NHK「大心理学実験2」関連情報

2015年4月30日23時~と5月10日16時~にNHK Eテレで放送された「大心理学実験2」に関連する情報をまとめたページです.内容は,三浦麻子(関西学院大学文学部;広報担当常任理事)が番組を見て独自に作成したもので,内容に間違いはおそらくありませんが,企画・制作者とのコンタクトや日本社会心理学会の学会によるオーサライズはありません.その旨ご承知ください.なお,本ページ作成にあたり,樋口匡貴氏(上智大学総合人間科学部)に文献情報の提供などご協力を賜りました.記して感謝いたします.

//番組サイトからの引用ここから//

これまで世界の心理学者たちが編み出してきたユニークな実験を再現し、番組オリジナルの実験にも挑戦する。

今回取り上げるテーマの一つが「恋愛」。恋心はどのように生まれるのか、つり橋を使って調べた有名な実験がある。実験の結果、人はドキドキするだけで好きになったと無意識に勘違いするという。そこで番組でもつり橋実験を再現。さらに、全く違う場面で、初対面の男女にドキドキしてもらって好きになるのか大調査。

もう一つのテーマが「プレッシャー」。人は、適度なプレッシャーで成果が向上するが、過度なプレッシャーで低下することが知られている。そこでバスケットボールの選手にフリースローに挑戦してもらい、プレッシャーを強めながら成功率を測定。過度なプレッシャーで成功率が落ちるとき、体にどのような変化が起こるのか確かめる。また、過度にプレッシャーがかかった状態で簡単に成果を上げられるという、最近、スポーツ心理学で大注目の方法を紹介する。

心理実験を通して人の本音を描き出し、良好な社会生活を送るヒントを教えます。

//番組サイトからの引用ここまで//

2015年1月1日にNHK Eテレで放送されたシリーズ第1作「大心理学実験」に関連する情報をまとめたページはこちらです.

Episode 1 「恋愛」

恋心はどのように生まれるのか?

(放送で紹介された研究)

実験参加者は,カナダ・バンクーバー近郊のカピラノ橋(写真上)かその近くにある木製の小橋を渡っている男子学生79名.1人で橋を渡ってきた男子学生に,橋の中央で女子学生が実験協力の依頼をし,連絡先として電話番号を書いたメモを渡そうとする.渡したメモを受け取った人数と,事後にその番号に電話をかけてきた人数に,橋の種類(吊り橋と固定橋)による違いがあるかどうかを検討した.その結果,電話番号を受け取った人数と橋の種類には関連がなく,電話した人数と橋の種類に関連があった.固定橋の場合は電話番号を受け取った16名のうち実際に電話してきた人数はたったの2名(13%)だったが,吊り橋だと18名中9名(50%)が電話をかけてきた.ダットンとアロンはこの結果を,吊り橋の途中で女性に遭遇した男性は,揺れる橋を渡ることによって生じていた心拍数の増加をその女性への恋心による胸の高鳴りだと解釈(誤って原因を帰属)したものだと解釈した.恋はかくも単純に生じるのだ…

(放送された実験の内容)

日本の有名な吊り橋といえば奈良県十津川村にある谷瀬の吊り橋(写真下).ゆらゆら揺れる吊り橋で可愛い女の子に突然「写真撮ってもらってもいいですか?」と話しかけられたら…

実験1 参加者は男性,声をかけるのは女性(ダットンとアロンの実験と同じ)

参加者には,景色が人間の心理にどのような影響を与えるかを調べている,と偽りの目的を伝え,橋を渡る前と吊り橋上で心拍数を計測する.

橋の上に女性が立ち,通りかかった男性に「たまたま」という雰囲気で「写真撮ってくれませんか?」と声をかける.男性,快く応じる.

男性が渡り終わったときに,他の実験者が数枚の写真(動物,若い男性,若い女性など)を見せて,0~10で直感的に評価することを求める.その中に先ほど写真撮影を求めた女性の写真が入っている.これがターゲット.恋心を抱いていたら,評価は高くなるはず.

吊り橋条件:15名の平均 7.4点

では,頑丈な橋なら?と京都嵐山の渡月橋で実験:15名の平均 6.7点

→吊り橋上で撮影を依頼された時の方が女性に対する好感度が高い!

実験2 では男女を逆にするとどうなるのか?というわけで参加者は女性,声をかけるのは男性

吊り橋条件:7名の平均 4.9点

頑丈な橋条件:7名の平均 6.4点

→なんと男女で傾向が逆で,吊り橋の方が点数が低い!

※橋を渡った後に見せた写真の中には,異性ではない写真(同性や動物)と,ターゲットとは異なる同性の写真(男性が参加者の場合は,ターゲットの女性は普通に服を着た上半身の写真,もう1枚はビキニ姿でセクシーポーズをとる女性の全身写真)が含まれていました.もしターゲットの異性がとくに好まれていたなら,「他の写真と比べて」+「特に,もう1枚の同性の写真と比べて」高い評価を得ているはずです.本来は,吊り橋条件と頑丈な橋条件の比較に加えて,こうした比較検討も行わないと結論を出すことはできませんが,番組では上記情報のみに簡略化されていました.

女性には恋の吊り橋効果はないのか?いや,ジェットコースターやお化け屋敷で恋に落ちるというエピソードはよく聴くではないか.今回の実験状況との違いは何か? ひょっとすると,二人で一緒にドキドキを楽しむといいのか?

実験3 広々とした公園で男性と女性が一緒に散歩する状況をセッティング

目的を「公園で散歩する男女を撮影すること」と説明し,心拍計はつけてもらう.

コース1 ただ二人でぐるっと1周歩いて回るだけ

  • これは,心拍数がことさらに増加しない,普通の状況.「心拍数が増加した状態で女性はどうなるか?」を知るためには,この状況と比較して,心拍数を増加させた群がどうなるか,という差を議論するのが基本です.こうした条件を「統制」条件といいます.

コース2 途中で突然「早く最初の場所に戻れ」と指示を出し,一緒に走らせる(心拍数を増加させる群)

ターゲットとなるのは女性の男性に対する好感度.これを測るために,散歩前後にベンチに座ってもらい,散歩後に女性が男性にどれだけ近づくかを計測する(男性はサクラで,前後ともに同じ位置に座る).

ある参加者の例:

  • コース1 散歩前 女性の心拍数は70,男女の距離 150cm → 散歩後 女性の心拍数は92,男女の距離 115cm

  • コース2 散歩前 男女の距離 90cm → 散歩後 女性の心拍数は151,男女の距離 105cm …あれれ?かえって離れてる??

→8名(コース1を3名,コース2を5名)の参加者で実験したけど,距離は縮まったり広がったりと結果はバラバラだった.ということは,女性は男性と違って,ドキドキしても恋にはつながらないのか?

しかし,ベンチに座っている男女を撮影したビデオを仔細に観察すると興味深いことがわかった.

歩いただけの女性は,事後にベンチに座ったときに男性をあまり見ない(回数をカウントすると平均11回,見つめた時間の合計を計測すると16秒)のだが,走った女性はよく見ていた(同25回,62秒)のである.物理的な距離は縮まらなかったけれど,心理的な距離は近づいている,かも?男性ほど「わかりやすく」ないのが女心なのでしょうか.そういえば,思い当たることがいろいろと…

そして,デブリーフィング.必ず真の目的「心理学の実験だったんです」をきちんと説明します.

(関連する研究)

  • Schacter, S. & Singer, J. E. (1962). Cognitive, social, and physiological determinants of emotional state. Psychological Review, 69, 379-399.

    • われわれは,同じ生理的変化(ドキドキ)を経験した際に,別の情動反応(怒りや喜び)が生じる場合がある.それは,両者の間に認知的評価.,つまり生理的変化の原因をどう認知するか.という「原因帰属」が介在しているからである,という「情動の2要因理論」を実験室実験で検証した研究.「吊り橋実験」はこの理論を実際の社会現場(フィールド)で実験的に検討したものであるといえる.

    • Dutton, D. G., & Aron, A. (1989). Romantic attraction and generalized liking for others who are sources of conflict-based arousal. Canadian Journal of Behavioural Science/Revue canadienne des sciences du comportement, 21(3), 246-257.

      • 同じ生理的喚起をどのような情動だと解釈するかが男女で異なることを示した研究.

(関連する書籍)

Episode 2 「プレッシャー」

スピーチや面接の時のいやぁなプレッシャー,どうしたら勝てる?

「絶対失敗できない!」そんな時,簡単な方法でプレッシャーを克服!

(放送で紹介された研究)

プレッシャーが強まると徐々に成果は上がる.ところが,強すぎると成果は下がり始める.つまり縦軸に成果,横軸にプレッシャーの強さをとるグラフを描くと,その形は逆U字型になる.これをヤーキース・ドットソンの法則という.

(放送された実験の内容)

明星大学の男子バスケットボール部員にNHKのスタジオに来てもらい,実験に参加してもらう.

参加してくれるのは1~3年生の10名の部員.フリースローをする様子を撮影する.1人6本ずつスロー.

心拍計をつけて心拍数でプレッシャーの強さを計測する.

条件1 プレッシャー低

練習と伝え,和やかな雰囲気でお手並み拝見.10名の心拍数は平均101と平常よりはややドキドキ,くらい.フリースローの成功率は平均83%.ほどよいプレッシャーがかかっていると,普段の試合よりいい成績

条件2 プレッシャー高

チャレンジする選手にスポットライトを当て,応援団の女性たちが黄色い声で声援.大注目されている!10名の心拍数は平均120,フリースローの成功率72%.高いプレッシャー状況下では,パフォーマンスは下がってしまった…

プレッシャーが強くなると何が起こって失敗しやすくなるのか?

ハイスピードカメラで撮影した画像で検証すると,手首の角度が小さくなり,ボールが離れるタイミングが遅くなっていることがわかった.身体の動きが小さくなったりタイミングがずれたりすることが,失敗につながるらしい.

条件3 プレッシャーmax

悪役俳優が番組プロデューサーを演じる.フリースローのパフォーマンスが低下したことが不満そうで,もっとパーフェクト出さないと放送できない!真面目にやれ!と荒れまくるため,一挙に重苦しく緊張した雰囲気に.すると,心拍数の平均は115とむしろ条件2よりも低下し,フリースローの成功率は80%となった.プレッシャーが強すぎて下がるかと思ったらむしろ回復している!

選手にインタビューすると,「一番試合に近い雰囲気になって集中力が高まった」「決めなくちゃマズイと思った」といった声が.条件2ではにやにやしていた選手もきりりと引き締まった表情をしていた.

では,どうすればプレッシャーを克服できるのか?

ゴールに「簡単に集中を高められる秘策」仕掛けを施し,ふたたび条件2でトライしてみた.条件2でダメだった3名の学生たちの成功数がそれぞれ+2になった!つまり,プレッシャーが失敗につながりませんでした.

その仕掛けは「Quiet eye」 ゴール板に目を取り付けて,トライ前にそれを1秒間見つめさせる.人間は,プレッシャーがかかると危険を避けるためきょろきょろし,注意が散漫になる.それが失敗につながる.意識して一点を見つめると集中力が高まり,実力を回復する.というメカニズム.サッカーのPKなどでも成果が出ているそうです.

※ただし,この実験では4つの条件を「同じ参加者」に「全員同じ順序で」「続けて」やってもらっているため,そのことが結果に影響をおよぼしている(つまりだんだん慣れてきて成功率が高まっている)可能性は排除できません.

そして,最後は必ずデブリーフィング.偽りを伝えていた(演技をしていた人がいた)ことについてきちんと真実を明かす必要があります.本物のプロデューサーが出現し,黄色い声の応援も嘘だった,と伝えます.

(関連する研究)

Quiet eyeテクニック関連

他にもたくさん,社会心理学実験!

今回紹介された3つの実験以外にも,印象的な社会心理学の実験はたくさんあります.例えば下記の書籍には,それらがわかりやすく紹介されています.

心理学実験を通して見える人の本当の姿から,良好な生活を送るためのヒントを知ろう!