セルロース分解酵素および酸化還元酵素の実験室内進化

Directed Evolution of Environmental Enzymes

バイオマスは、植物を育てて利用する限り枯渇することがなく、大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、カーボンニュートラルな再生可能エネルギーとして期待されています。特に、木質廃材や稲わらなどのセルロース系バイオマスは、食料と競合しない生物資源として注目されています。セルロースはグルコースが鎖状につながった高分子であり、セルロース分解酵素によりグルコースにまで分解 (糖化) すれば、その後、微生物発酵によりバイオエタノールを作らせたり、後述するバイオ電池で直接電気に変換することが可能となります (図4)。このようにバイオマス発電では微生物の有する様々な酵素タンパク質が重要な役割を担っていますが、酵素の調製コストが比較的高いことがバイオマス発電の採算を考える上で問題となっています。

一方、バイオ電池による発電は、無機触媒として高価な希少金属を必要としないため、安全で環境負荷が小さいエネルギー源として期待されていますが、現段階のバイオ電池の出力は数 mW 程度と低く、寿命も数週間程度と短いため実用化には至っていません。バイオ電池では、酸化還元酵素がグルコースなどの有機物を基質として分解する過程で、主に補酵素を介して電極に電子を受け渡すことで発電します。(⇒ バイオ電池については SONY の研究がよくニュースで紹介されていますので「紙から発電するバイオ電池」で Google 検索してみてください。)

もし、遺伝子工学により酵素の活性や安定性を向上できれば、バイオ電池の出力や寿命の改善につながるばかりでなく、酵素の使用量を減らせるので、実質的なコスト削減も期待できます。しかし、これまで主に研究されてきたのは天然酵素の探索や、酵素の電極への固定・集積方法などであり、既存の酵素自体の改良はあまり試みられていませんでした。

そこで、私たちの研究室では、これまでに培ってきたタンパク質の進化工学の技術を用いて、セルロース分解酵素や酸化還元酵素の活性や安定性などの機能を飛躍的に向上させることができる人工進化系を確立し、実際にバイオマス発電に応用することを目指しています。

最近、酸化還元酵素をハイスループットにスクリーニングできるマイクロ流体デバイスを開発した成果が Keio Research Highlights でも紹介されました。

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