SST(Social Skills Training)について

1.ソーシャルスキルとは?

私たち大人は子どもたちに「やさしくしなさい」「友だちを大切にしなさい」「がんばりなさい」などといった言葉を投げかけることがあります。こうしたことは子どもの健全な発達にとって大切な言葉がけです。しかし,抽象度が高く,実際にその言葉を発した大人がどのような具体的な行動を期待しているのか子どもたちに伝わっていないことも少なくないでしょう。つまり,「やさしくする」「友だちを大切にする」「がんばる」という行動が,実際にどのような行動なのかを子どもたちに具体的に伝えていないわけです。子どもたちからすれば「友だちと仲良くしたい」「やさしいねと言ってもらいたい」と思っていながらも,いつのまにか「乱暴者」「引っ込み思案」のレッテルを貼られることで,身動きできず自暴自棄となり周囲と悪循環になっていることも多いのではないでしょうか。ではどうすればいいのか・・・

個々の子どもの問題が上記の4つのどこに原因があるのかを明らかにし,その原因に応じて関わってあげればよいのです。対人関係がうまくいかないことについて以下の状況と対応が考えられます。

① ソーシャルスキルについての知識がない

→知識を教えてあげる「○○すると,やさしい行動だよ」

② ソーシャルスキルについて誤った知識を獲得している

→誤った知識を消去し,適切な知識を学ばせる

「●●ちゃんは,○○することがやさしいことだと思っていたのかもしれないけど,お友だちは辛かったんだって」

③ 知識はあるが,行動に移せない(自信がない,恥ずかしいなど)

→今まで成功経験が少なかったために意欲が下がっていることがかんがえられるので,やればできるチャンスを与えてほめてやり,自信をもたせる

④ 知識もあり,行動もできるが,状況をモニターできない

→各状況に実際に介入してモニターできるように細かく教えてあげる

2.しつけにみるソーシャルスキルトレーニング

言語的教示

けんかやいざこざは大切なことを教える機会となります。大人は子どもの気持ちを代弁したり,お友だちの気持ちを教えてあげたりして,自分の気持ちを言語化するスキルやお友だちの気持ちを想像する力を育てていく必要があります。そのためには,「○○ちゃんは悔しかったんだね」と気持ちを代弁して言語化してあげることが,後に自分の気持ちを「悔しかった」と話せることへと導くきっかけになるのです。その際には,子どもに理解できるように言語的に教えてあげる姿勢が大切です。たとえば,「すべり台でお友だちと仲よく遊んでおいで」ではなくて「すべり台のところでお友だちが並んでいるから,一番最後に並ぶんだよ」といったようにスキルを教えてあげるのです。

強化

子どもの自発的な行動に随伴して,ほめたり注意したりすることで子どもは様々なソーシャルスキルを学んでいます。たとえば,たまたま,ぬいぐるみの頭をなでたときに「頭をなでてあげてやさしいね」とほめられることで「頭をなでること=やさしいしい行動」という枠組みを学んでいくのです。これを「強化」といいます。

モデリング

身近な親,教師,きょうだい,友だちはすべてモデルであり,モデルから怒られたり叱られたりするのをみて,してはいけないことを知り,モデルがほめられているのをみて,正しい行動を学ぶことができるのです。これは「モデリング」といわれ,本人が直接ほめられたり叱られたり(強化)されなくても,他人の行動を観察するだけで学習することができるというメカニズムです。したがって,集団の中におかれることは,多くのモデルを与えられることになり,様々な影響を受けることになります。こうしたモデリングの機能を利用して特定の誰かにだけ何かを伝えというのではなく,それを他の子が観察していることを意識して,どういう行動がたいせつなことなのか子どもたちに認知的および行動スキーマを与えることが大切になります。

フィードバック

言葉で教えられ,モデルを観察するだけでなく,ソーシャルスキルが各々の子どもの行動に深く学習されるためには,勇気を出してやってみた行動が他者からみて動だったのかという「フィードバック」を得ることが大切です。ここでは「○○はとてもよかった」「△△するとさらに**と受け止めることができるからいいと思うよ」といったように,批判するのではなく,当人がさらに意欲的になるような接し方が求められます。

リハーサル

学んだ知識は色々な状況で再現された経験として積み重ねられ,その人の行動レパートリーに定着していきます。そのためには何度も「リハーサル」していくことが大切です。

3.ソーシャルスキル教育

ソーシャルスキルトレーニングは個別だけでなく,小集団や学級で実施が可能です。

-学級で行う場合にメリットは?-

個性を生かすことができる

私たちが意識する「私」は,他者との交流によって獲得されるのです。無人島にひとりでいても「私」がどんな人間であるのかはわかりません。他者と関わることによって自分は他者より「てきぱきしている」「おしゃべりだ」「弱虫だ」といったことを考えや行動の相対化から理解することができるのです。また,他者から「君って○○だね」といったフィードバックをもらうことから「私って○○のところがあるんだ」という自己概念をもつのです。さらに,集団で行うことによって個性化と社会科のバランス感覚を育てることもできます。自分のしたいことをしていると必ず衝突したり葛藤する状況に直面し,その際に協力することを学ぶことになるでしょう。加えて,自分を伸ばしていくためにはどうしたらよいかという課題を持つことになります。

子どもの問題行動を予防することができる

家庭や地域の教育力が弱まっている中で,子どもたちが将来社会に出て行くために必要なソーシャルスキルを教えるためには学校がもっとも貢献しうる場を提供することになるのではないでしょうか。近年,小・中学校を中心に多くの実践が行われています。取り上げられているソーシャルとしては,以下のようなものがあります。

「あいさつ」「自己紹介」「上手な聴き方」「上手にはなしかける」「質問する」「仲間の入り方」「仲間の誘い方」「あたたかい言葉のかけ方」「自分の気持ちを伝える」「怒りの気持ちへの対処」など

行われているプログラムの構成は一般に「モデリング」「リハーサル」「フィードバック」「ホームワーク」からなっており,認知,感情,行動のすべての面に焦点を当てたトレーニングのよって現実場面に般化・維持されることを目標としています。私たちの研究室で新たに導入し取り組んでいるDeRosierらのプログラムでは,ホームワークとして親と一緒にトレーニングできるような工夫がなされています。

4.ソーシャルスキルとモラルの関係

社会性と道徳性は並列的に取り上げられることが多く,区別して論じられることは意外と少ないのではないでしょうか。しかし,近年の道徳授業において「ソーシャ ルスキル」が扱われることを鑑みても,社会性と道徳性の相違について認識する必要があるように思われます。社会性は,仲間との関わりに焦点を当てて円滑な関係を築く能力として考えられますが,非行集団内で仲間がいることは一概に仲間関係がないわけではないという見方もあります。また,いじめの加害者は必ずしも孤立しているわけではなく,仲間を見方につけて計画を練り,狡猾に実行することが可能であったりすることから,ある程度の社会性があるとも考えられます。しかし,彼らが道徳的には大きく逸脱した行動をとっていることは明白です。すなわち,誰とでもうまくやっていくことが望ましくない場合や,相手と和解するためには効果があっても決してとってはいけない行動が存在するということを意識できるかどうかが重要なのです。道徳的価値の内面化がなされてこそ,要領のよさとして勘違いされることのないソーシャルスキルが獲得されるように考えられるわけです。したがって,道徳性(共感性,公正さ,役割取得能力など)の発達とソーシャルスキルの関係をもとに検討していく研究が必要になってくるのです。特に,日常生活不意に直面する,複数の価値観が葛藤するような複雑な場面では,どのようなソーシャルスキルが望ましいかを決めることは難しいでしょう。そこで,道徳的な価値に関連した状況での望ましいソーシャルスキルについて考えていくことなどの体系的な教育を考えていくことが望まれます。道徳面を強調しつつ,ソーシャルスキルの獲得を目標においているプログラムにはVLF(Voice of Love and Freedom);思いやり育成プログラムやモラルスキルトレーニングなどがあります。

5. 今後のソーシャルスキルの問題と展望

どの年齢を対象にどのような状況でどういったスキルが必要であるのか実態を明らかにする

そこから得られる結果をもとにして,子ども一人ひとりがそうしたソーシャルスキルのどこに問題があるのか,あるいはどういったソーシャルスキルを学ぶ必要があるのかといったことを明らかにするアセスメントの開発

【引用文献】

渡辺弥生 2007 ソーシャルスキルの発達と教育 学校教育研究所年報,51,37-48.

実践紹介

―高等学校での実践―

【指導案(上手な断り方)】