第26回
※行動科学共同セミナーとの共催です。
日時:2016年11月4日(金) 16:20~18:00
場所:広島大学東広島キャンパス 総合科学部 事務棟 3階 第一会議室
発表者:西條辰義(高知工科大学)
発表題目:フューチャー・デザイン
発表概要:
多くの人々の市場に対する信頼はけっこう厚いのではないのでしょうか.民主制だって「神聖にして侵すべからず」ですね.学生の頃,市場の失敗の数々を学んだのにも関わらず,心の底では,市場はすごい,と思っている部分があります.でも,少し考えると,市場は今生きている世代の需給を調整する仕組みですが,将来世代が残しておいて欲しいと思っているかもしれない希少資源も可能な限り使ってしまいます.一方で,間接民主制における選挙の候補者が「私は百年後の世代のために」というと,たぶん落選しますし,投票する方も,自分が得をする候補者に投票するはずです.若い頃は気づかなかったのですが,現代社会の根幹である市場と民主制は将来世代の資源を「惜しみなく奪う」のではないのでしょうか.
一方で,被験者を用いる実験研究は,私たちが「思いやり,優しさ,共感」などを持っていることも明らかにしてきました.ところが,市場や民主制は,これらを消し去る装置になっているのではないのでしょうか.
市場と民主制を補完する仕組みとして「フューチャー・デザイン」という枠組みを考え始めました.仮想将来世代を現代に導入するのです.荒唐無稽だと思われるかも知れませんが,ヒトは将来世代という「キャップ」を被ると発想そのものが変わるのです.乞うご期待!
第27回
日時:2016年12月3日(土) 15:00~18:00
場所:広島大学東広島キャンパス 総合科学部 事務棟 3階 第一会議室
発表者: 北梶陽子(高知工科大学)
発表タイトル:
社会的ジレンマにおけるサンクションと情報開示:
産廃処理を例に用いたゲーミングによる検討
発表概要:
社会的ジレンマにおいて、サンクションが協力をもたらすことはこれまで数多くの研究で示されております。しかし、現実にサンクションを実装する際には、社会のさまざまな要因との関連を考慮する必要があります。本発表では、サンクションの在り方が問われている日本の産廃処理を事例としたゲーミングを用いてこの点を検討した研究をご報告致します。ゲーミングでは、サンクションがもたらす帰結に影響を及ぼすと考えられる要因を、厳格に統制するのではなく、それらの関連を断ち切ることなくゲーム内に実装することで、全体として生じるダイナミクスを観察可能にします。監視が困難である、互いに役割や利得構造が異なるといった社会の構造や制度、交渉や取引といったコミュニケーションなどの要因が存在する場合、監視や罰則、報酬が互いの情報共有を阻害し非協力行動を招く場合があること、そして監視としての機能が期待できない情報開示であっても協力行動をもたらす場合があることを報告させていただきます。社会をさまざまな要因が互いに関連する一つのまとまりとして捉えたときに、人々を協力行動に導く処方について、そして社会と人々の相互作用過程について、皆様のご意見をお聞かせいただければ幸いです。
第28回
日時:2017年3月4日(土) 15:00~18:00
場所:広島大学東広島キャンパス 総合科学部 事務棟 3階 第一会議室
発表者: 木村昌紀(神戸女学院大学)
発表タイトル:
協調・非協調状況の対人コミュニケーションに関する日本・中国間比較
発表概要:
日本人と中国人の対人コミュニケーションは何が違うのか。この問いに対して、これまで実験的にアプローチしてきた一連の研究成果を発表する。
両国は東アジアの隣国同士で、昨年の訪日中国人数は過去最高を記録した。観光を中心に、留学等を含め、日本人と中国人によるコミュニケーション機会が急速に増加している。円滑な交流を促進するためにも両者のコミュニケーション特徴の共通点と相違点を整理したい。
前半は、協調状況における対人コミュニケーションに焦点を当てる。互いを知り、親密な関係構築を目指す情緒志向的なコミュニケーション場面と、特定のテーマを話し合い、一つの結論を導く課題志向的なコミュニケーション場面を設定し、日本人と中国人それぞれを対象にした比較実験の結果を報告する。表現のスタイルで両者の特徴が確認されたものの、当初予想していたほど両者の明確な相違点は見いだせなかった。
後半は、非協調状況に目を向ける。模擬的に役割分担を行い、一方が依頼してもう一方は断るという葛藤的なコミュニケーション場面と、特定のテーマで対立的な立場から双方が説得を試みる競争的なコミュニケーション場面での比較実験の結果を報告する。日本人と中国人のコミュニケーション特徴の違いは非協調状況下で顕在化する可能性が示唆された。
本発表は毛 新華さん(神戸学院大学)との一連の共同研究をもとに行う。私たちが初めに研究を構想した時から、気がつくともう10年近くになる。試行錯誤の中で少しずつ研究を進めてきたが、いまだ残された課題は多い。皆様からご意見・ご批判をいただき、さらに研究を前進・発展させていきたい。
第29回
日時:2017年6月17日(土) 15:00~18:00
場所:広島大学東広島キャンパス 総合科学部 事務棟 3階 第一会議室
発表者: 清水裕士(関西学院大学社会学部)
発表タイトル:記述的規範から命令的規範はいかにして発生するのか
発表概要:
社会規範がいかにして可能か、という問いは社会科学において共有される大きなテーマである。ありうる一つの問い方として、ゲームの均衡点あるいは進化的安定戦略を規範としてとらえるアプローチがある。つまり、個人の合理的な行動選択の結果、社会にある種の規則性が成立するという理解である。
しかし、社会科学の立場からみれは、均衡として規範を理解するやり方は十分とはいえない。そこには、行動の斉一性という事実は存在しても、当為性、つまり「~すべきである」という側面が抜け落ちているからである。
本発表では、規範理解における二つの区別、記述的規範と命令的規範がどのように異なり、また当為性と規範はどのような関係にあるのかを考えるところから出発する。そして、集団において当為性が発生する条件として世代交代と教育(言語的伝達)にある、という仮説を提案する。
最後に、この仮説を検討する最初の予備的実験について報告し、結果の解釈や今後の規範研究の可能性についてフロアのみなさんと議論したい。
第30回(二国間交流事業成果報告シンポジウム)
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今回、二国間交流事業「対人的な後悔とその機能の解明:生理指標を用いた日英比較実験」(代表者:小宮あすか・広島大学)において相手国パートナーとして研究にご参加いただいた村山航さん・榊美知子さんをお招きして、第30回広島社会心理学研究会を開催する運びとなりました。お二人のご研究についてご紹介いただきます。ふるってご参加ください。
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2017年8月19日(土)13:30-16:30
広島大学教育学研究科第1会議室
Organizer: 小宮あすか(広島大学)
13:30-13:40 講演者紹介
13:40-15:00 講演者①:榊美知子先生(レディング大学)
「感情が認知的処理を促進・抑制するメカニズム」
15:00-15:10 休憩
15:10-16:30 講演者②:村山航先生(レディング大学)
「Interest as a complementary reward for extrinsic incentives」
感情が認知的処理を促進・抑制するメカニズム
講演者:榊美知子(レディング大学)
人の認知的資源には限りがあり,日常で直面するすべての情報を知覚し,記憶できる訳ではない。しかし,限られた資源の中でも,感情を喚起する事象は優先的に処理されることが知られている。例えば,運転中に交通事故を目撃したとしよう。こうした状況では,運転中に目撃したその他の事象を忘れてしまっても,交通事故を目撃した記憶は忘れられないのではないだろうか。しかし,感情は常に認知的処理を促進するとは限らない。実際,心理学の研究では,1950年代から,感情の記憶に対する抑制効果が知られてきた。その一方で,従来の研究では,「どのようなメカニズムが感情の促進効果と抑制効果の両方を可能にしているのか」に関しては,十分に明らかにされてこなかった。本発表では,感情が認知的処理に促進効果と抑制効果を与えるメカニズムに関して,行動実験,脳イメー ジング,計算機モデルといった複数の手法を使用した研究を紹介する。
Interest as a complementary reward for extrinsic incentives
講演者:村山航(レディング大学)
このトークでは,人間の内発的興味に関する試験的な理論として,Interest as a
complementary reward for extrinsic incentives を提唱し,皆さんのご意見をお伺いしたい。アイディアはシンプルで,内発的興味は外的報酬が存在しないときに,自己生成された内的報酬として機能し,人間行動の自己制御を促進するものだというものである。このアイディアをサポートする知見として,(1)内発的興味は脳の報酬系に関与している,(2)人はつまらない課題に対しても興味を自己生成する能力を持つ,(3)内発的興味は正のフィードバックループを通して自己強化されていく,(4)この内的な報酬は外的報酬が存在しないときにだけ生成される,を提示したい。