kenpou chap3-6

3.6 緊急事態規定の新設

改憲草案は、「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」の新設を提案しています。緊急事態の定義の具体化は法律に丸投げされています。内閣の緊急事態宣言は国会の事後承認でもよく、内閣は緊急政令制定権や緊急財政処分権を与えられます。さらに非常事態宣言が発令された場合には、国その他公の機関の指示への、国民の服従義務が定められています。

緊急事態条項(国家緊急権)とは、「戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など、平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限」のことです。人権保障の停止(人権の広範な制限)と権力分立の停止(執行権への権力の集中)を内容としています。国家緊急権は、立憲的な憲法秩序を一時的にせよ停止し、執行権への権力の集中と強化を図って危機を乗り切ろうとするものですから、立憲主義を破壊する大きな危険性をもっています。

日本国憲法が緊急事態規定を置いていないのは、人権保障や権力分立を停止するような事態をそもそも憲法規範化してはならないという立場に立っているからです。

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