VLF (Voices of Love and Freedom) プログラムについて

VLF (Voices of Love and Freedom)

「思いやり育成プログラム」の理論

★ 研究者・教員の方々へ

子どもたちの思いやりを育てるためのプログラムです。ここでいう「思いやり」は、自分とは異なる他者の視点や立場を理解する能力を伸ばすことにあります。

私の視点、あなたの視点。彼の視点。彼女の視点。そして、彼らの視点。自分と異なる立場や視点に立つことは、難しいことですが、他人を思いやれるようになる

ということは、視点を「分化」していく力(社会的視点取得能力)を育むことだといえましょう。そして、それぞれの視点をできるだけ深く理解していく「深化」が

求められるのです。このプログラムは、この能力を向上させ、実際に他者を思いやる対人行動を実践できるように導いていきます。このプログラムは、このサイト

だけではなく、図書文化社から出版されている「VLFによる思いやり育成プログラム」にも概要を載せていますが、興味のある方々は、ぜひお問い合わせください。

1.こんな実態はありませんか?

「相手の気持ちがわからない子が多い」

「ちょっとしたトラブルからすぐパニックになる」

「自分の気持ちを相手に伝えることができない」

「友だちとうまくやっていけない」 etc...

といった、生徒さんがクラスに少なからずいませんか?

「そんな生徒が多くて…」と少しでも悩んでおられるなら、このプログラムを試してみてください。ここでご紹介する通称VLF思いやり育成プログラムでは、対人関係の基盤を育成するプログラムです。子どもたちにとって、「生きる力」の基盤となるのは、まず「自分」が理解されることです。また、「自分」が理解されることは同時に、「他人」を理解することにつながります。他人を理解するからこそ、持ちつ持たれつ、自分を理解してもらうという経験もできるからです。

学校には、そうした自分を理解してほしい子どもたちであふれています。しかし、他人を理解するということに未熟な子どもたちが少なくありません。そのため、結果として自分を理解されないという悩みも解消されないままにあります。成熟した仲間関係を成立させ、社会に出たときにたくましく適応していくためには、人間関係に必要なソーシャルスキルを学ぶことが必要です。このプログラムは、そういう意味で、「生きる力」の基盤となる力を育てることを目指しています。

2.VLFで目指している、子どもたちの力

このプログラムで、育むことができる力は次の3つです。

① 自分の気持ちや考えを相手に伝える力

② 友だちの気持ちや考えを推測する力

③ 対人葛藤に適切に解決する力

最近の子どもたちの対人関係は、ガラスのようにもろいように思います。自分の気持ちや考えを相手に伝えることができず、自分の心の奥に押し込んでしまったり、逆に、極端な暴力やいじめなどの陰湿な攻撃行動を企てたりします。友だちがほしいという気持ちは強いのに、素直な感情を表現したり、互いの考えを交換したりすることができません。そのため、相手の気持ちを自分勝手に解釈し、葛藤を抱きやすく、すぐに傷ついてしまいます。自力で解決する力がないために、自分から身を引いてしまったり、驚くような攻撃的な行動に出てしまったりするのです。

今、大事なのは、まず、自分の気持ちや考えを相手に理解してもらえるように主張するスキルが必要です。同時に、友だちの考えや気持ちを推測し、理解することが必要です。人はみな、同じ人間ではないのですから、意見や気持ちが違うのは当たり前のことなのです。こうした当たり前のことを避けようとするのではなく、解決していこうとする意欲と問題解決能力が必要なのです。

3.今までの道徳教育との違い

従来の道徳授業は、子どもの様子からいくつか問題を引き出した上で、副読本やビデオを見せ、主人公の気持ちを追い、例えば、「親切な心が大事だよね」といったまとめをしたり、先生の体験を終わりに紹介したりするといった形式が多いようです。あるいは、「心のノート」が使われるということもあるでしょう。

VLF授業は、こうした授業を否定するものではありませんが、やや意図するところが違います。つまり、主人公一人の気持ちを追いながら状況を理解していくのではなく、できるだけさまざまな人の立場を考え、いろいろな人の気持ちや考えに気づき、葛藤し、解決する過程までをリアルに体験することにあるのです。

以下に、VLFのメリットをまとめました。

(1) 教師と生徒の信頼関係

まず、先生の体験談を話すようにします。カウンセリングでも言えることですが、まずは、どんな授業も効果を得るためには、教師と生徒の人間関係が信頼に基づいていることが大切です。授業のはじめに、子どもの心が教師にふれていると感じられるとき、授業は本音と本音をつきあわせていける流れになります。

(2) さまざまな登場人物の視点に立つ

副読本の主人公の心情を追うだけでは、現実に直面した問題場面で役に立つ力は育ちません。現実に出くわす困った場面は、さまざまな人が関わっていることが多く、一人の気持ちを理解するだけでは不十分だからです。当事者それぞれの立場に、短い時間で立つことができ、どの人も満足できるような解決策を考えていく力を持つことが必要になるのです。VLFでは、さまざまな登場人物の視点を考えます。これについては、役割取得能力の発達段階を目安にします。個人差が大きいのですが、個々の生徒の発達が向上するように促します。

(3) 授業に全員参加し、体験重視

従来の道徳授業は、一部の子どもが意見を言って終わることが多いように思います。特に、高学年になると、授業中、ほとんどの子どもは黙ったままでいたりします。これでは、現実の道徳実践力を身につけることができません。VLF実践では、ペアを大切にし、ペア活動をふんだんに盛り込むことによって、全員参加を可能にします。パートナーインタビュー(互いに質問しあって、聞き手と話し手を体験)を通して、ペアの気持ちを傾聴し、自分の考えを話します。さらに、葛藤場面を想定してロールプレイします。

(4) 時間をかけ、理解を深める

これまでは、細切れの価値を1コマで教えるといった形が多いように思います。しかし、子どもたちが直面する日常生活の問題は、一つの価値で解決できる場合は、ほとんどありません。子どもが実際に生活の中に学校で学んだことを応用していくためには、それなりの時間をかけて練習する必要があるのです。

4.やってみよう! VLF実践

それでは、具体的にVLFプログラムを紹介しましょう。このプログラムは、4つのステップから成り立っています。

【プログラムの構成―4つのステップ】

次の4つのステップからなります。ホームワークを入れて、5つのステップにすることもあります。

(1) ステップ1―結びつくこと

教師が個人的な体験を生徒に話します。語る者と語られる者の信頼関係を築きます。話しては自分の体験談を話すので、表現豊かに説明することができます。教師の話は、自分の話を他人に話す場合の行動モデルになり、生徒自身が自分の話をするときに役立ちます。

(2) ステップ2―話し合うこと

理解に時間がかからず、登場人物の立場を擬似的に体験するような感情移入しやすい絵本を選びます。物語の対人関係の葛藤状況で立ち止まり、その状況での登場人物の気持ちや立場を推測させます。

(3) ステップ3―実習すること

ロールプレイによって、さまざまな視点を体験し、役割を交代することによって、異なる立場の考え方や気持ちに気づくことができるようになります。ペアの相互作用を支援することが大切です。

(4) ステップ4―表現すること

書く、描くという表現活動を通して、自分の心に内在化した思いを表現させます。発達段階に応じて、日記(自分を表現します)、(絵)手紙(相手の立場を意識します)、物語の続き(第三者の立場を理解します)をつくらせたりします。

(5) ステップ5―ホームワーク

ときには、ホームワークを課し、保護者に協力してもらいます。学校で学んだことが家庭でも実践できるようになることがねらいです。