kenpou chap3-1

3.1 立憲主義の軽視

立憲主義とは、憲法によって国家権力を拘束し、国家権力は憲法に従って国政を運営しなければならないという原理です。憲法によって縛られるのは憲法によって権力を信託された人たちであり、国民は権力行使者に憲法を守らせる立場にあります。

日本国憲法99条が、「天皇又は摂政及び国務大臣、国家議員、裁判官その他の公務員」に憲法尊重擁護義務を負わせながら、その主体に国民をあげていないのは、この原則を明らかにしています。

ところが自民党の「改憲草案」は、「国民の憲法尊重義務」を新設し、公務員には「憲法擁護義務」に絞るとともに、天皇や摂政の「憲法尊重擁護義務」を全面的に削除しています。

「国民のための憲法」から「国家のための憲法」への立憲主義憲法の変質は、前文においても明らかです。

前文は、起草者が思い描く「日本国の姿」1)を提示し、国にふさわしい「あるべき日本国民像」を提起し、国民の国家における役割や努力目標を示す2)という構造になっています。「国民の人権保障のための国家」「国民に奉仕する国家」といった基本視点はまったく見られません3)

注1)「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」である。

注2)「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。」

注3)前文の最後は、「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するために」憲法を制定する、という一文で終わっています。まさに「国家のための憲法」です。

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