第26回
日時:2019年1月26日(土)14:00-17:00
場所:広島大学(東広島キャンパス) 教育学研究科B棟3階 B313
発表者:柳澤邦昭(京都大学こころの未来研究センター)
題目:社会心理学領域における脳機能研究の変遷と新たな展開
発表概要:
近年、脳機能研究における画像解析技術の発展は著しく、従来の脳機能マッピング解析から大きなパラダイムシフトを引き起こしています。なかでも、脳情報デコーディング技術は心理学の幅広い分野で活用されはじめ、社会心理学関連の研究成果も報告されています(e.g., 共感、態度、内・外集団認知)。本発表では、近年報告された研究例を取り上げ、社会心理学分野の研究成果が、従来法からの変化によりどのようにアップデートされているのか簡単にご紹介します。そうした上で、発表者がこれまでに取り組んできた死関連思考の研究に脳情報デコーディング技術を応用したケースを報告します。本発表が、社会心理学研究に神経科学的アプローチを用いる魅力と可能性を再考するきっかけになれば幸いです。
第37回
日時:2019年3月16日(土)15:00-18:00
場所:広島大学(東広島キャンパス) 教育学研究科B棟3階 B313
発表者:北條大樹(東京大学大学院教育学研究科)
題目:質問紙調査回答に表れるバイアス -係留ビネット法と項目反応モデルによる検討-
発表概要:
質問紙調査は心理学で多用される調査法の一つである。しかし、古くから項目回答には様々な要因(e.g., 地理的変数、人口動態変数、心理的状態)によって歪みが生じることが指摘され、その呼び名も多数存在する(e.g., DIF, 反応バイアス, Satisficing, レスポンススタイル)。本発表では、まずは先行研究を振り返りながら、これらの概念の定義を整理する。そして、今回は特に人に起因する回答の歪み(レスポンススタイル)に着目し、政治学の世論調査等で用いられてきた研究デザインである係留ビネット法(anchoring vignettes method)を紹介する。また、その統計的モデルとして、項目反応モデルを用いた実データ解析を報告する。
私の専門が心理統計であるため、発表は主に方法論的観点からの発表になりますが、社会心理学をご専門とする皆様の経験を基に多くの議論やご意見頂けることを楽しみにしております。
第38回
日時:2019年8月17日(土)15:00-18:00
場所:広島大学(東広島キャンパス) 教育学研究科B棟3階 B313
発表者:宮島 健(奈良大学)
題目:規範知覚の効果とその変容の萌芽:多元的無知の観点からの基礎的検討
発表概要:
私たちはしばしば集団や社会に存在する規範(i.e., 他者が抱く信念)を誤って知覚することがあります。
人々がこうした「勘違い」に集合的に陥る事態は「多元的無知」と呼ばれ,様々な社会問題や人々の問題行動の背後に潜んでいることが指摘されてきました。発表では,「日本における男性による育児休業取得率の低さ」を題材に,私がこれまで行ってきた,①他者信念の不正確な認知が行動意図に及ぼす影響に関する研究,②その影響を調整する要因に関する研究に加え,③最近着手した,地方公共団体による条例制定が当該コミュニティ成員の規範知覚に与える影響に関する研究もご報告いたします。参加者の皆様より,忌憚なきご意見を頂戴できれば幸いです。
第39回
日時:2019年12月21日(土)15:00-18:00
場所:広島大学(東広島キャンパス) 総合科学部 事務棟 3階 第一会議室
発表者:橋本博文(安田女子大学)
題目:好ましさと賢さ:文化差・地域差・世代差を理解する
発表概要:過去四半世紀にわたり,文化心理学は,個人の心の性質に無視することのできない文化差が存在すること,そしてそうした文化差は,文化内で共有されている自己観の相違という観点から説明されうることを主張してきました。文化心理学の豊富な研究知見を踏まえつつ,発表者は,自己観に代表される文化的信念が有する二つの役割――個々人のマイクロな選好や価値を生み出す役割と自分の行動に対する他者の反応の予測を可能とし,そうした他者からの反応を考慮した賢い行動を生み出す役割――に焦点を合わせるかたちで,心や行動の文化的多様性を理解する試みを展開してきました。本発表では,「好ましさ」と「賢さ」を区別しながら文化差を理解しようとする発表者らの一連の研究を紹介させていただくとともに,そうしたアプローチを日本国内における地域差や世代差の理解に適用する研究についても紹介します。皆様方からのご意見,ご批判を仰ぎながら,文化差や地域差,世代差について再考したいと考えています。よろしくお願いいたします。
第40回
日時:2020年2月15日(土)15:00-18:00
場所:広島大学(東広島キャンパス) 総合科学部 事務棟 3階 第一会議室
発表者:水野 景子(関西学院大学社会学研究科)
題目:繰り返し社会的ジレンマゲームの意思決定モデルの探索―統計モデリングによるアプローチ―
発表概要:
相互協力を達成・維持する社会を創るためには、人がどのような意思決定に基づいて協力行動をするのかを明らかにする必要があります。
しかし、協力行動を検討するパラダイムとして広く用いられている社会的ジレンマゲームでの行動がどのような意思決定でなされているかについて、一貫した知見が得られていません。実験経済学などでは社会的ジレンマでの行動が他者に対する利他性を反映していないという指摘がある一方で、社会心理学では社会的価値志向性(SVO)がジレンマでの行動を説明するという知見が繰り返し報告されています。これらは、社会的ジレンマでの意思決定メカニズムがモデルとして構築されていないことにより、どちらのメカニズムが正しいか決着がつけられないためであると考えられます。
そこで発表者は、統計モデリングの手法を用いた意思決定メカニズムの解明を試みました。本発表では、①社会選好のモデルとしてSVOが妥当であること、②SVOから導出したモデルから、他者からの協力期待と利得構造を学習するモデルを導出したこと、③繰り返しのある社会的ジレンマでの行動の説明には強化学習モデルよりも提案モデルのほうが妥当であることをご報告します。
また、研究についてお話する中で、数理的なモデルの導出や階層モデルによる個人差を表現したモデルの構築、モデル比較による仮説の検証について発表者がこれまでに学んだことをお話する予定です。皆様の腹蔵のないご意見を頂けますと幸いです。