同属クモヒメバチ2種による寄主重複

クモヒメバチ属群の1属Reclinervellusは,既知の2種(R. nielseni, R. dorsiconcavus)に,新たに所属変更した1種(R. tuberculatus,写真1)とこの論文で新たに記載された1種(R. masumotoi,写真2)を入れて4種からなる小さな属です.この論文で,日本にはR. nielseni(新記録),R. masumotoiそしてR. tuberculatusが分布することがわかりました.中国にのみ分布するR. dorsiconcavusの寄主クモはわかっていませんが,ほかの3種はいずれの種もCyclosa属(コガネグモ科ゴミグモ属)を寄主として利用します.

クモヒメバチ類の種間で同じ寄主クモを利用する例(寄主重複)というのはほとんどありませんが,日本においてR. tuberculatusR. masumotoiが同じ場所で同じゴミグモC. octotuberculataを利用しているという現象が明らかになりました.時には二種のハチの幼虫が同じゴミグモの個体に寄生していることもありました(異種間過寄生,写真3).二種の幼虫はそれぞれ,クモの腹部基部(R. tuberculatus,写真1)と腹部末端(R. masumotoi,写真3)という特定部位に必ずつく習性があったため,こういう現象が起こり得たのです.では,この二種のクモヒメバチによる寄主重複にはどういう意味があるのでしょうか?

写真1. ゴミグモの腹部基部に寄生するR. tuberculatus 他にもこちら

写真2. ゴミグモの腹部末端に寄生するR. masumotoi 他にもこちら

写真3. 上記2種による同一ホストの異種間過寄生

まず,R. masumotoi幼虫が寄生している時期(産卵して幼虫がクモを消費して蛹になるまでの時期)が,R. tuberculatusのそれより10~20日も先行していることが明らかになりました.要するにR. masumotoiの産卵メスは,R. tuberculatusより10~20日早く産卵をしていることになります.そうすることで,もし異種間過寄生が起こった場合,R. masumotoiの方が先に成育を完了できるので,寄主(ゴミグモ)の奪い合いに勝てることになります.

ところが,クモヒメバチの産卵メスがすでに寄生されたクモに産卵しようとした際に,産卵管をこすりつけて先に寄生している幼虫や卵(先住者)を外して除けるという事実(子殺し)が別種(Hymenoepimecis argyraphaga, Zatypota albicoxa)で報告されています(Eberhard 2000, Takasuka & Matsumoto 2011).この能力が同じクモヒメバチであるReclinervellus属に備わっていることも十分に予測されます.そうであれば,R. masumotoiに先を越されてゴミグモを利用されていてもR. tuberculatusR. masumotoiの幼虫を取り外せば種間競争は起こらないはずです.ところが,R. tuberculatusの産卵メスは寄主クモを麻酔した後,自種の幼虫が定位する場所,すなわちクモの腹部基部にしか産卵管をこすり付けなかったのです.つまり,R. masumotoiの幼虫はクモの腹部末端に定位しているため,R. tuberculatusの子殺しを避けることができるのかもしれません.逆に,R. masumotoiはクモにアタックした際に,自種の幼虫(腹部末端)も競合種の幼虫(腹部基部)も取り外している可能性があります(未解決).

Matsumoto, R. & Konishi, K. (2007) Life histories of two ichneumonid parasitoids of Cyclosa octotuberculata (Araneae): Reclinervellus tuberculatus (Uchida) and its new sympatric congener (Hymenoptera: Pimplinae). Entomological Science 10 267-278