kenpou ans 22108

⑧万一の場合(有事の場合)に誰が対処にあたるのでしょうか。自衛隊員以外の一般国民が徴兵されることはないのでしょうか。

自衛隊は現在、特別公務員として採用される志願制です。憲法18条は「意に反する苦役」を国民に課すことを禁じているので、日本が徴兵制度を採用することはできません。「犯罪による処罰の場合を除いては」となっていますが、受刑者を兵役に利用することは、刑罰制度の根本原理と憲法31条以下の「法の適正手続」に反します。国民であれば「意に反する」などと言っていないでそのための覚悟をするべきだ、との言葉も聞かれますが、日本国憲法はそうした発想で起きる全体主義化・軍事国家化を防ぎ、国家が国民をこの方向で動員することを禁じる構造を持っています(18条のほかにも、13条・各種の権利が「個人」の権利として「最大限」尊重されること、19条・思想良心の自由、20条・信教の自由と政教分離、22条・職業選択の自由、31条・不利益を課される場合の法の適正手続など)。

18条を削除して徴兵制を容認することはできるでしょうか。世界の立憲主義確立の流れの中で、人間の身柄・人生を「道具」として拘束し利用すること(奴隷状態)は共通して禁止されています。意に反する労役を強いることも、この一環として禁止されます。この部分を削除してしまえば国家と国民の関係の根本が失われ、また世界の立憲主義の歩みとの関係をも否定することになりますので、この内容を削除することはできません。

しかし有事の場合の例外として徴兵制を認める憲法改正をするべきだ、という議論は残るかもしれません。これについては、それによって起きる結果の怖さ、自分自身に生じる問題の深刻さ、アメリカがベトナム戦争以後、志願制に切り替えたこと(ただし18歳から26歳の男性は選抜徴兵局への登録が義務付けられている)などを、主権者が十分に知る必要があります。アメリカでは1946年から1962年にかけて行われた核実験に多数の兵士が演習として参加し、現在でも放射線被爆による深刻な健康被害を抱えて苦しんでいます。

社会政策が不足して、人々が兵役(日本の場合は自衛隊員)を自ら選ばざるを得ないように仕向けられる社会状況のことを「経済的徴兵制」と言います。憲法25条・生存権、22条・職業選択の自由と18条の組み合わせから考えられる社会状態とは正反対の状況です。アメリカでは貧しい地域の出身者や人種的差別の対象者がこのような流れで入隊することが多く、問題視されてきました。日本がこの道を行くのではないか、ということが懸念されています。

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