講演要旨■2016.6.18集会

講演要旨■2016.6.18集会

発言順に掲載します。講演要旨は事務局が録音をもとに書き起こし、大幅に短くしました。文責は事務局にあります。

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久朗津泰秀さん■西本願寺教団の戦争責任

くろつ・やすひでさん=札幌市西区の大念寺副住職。「念仏者九条の会」でも活動している。昨年夏、安保法制反対の集会デモには袈裟を着て参加した

「戦争責任」をめぐって本願寺派(西本願寺)は昨年、大きく揺らぎました。西本願寺は1995年、終戦50年に際して当時の大谷光真門主が発した「追悼法要ご親教」の文言をずっと大切にしてきました。それは、教団として戦争に協力した過去を厳しく反省したものであり、その中で大谷門主は「戦争への参加を念仏者の本分であると説き、門信徒を指導したあやまちを厳しく見据えたい」「仏法の名において戦争に積極的に協力していった過去の事実を、仏祖の御前に慚愧せずにはおれません」と語っています。

ところが昨年、石上智康宗務総長が出した「戦後70年にあたって非戦・平和を願う総長談話」はこの考えや方針をがらっと変えるものでした。私は大きなショックを受けました。石上総長は「非戦・平和こそ人類の進むべき道です」としながらも、過去の戦争責任や靖国の問題にはふれず、安保法制についても「十分な説明と丁寧な審議が尽くされることを願っております」と語るにとどまりました。

そして、その後出された「平和に関する論点整理」という浄土真宗本願寺派総合研究所の見解は、「核の傘に守られている」という表現で現状を肯定し、安保法制に反対はしていません。この総長談話と、この研究所の見解には強い内部批判もあります。教団のトップの考えが、このように大きく変わると、教団は自律性を失い、また同じ過ちを繰り返すのではないか、と私は惧れています。

平和や安全保障をめぐっては危機的な状況があります。だからこそ、私はこれからもいろいろな宗教者の方々とかかわり、つながっていきます。

清水和恵さん■日本軍「慰安婦」問題の真の解決を求める視点から

しみず・かずえさん=牧師として、日本キリスト教団北海教区性差別問題担当委員をつとめ、「日本軍「慰安婦」問題の解決をめざす北海道の会」共同代表として、集会、講演会、映画会などの開催に尽力している

元「慰安婦」の女性、カン・イルチュルさんは1928年10月生まれで、ことし88歳です。誕生日は私の母と同じ年月のわずか3日ちがい。ですからたいへん深いつながりと親しさを感じています。札幌には3年前と10年前に来られ、集まってお話をお聞きしたり、中国餃子のつくり方を教わったりしました。

イルチュルさんのお話には、あまりのつらさに言葉が詰まります。16歳で韓国慶尚道から中国の慰安所に連行され、戦後はずっと中国に残り、56年後に帰国した時は親類の人はひとりもいなかったといいます。もし、私の母が同じように朝鮮に生まれ住んでいたら、同じような体験をしていたかもしれません。

イルチュルさんの言葉はいまも胸に強く残っています。「韓国では人間とは高級な魂という。だから決して粗末にしてはいけない。戦争は絶対にダメ、戦争が起きるとわたしのような被害者が必ず出てくる。だからわたしは、日本と韓国が二度と戦争をしない国になるまで、本当の意味で平和な国になるまでいつまでも生き続ける」と言うのです。

韓国、アジア、太平洋地域の被害者たちに共通している想いは「戦争はダメ。二度と起こしてはいけない」という願いです。イルチュルさんから私は宿題を与えられています。戦争を起こさない、平和を実現する取り組みのために何ができるのか。アジア・太平洋地域の性被害、性奴隷とされた女性の共通する願いに耳を傾けながら、あきらめずに平和を願う人たちとつながり、協働していきたいと思っています。

広谷和文さん■旭川での宗教者の取り組みを通じて

ひろや・かずふみさん=日本聖公会の司祭として、毎月19日に旭川で行われている「安保法制に反対する旭川宗教者の集い」に関わっている

昨年9月、旭川市役所前(聖パウロ・ルーテル教会境内)において、旭川にある「政教分離を守る北海道集会」実行委員会が呼びかけて、安保法制反対の座り込みを行いました。残念ながら法案は通過してしまいましたが、強行採決の9月19日を忘れず、戦争法制の廃止を目指して、毎月19日に集会を開催することにしました。

11月の日本聖公会旭川聖マルコ教会に始まって、真宗大谷派聖台寺(12月)、浄土真宗本願寺派天寧寺(ことし1月)、神居カトリック教会(2月)、旭川バプテスト教会(3月)、臨済宗妙心寺派大道寺(4月)、日本キリスト教団豊岡教会(5月)と続いています。明日(6月19日)は日本ルーテル教団旭川聖パウロ・ルーテル教会、7月は真宗大谷派昭法寺の予定です。

参加者は10数人から20人と多くはありませんが、宗派、教派を越えて集い、安保法制の危険性を学び、戦争と平和への思いを語り合う貴重な場となってきました。毎回会場を代えることによって、この運動がさらに広がっていくようにと期待しています。安保法制によって可能となる集団的自衛権の危険性を推論によって示すことはもちろんできますが、現代史の実例を通して理解する必要もあるのではないでしょうか。

例えば私たちは、ベトナム戦争はアメリカだけが戦った戦争だと思いがちですが、そうではありません。アメリカだけでなく、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、フィリピン、韓国などもベトナムに軍隊を送りました。それは集団的自衛権があったからです。特に韓国は31万もの兵隊を送り、五千人が戦死、一万人が負傷、今も二万人以上の元軍人が枯葉剤による後遺症で苦しんでいます。さらに大規模な住民虐殺を引き起こし、その悪夢の中で今も苦しんでいる人々は数知れないそうです。もしその時代に、集団的自衛権があったなら、おそらく日本の自衛隊もベトナムに行って加害者として戦い、被害者となったことでしょう。

そんな危険な法律が昨年、強行採決された安保・戦争法なのです。それに反対することは、宗派を越えた宗教者の良心の問題ではないでしょうか。

中西志香さん■真宗大谷派における安保法制への対応と課題

なかにし・しこうさん=真宗大谷派(東本願寺)の北海道教区駐在教導として、北海道に470ある真宗大谷派寺院の住職、僧職者の教化活動の窓口を担当している。中札内村同朋寺衆徒

私は真宗大谷派と宗教者連絡会の間の窓口役として、関わりを持たせていただいています。宗教法人には包括法人と被包括法人があり、どちらも独立の法人格や財産を持ちますが、私の立場は、包括法人である真宗大谷派の宗議会(僧侶議員で構成)、参議会(門徒議員で構成)の決議や宗務総長の声明を被包括法人である末寺に伝え、課題を共有することにあります。

大谷派は終戦50年の1995年に「不戦決議」を採択し、終戦70年にあたる昨年には、その決議の重みを再び掲げて確認した「非戦決議2015」を宗議会、参議会双方全会一致の決議として採択しました。宗派における「決議」とは、社会に対する明確な意思表示を意味します。安保法制に関しては、内閣が集団的自衛権行使を容認した2014年6月に「反対決議」を発し、昨年9月19日には、里雄康意宗務総長名で法案成立にあたっての宗派声明を出しました。

どちらにも共通するのは「殺してはならぬ、殺さしめてはならぬ」という仏陀の言葉に基く「不戦の誓い」「非戦の誓い」です。宗派声明は「私たち真宗大谷派は、先の大戦において国家体制に追従し、仏法を人間の都合で利用して戦争に積極的に加担しました。その過ちを繰り返してはならないとの決意から、安全保障関連法案に対して反対の意を表明してまいりました」「積極的平和主義の名の下に、武力をもって平和を実現しようとする行為は、永続的な平和をもたらすものではなく、自他ともに怨みと敵意を生じさせ、報復の連鎖に陥らせるものであります」と具体的に示されています。

このような姿勢に継続性を持ち、かつ意義あるものにするために、宗派声明や決議文を宗門内の住職・ご門徒の方々と共有し、信仰問題として語り合いの場を開いていくことが今の私の課題です。