盟通信社が配信した記事である。独自の記事は、数こそ多くないが、当時のタイ国内での状況を知らせる貴重な史料である。
国立図書館貴重書室では、日本サヤーム協会発行誌『ญี่ปุ่น-สยาม(日本-サヤーム)』の1937年1月号(創刊号)から6月号までを閲覧した。管見の限りでは日本において同誌の存在はこれまでに報告されていない。同誌ならびにその周辺を詳しく調査することによって、日タイ関係史上の新たな知見を得ることができる可能性がある。
1943年に設立された日泰文化会館の所在地を明らかにするために、国立図書館所蔵のバンコクの古地図を閲覧した。しかしながらそれを示す古地図は所蔵されておらず所在地は明らかにならなかった。SEIUN(THAILAND)社発行の復刻地図を購入して確認したが、ターチャン船着き場付近に「日泰文化研究所」の文字が認められるものの、その所在地ははっきり示されていない。今回もナープララーン路に赴いたが、それと思しき建物(昨年は郵便局、商店、食堂等が入居する建物であった)は、修復のための工事をされていた。工事現場の表示を見ても詳しいことはわからなかったが、修復工事の対象であるということは当の建物が歴史のある建物である可能性がある。
泰緬鉄道は、戦時中に日本軍が、現地住民やオランダ、イギリス、アメリカ等の戦争捕虜を動員して敷設したものである。戦時中の犯罪的行為としてよく知られており、これまでに数多くの研究がなされてきた。泰緬鉄道が敷設されたなかでもクエイ川鉄橋のあるカンチャーナブリーは、いくぶん観光地化されている。JEATH戦争博物館は、戦争捕虜がおしこめられたニッパ椰子の小屋を展示の建物としており、当時の状況を体験させる。タイ-ビルマ鉄道センターは旧連合軍側の出資で開設されたもので、我々が想像する博物館に最も近い。つまり系統的に展示物が並べられ、それぞれに説明がある。展示と説明には客観性があり、歴史学的見地からは好もしいものであるように思われた。第2次世界大戦博物館は、裕福な家族(ファミリー)が建てたもので、広い敷地内に戦争に関係するものがそのままの大きさで展示されているほか、蒐集された焼き物等も並べられている(いずれも詳しい説明はない)。
1940年前後のタイにおいては欧化政策により伝統音楽の演奏が制限されたが、現在では初等教育でも伝統音楽の教育がなされているし、また、高等教育においては専門的な教育が行われているようである。国立博物館の構内で開催されたタイ伝統音楽の演奏会では、伝統的な音楽が保存的に演奏されるのではなく、時事的な話題を含んだ物語とそのための音楽として上演され、生きたものとして楽しまれていた。
サヤーム・ニラミットは、外国人向けにタイの伝統文化を紹介するショーである。タイの伝統性・正統性を強調する意図があるものと考えられる。
バンコクの眠らない夜
タイの車窓から(カンチャーナブリー付近)
バンコクの夜景