研究概要(専門家向け)

    ここでは専門家(主に農学、生命科学を専門とする方)向けに、最近の飼料資源科学研究室での研究テーマについてご紹介したいと思います。また学生のみなさんは、大学院進学の参考にしてください。(更新日:2024年3月23日)

心理社会的ストレスによる心身不調のメカニズムの解明

(ストレスと摂食行動異常)ストレス社会といわれる最近の世の中ですが、日本では精神疾患の患者数が増加しており、ストレスの研究はより大切になっています。私どもは、特に心理社会的ストレスが生体に与える影響を調べるために、社会的敗北ストレスモデル動物(マウス、ラット)を作製しています。社会的に優位な個体から慢性的に攻撃され続けると、敗北した個体(劣位の個体)にはいろいろな症状が出てきます。ラットの慢性的社会的敗北モデルでは、実験期間中の体重の増加が対照ラットと比較して抑制されることが分かりました(Iioら、2011)。このストレスモデルの体重増加の抑制は、摂食量の低下で説明でき、摂食行動を抑制する分子である視床下部のマロニル-CoA濃度が増加していることに原因があることを突き止めました(Iioら、2012, Iioら、2014)。ヒトでもストレスにより食欲不振になることがありますが、この症状には視床下部のマロニル-CoAが関係している可能性が示唆されました。最近では、吉田悠太助教(動物生体機構学)と共同で、ストレスが味覚や嗜好性に与える影響にも着目しています。

(ストレスと栄養・代謝の異常) マウスの心理社会的ストレスモデルは多飲症になり、体水分が増加し、体重が増加することを明らかにしました(Gotoら、2014)。このモデルマウスの血液、肝臓、消化管などにおける代謝産物をメタボローム解析し、ストレスで誘発される疾患、例えばうつ病のマーカーになりそうな分子を探索しており、マーカー候補をいくつか同定しています(Gotoら、2015, Aoki-Yoshidaら、2016, Gotoら、2017)。精製度の高い飼料(AIN-93G)をマウスに給与すると、心理社会的ストレスに対して脆弱になることも明らかにしています(Gotoら、2016)。これらの研究から、ストレス脆弱性や抵抗性(レジリエンス)に関与する可能性のある代謝産物を見出しています。現在はレジリエンスを獲得する代謝機構やうつ病の未病マーカーの探索などを行っています。

(ストレスと巣作り行動異常) また、このモデルマウスの行動解析も行っています。社会的敗北モデルマウスの巣作り行動は、正常マウスと比較して遅延することを発見しました(Otabiら、2015)。モデルマウスの巣作り遅延は、セロトニン受容体の阻害剤で部分的にレスキューされました(Otabiら、2017)。最近、3次元動物行動解析装置によりこのモデルの巣作り遅延のパターンを詳細に解析し、論文発表しました(Otabiら、2020)。現在は巣作り行動を制御する神経基盤と、なぜ社会的敗北ストレスで巣作りが遅延するのか解明を目指しています。

    以上の研究から明らかになった病態マーカー候補や行動異常を指標に、うつ病予防作用や抗うつ作用を持つ食品や農畜水産物などの探索を行っています。社会的敗北モデルマウスの作製方法については動画論文(Gotoら、2015)をご参考にしてください。またモデル作製法などでご質問がありましたらお気軽にご連絡ください。関連する総説(オープンアクセス)もありますのでご参考にしてください(Gotoら、2016, Toyodaら、2017 )。

●心身不調を緩和・予防する食品や飼料中成分の探索

(ストレスと食品・飼料)農産物や食品に含まれている様々な栄養因子で、特に健康機能性を持つものに関する研究を行っています。茨城県の特産品に着目していますが、特に筑波山で収穫されるフクレミカンの機能性について解析しています。なかでも未熟なフクレミカンの果皮は、フラボノイドなどを豊富に含んでおり、抗酸化や抗炎症作用などを期待できます。そこで上記の心理社会的ストレスモデルや肥満モデルで、うつ予防や抗肥満効果を検証しています(Satoら、2019)。最近、柑橘果皮成分のヘスペリジンをマウスに給与するとストレス抵抗性(レジリエンス)が向上することを発見しました(Satoら、2019)。現在は、ヘスペリジンのレジリエンス向上の分子メカニズムを研究しています。また、企業との共同研究も複数行っています。森永乳業と共同で、乳酸菌Lactobacillus helveticus strain MCC1848のレジリエンス向上作用を発見しました(Maehataら、2019)。その他にもいくつかの乳酸菌を社会的敗北ストレスモデルで評価しています(Tsukaharaら、2019Toyodaら、2020, Yodaら、2022)。

(農産物の機能性)農産物やサプリメントの評価も行っています。なかでも特産品のレンコンやヤーコンの機能性を探索しています。特にヤーコンに含まれるオリゴ糖の抗アレルギー作用に着目して解析しており、茨城大学農学部家畜生産物科学研究室の小川恭喜教授、宮口右二教授と共同で発表しております(Miyaguchiら、2015)。さらに、東京医科大学茨城医療センター、茨城県立医療大学医科学センターと、タウリン欠乏モデル動物を用いた共同研究を実施しており、タウリンの健康機能性について解析しているところです(Miyazakiら、2020)。私どもはタウリンには抗ストレス作用があることを見出しており(Iioら、2012, Toyodaら、2013, Toyodaら、2015)、タウリンの中枢神経系での作用メカニズムをDNAマイクロアレイ、リン酸化タンパク質プロテオミクス等を駆使して、網羅的に解析しています。

身不調モデルマウスの開発とその評価系の開発

心身不調モデルマウスの開発上記の社会的敗北ストレスモデルに加えて、社会的隔離モデル、加齢(老齢)モデルを作製・開発し、各種研究に使用しています。

(モデルマウスの評価系の開発)動物の行動は人の目視や2次元のビデオ画像をもとに解析することが多いのですが、本来、動物は3次元の空間で行動しますので、私どもは動物の行動を非侵襲的に3次元で解析できるシステムを開発しています。動物の行動を記録するカメラとしては、ゲーム機などに使われている赤外線深度センサを用いています。現在は、この赤外線深度センサを活用して、マウスの巣作り行動や社会行動の解析を中心に行っています。巣作りの定量的評価方法の開発を行い、論文発表しました(Okayamaら、2015)。またマウス系統間での巣作り行動の違いについての定量的評価も行いました(Gotoら、2015)。上にも書きましたが、3次元動物行動解析装置により社会的敗北ストレスモデルの巣作り遅延のパターンを解析しました(Otabiら、2020)。さらに大型の動物、特にウシやブタなどの家畜の研究にも赤外線深度センサを活用しているところで、最近、ブタの体重推定の論文を発表しました(Okayamaら、2021)。機械学習の手法も取り入れました。

●動物園動物に関する研究

(動物園動物の栄養・代謝)日立市かみね動物園と茨城大学は複数のテーマで共同研究していますが、特に当研究室が推進するのが中央アフリカに生息するアビシニアコロブスの栄養に関する研究です。コロブスには4つの胃があり(ウシなどの反芻動物に似てます)、セルロースなどの植物繊維を胃内の共生微生物で分解していることが知られています。しかし、その詳細は全く不明であるため、コロブスの糞便のメタボロームやメタゲノム解析を実施しています(Toyodaら、2021)。将来、アフリカでのフィールド調査も行いたいと考えています。

畜産動物に関する研究(NEW!)

マウス、ラットで得た基礎研究の成果を畜産動物の飼養に活かすために、新たな計画を策定中です


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