オニグモのなかまを利用するブラジルのクモヒメバチの産卵行動

ブラジルに棲むHymenoepimecis sp. (現在はH. veranii Silva Loffredo et. Penteado-Dias)は,オニグモ属のAraneus omnicolorを寄主として利用します.このクモの網は少し

特徴的で,クモ一般に良く見られる垂直円網(捕虫網)を張りますが,クモはその中心に位置するわけではなく,円網の中心とシグナル線で繋がった枯葉(シェルター)の中に隠れます.これら円網・シェルター・シグナル線の周りには屋台骨のように不粘着のバリアー線が張り巡らせていて,網全体を支えています(図1).クモは円網に獲物がかかった時だけ,シグナル線によってその存在を感知し,捕食するために出てきます.このクモに産卵するのはなかなか難しそうです.どうやっているのでしょうか.

ハチは網に飛来し,最初に不粘着のバリアー線にとまります.その後ハチは何も行動を起こさず,何分も待ち続けます.何を待っているのでしょうか?ハチが網にとまってから35分後,一匹のハエが円網にかかりクモがシェルターから飛び出します.その瞬間,待ち続けていたハチは出てきたクモに飛び掛り麻酔を施します.

麻酔後,ハチは産卵管をしきりにクモの腹部にこすりつけ,クモを調べ始めます.このクモはすでに他個体のハチによって寄生されていた個体でしたが,ハチは産卵管を使ってその幼虫を取り外してしまいました(子殺し).その後,ハチはクモの腹部表面に産卵をし,飛び去ります.

この論文は,産卵行動以外にもいくつか示唆に富んだ観察も記述してあります.

ハチがクモを利用するに当たり,なるべく大きなクモを選んだ方が幼虫の成長には得なような気がします.ところがこのハチに寄生されたクモの体長を計ると,明らかに小型の個体に偏っていました.この小型個体偏向は,同属の別のクモヒメバチ(H. robertsae)にも見られています(Fincke et al. 1990).ここから示唆されることは,産卵メスが何らかの理由で小型のクモを選好しているか,大型の個体のクモは寄生したハチの幼虫や卵を取り外せる能力があるという点です.

もう一つ,この論文でクモヒメバチによる二例目の子殺しが報告されました(一例目はEberhard (2000)).また,子殺しを引き起こした産卵管をクモの腹部にこすりつけるという行動は,H. robertsaeでも見られていることから(Fincke et al. 1990),

子殺し習性がクモヒメバチ類全体に共有されていることが示唆されました.

図1 A. omnicolorの網

Gonzaga, M. O. & Sobczak, J. F. (2007) Parasitoid-induced mortality of Araneus omnicolor (Araneae, Araneidae) by Hymenoepimecis sp. (Hymenoptera, Ichneumonidae) in southeastern Brazil. Naturwissenschaften 94 223-227.