ケアマネジャーのスーパービジョンに対する意識調査結果報告
研究者 梅田 広文
【はじめに】
2005年の介護保険制度改正において、地域包括支援センターと特定の居宅介護支援事業所に主任介護支援専門員が配置され、地域や職場内の介護支援専門員の支援過程を支持しながら、その成果が所定の水準に達しているかどうか、課題をこなしているかどうかを見届け、その援助技術の質を高めることを目的にスーパービジョン実践が現場レベルで導入されました。しかし、正式なスーパービジョンの展開方法が分からないとする主任介護支援専門員も多くいることも指摘されています。このことは、ケアマネジメント実践レベルにおいて、スーパービジョンに関する知識及び技術を習得する機会と手段が少ないことやシステム構築の一般化が図られていない為と考察されます。
今回、ケアマネジメント実践現場でのスーパービジョンに対する認識の実情を把握すべく、岐阜市域内のケアマネジャーを対象に意識調査を行い、収集されたデーターから現在の課題を明確化し、今後有効的に実践レベルでスーパービジョンを機能させていく方法論を模索できればと考え、本調査を実施させていただきました。
【調査方法及び対象者】
①調査対象者を岐阜市内に在住又は勤務し、介護支援専門員に関する省令(平成10年厚生省令第53号)第1条第1項に規定する介護支援専門員であり、岐阜市介護支援専門員連絡協議会の会員である者で、平成27年8月29日の研修会(テーマ;岐阜市医師会平成27年度 岐阜市地域在宅医療連携推進事業による介護支援専門員の為の医療研修会 於 岐阜市医師会)に参加した介護支援専門員としました。
②調査方法は、集合調査としデーターの収集方法は、量的調査を実施し、リサーチデザインは横断的調査且つ標本調査としました。又、データーの分析方法は、度数分布表とクロス集計表を用いました。
③当日の参加者は90名でアンケート回答者は77名で、アンケート回収率は85.5%でした。
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今回の調査で、5年以上のキャリアを持つケアマネジャーが45人(59.5%)で、5年未満のケアマネジャーの29人(37.5%)と比較し、多数を占める結果となりました。中でも10年以上の経験を持つケアマネジャーが24人(31.2%)と全体の中で最も多数を占めました。
調査回答者77名の内、主任以外のケアマネジャーが44名(57.1%)であり、主任ケアマネジャーの資格者29名(37.7%)を大きく上回る結果となった。主任以外のケアマネジャーの内「今後主任ケアマネジャーの資格を取得したい」と思っている人は14人で、現在、主任資格を持つケアマネジャーで「今後も引き続き更新していく人」25人と合わせると約50%の人が、主任資格取得の意思のある人であった。一方、「主任資格を取得するか分からない人」を含め、今後も「主任資格を取得しない」と答えた人も約44%存在しており、主任ケアマネジャーの資格の意義や価値を明確に実感できず、資格取得や更新をためらっているケアマネジャーも多数いることを窺い知る結果となった。
【スーパービジョン 受けたい?】
【表‐5】から、スーパーバイジーとして「今までにスーパービジョンを受けたことがある人」が全体の70%を越え「スーパービジョンを受けたことがない人」を大きく上回る結果となった。但し、「今までにスーパービジョンを受けたかどうか分からない」と答えたケアマネジャーも12人(15%)いることは軽視できず、実践現場での対人監督援助が単なる指導や助言で終わっていることや、スーパービジョンを実践する前段階におけるバイザーとバイジーの契約が履行されていないことが推測された。又、【表‐6】からは、回答を得たケアマネジャーの8割が「今後も引き続きスーパーバイジーとしてスーパービジョンを受けたい」と考えており、実践現場で行っている自らのスーパービジョン方法の確認や、より実際の事例に即したスーパービジョンの展開方法を、経験豊富なスーパーバイザーから再度確認したいと考えるケアマネジャーが多数存在するのではないかと推測される結果となった。
【スーパービジョン 受けた?実践した?】
ここでは、今までに誰からスーパービジョンを受け、誰に対しスーパービジョンを行ったことがあるか?という質問であったが、【表‐7】の通り回答者の67%が、「職場内外の主任ケアマネジャー」からスーパービジョンを受けた経験があると答えている一方で、【表‐8】では、職場内外のケアマネジャーに対し、スーパーバイザーとしてスーパービジョンを行った経験のある人は3割弱(約27%)しか存在しない結果となった。中でも注視すべき点として「スーパービジョンを行った経験がない。(自分の)指導がスーパービジョンかどうか分からない」と、答えたケアマネジャーが62.4%も存在していた点である。このことは、何らかの助言指導を職場内のケアマネジャー等に行った経験はあるが、それが、適切なスーパービジョンの視点にたったものであったかどうか分からない、とするケアマネジャーが多数存在していることを裏付ける結果となった。
【スーパービジョン 必要?】
【表‐9】から、スーパービジョンの必要性については、回答者の88%の人が「必要性がある」と考えている。「必要性がない」と回答するケアマネジャーがいなかったことから、実践現場においてスーパービジョン技法を用いての対人援助の有意性を認識していた結果となった。しかし、【表‐11】からは、「スーパービジョンの概念や実践現場での活用法や展開方法が分からない為、スーパービジョンを実践する自信や力量がない」、「スーパービジョンの概念が分からない」という理由から「必要性について分からない」と回答したケアマネジャーも少数(9名:11.7%)存在し、実践現場における実情の一部と考え軽視できない結果となった。又、【表‐10】から、スーパービジョンの必要性は、「自らのケアマネジャーとしてスキルアップにつながる」と考えている人が、他の項目に比べわずかではあったが、多い結果であったものの、概ね同じ割合でスーパービジョンの必要性を認識している結果であった。
【スーパービジョン 実践する?】
【表‐12】は、スーパーバイザーとしてスーパービジョンを実践していく意思確認の質問であったが、約40%の人が「実践していきたい」と考え、「実践したくない」と回答した人(約9%)を大きく上回った。
一方、「分からない」と回答した方も37%存在しており、無回答を含めると約50%の人がスーパーバイザーとしてのスーパービジョンを展開する自信を持っていないと推察できる結果となった。このことは【表‐11】で「スーパービジョンを実践する自信や力量がない」と回答したケアマネジャーは少数(4人)ではあったが、実際は、スーパーバイザーとしてスーパービジョンを実践したいが、自らの知識や力量不足を感じ実践できていないケアマネジャーは多数存在していることを裏付ける結果となった。
【スーパービジョン どこで学ぶ?】
介護支援専門員更新研修でのスーパービジョン教育の充実や、各種職能団体が主催する研修会等への参加により、スーパービジョンの学びを深めていきたいと考えているケアマネジャーが多く存在し、身近な存在である地域包括支援センターや職場内でのOJTを希望すると回答したケアマネジャーも多く存在する結果となった。スーパービジョンの学びを深める、自組織内の研修計画の見直しや再検討も今後必要と思われる結果であった。
【自由記載の一部を記載】
① 未だにスーパービジョンが理解できず分からない状態です。(介福 1年以上3年未満)
② ゆっくりと話を聞いてくれるスーパーバイザーが事業所に居て欲しい。時間がかかる事例に対しては、結局一人で解決策を探していくしかない。(介福 1年以上3年未満)
③ 誰でもスーパーバイザーになれるとは限らないと思う。(質、技量の違いがある)信頼のおけるスーパーバイザーがいるからこそ、スーパービジョンが成り立つ。スーパーバイザーをどう育てていくかが課題である。(介福 5年以上10年未満)
④ (スーパービジョンは)必要と思うが、スーパーバイザーとしてふさわしい人がバイザーになれるかどうか。経験年数や基礎資格等適切な人がスーパーバイザーになれるシステムが必要だと思います。(社福 10年以上)
⑤ (スーパービジョンの)必要はあると思いますが、自身のスキルアップをする必要があり研修の充実が必要になると思います。(介福 5年以上10年未満)
⑥ スーパービジョンはバイザー、バイジー共にスキルアップにつながると思う。本当にスキルの高いスーパーバイザーを育てる環境、研修が必要と考えるが、実際どれだけの真のバイザーが居るか分からない。何か明確なものがあればよいが、目に見えない資質が問われるし、研修を受けたから良いという訳でないので、スーパーバイザーという役割は本当に難しいと思う。(社福 介福 5年以上10年未満)