学校司書の身分に対する 文部科学省の見解

学校司書の身分に対する文部科学省の見解

学校図書館総合研究所

所長 木幡洋子

 2021年10月24日に、CJSLA研修についての打合せを行った際に、CJSLA会長の伊藤幸代先生から2014年に刊行された『改正学校図書館法Q&A―学校司書の法制化にあたって』に記載されている次の内容についての質問を受けた。なお、質問されたCJSLAの会長である伊藤先生は、NPO法人が受託して学校に派遣している学校図書館担当者であり、自治体は「学校図書館支援員」という呼称を用いている。そのため、業務としては学校司書としての業務を行っているが、自分は「学校司書」には該当しないのかという疑問から質問をされたという経緯がある。

Q7:学校図書館の業務の受託者が、学校図書館に派遣している者も、「学校司書」に該当するか。

A7:現在、一部の自治体では、事業者が学校図書館の業務を請け負っている事例が散見される。これは、それぞれの自治体が自主的に判断し、実施していることであるが、学校図書館法が新たに位置づける「学校司書」として想定する者は、学校設置者が雇用する「職員」である。事業者が雇用して学校図書館に勤務する者は、校長の指揮監督下にないことから、法の規定する「学校司書」には該当しないと考えている

文部科学省への質問

 上記のA7を見てもわかるように、学校司書の資格や身分について自治体に委ねているため、全国的な法的に統一された定義が明文でない。そのため、何が「学校司書」であるかについての明確は根拠はない。その結果、下線のように「考えている」という解釈が示されているにすぎない。また、毎年実施される「学校図書館の現状に関する調査」では、以下のように「学校司書」を定義している。

 

※本調査における「学校司書」とは、専ら学校図書館に関する業務を担当する職員をいい、教員を除く。また、ボランティア(無償で活動を行う者)についても除く。

 これらを踏まえて、学校図書館の所管部署である「文部科学省総合教育政策局地域学習推進課・図書館/学校図書館振興室」に文部科学省の「学校司書」に関する定義を確認するために問い合わせを行った。以下は、その際のやり取りの経緯である。

(1)10月25日回答

愛知県立大学名誉教授 木幡 洋子 様

お世話になっております。文部科学省地域学習推進課 中村と申します。このたびはお電話いただき、ありがとうございました。

ご教示いただきました「改正学校図書館法Q&A」を、以下リンクより確認させていただきました。

http://www.gakuto-seibi.jp/pdf/2014leaflet4.pdf

当該職員の方は、実態としては「専ら学校図書館の職務に従事する職員」(学校図書館法第6条第1項)として学校図書館業務に日々取り組まれていることと思いますが、NPO法人等の事業者雇用による職員は、Q&Aのとおり法律上の「学校司書」にはあたりません。

この裏付けとなりますのが学校教育法第37条第1項および第2項で、学校司書は“学校事務職員相当”という位置づけです。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/sisyo/1360933.htm(参考:「司書教諭」と「学校司書」及び「司書」に関する制度上の比較)

(第1項)小学校には、校長、教頭、教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければならない。

(第2項)小学校には、前項に規定するもののほか、副校長、主幹教諭、指導教諭、栄養教諭その他必要な職員を置くことができる。

これらの職員は「小学校の設置者が、必要に応じ、小学校に置く職員」(『逐条学校図書館法 第8次改訂版』学陽書房,2016年4月,365ページ)

であり、事業者雇用による職員は設置者の任命によらないところであるため、今回のケースは該当しない、という考え方です。

以上簡単ではありますが、回答といたします。職員の方にもよろしくお伝えください。

(2)10月22日再質問

 ご回答をありがとうございます。Q&Aの記述と同じ回答ですね。

 ただ、この回答について以下のような疑問が残ります。

1.学校図書館法上の「学校司書」とは学校教育法上の「事務職員」の一類型なのか。そうであれば学校図書館調査においてもそのような類型として調査すべきではないか。

  以下が学校図書館調査における「学校司書」の定義です。

※本調査における「学校司書」とは、専ら学校図書館に関する業務を担当する職員をいい、教員を除く。また、ボランティア(無償で活動を行う者) についても除く。

2.学校司書についての法的整備は不十分では?

なお、学校司書については、以下の参考文献にみられるように学校設置者により雇用されている者と「想定されている」という記述がみられ、実は想定であって「規定」ではないことが明らかです。

規定に高めるための法整備が行われていないのではないでしょうか。それが直ちに困難な場合は、せめて、派遣などの契約において、「事実上の学校司書」として地教行法に準じる研修や待遇を契約にいれるよう、文科でひな形を提示されるということは考えていただいていないのでしょうか?いずれにしても、単なる「想定」を「規定」とすることは法解釈として無理があります。これを解釈として成立させるのであれば、多くの直接雇用をしていない自治体は学校図書館法を無視している状態で、学校図書館法第6条[1]が課している努力義務は意味を持たないものとなっています。

こうした事態に対して文部科学省はどのような対策を考えておられるのでしょうか。

<参考>

① 学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議(第6回)議事録:文部科学省 (mext.go.jp)

16ページですけれども,また,地方公共団体においては,学校司書を配置する方策として,公共図書館や民間業者から職員を派遣している事例もございます。学校図書館法に規定されている学校司書として想定されているものは,学校設置者が雇用する職員であるという点と,教職員が校長の指揮・監督下で勤務するのに対して,派遣職員は公共図書館長,あるいは派遣会社代表者の指揮・監督で勤務している。これらを踏まえて,派遣職員が学校図書館に適正に携わるには,契約内容を十分に検討し,学校等との事前の協議・調整等が十分に行われることが重要であると記載しております。

②これからの学校図書館の整備充実について(報告) (mext.go.jp) 26頁

  また、地方公共団体によっては、学校図書館を支援する方策として、公共図書館 や民間業者から職員の派遣や業務委託を行っている事例もある。学校図書館法に規 定されている学校司書として想定されている者は、学校設置者が雇用する職員である。学校図書館法では、学校に学校司書を置くよう努めなければならないとされて いるため、教育委員会は、学校司書として自ら雇用する職員を置くよう努める必要 がある。

3.学校内で働く者の身分は?

〇学校教育法上は「その他必要な職員」が学校司書?

では、「事実上の学校司書」は学校教育法上規定のない幽霊職員になるのでしょうか?

学校図書館調査においては「学校司書」と「事実上の学校司書」を対象とするのであれば、「事実上の学校司書」に対する文部科学省見解を通知していただくと、派遣の契約内容が望ましいものになるのではないでしょうか。

少なくとも、自治体に、学校図書館調査の定義による「事実上の学校司書」を「学校司書」と呼称することは違法ではないことを明示していただければ、多くの「事実上の学校司書」の差別問題が少しは解決に向かうと思われます。研修については地教行法の適用がないため、契約時に委託業者に義務付けている自治体が多いようですが、教育センターや公共図書館からの支援がないため、頻度と内容が十分なものになっていません。

今後の学校図書館調査では、「学校司書」と「事実上の学校司書」についての調査を是非ともお願いしたいと思っています。

4.学校教育法§37の事務職員とは

学校司書モデルカリキュラムあるいは「情報教育の手引き(追補版)」における学校司書の分掌は下記の規定のどこから出てくるのでしょうか。明らかに法の欠缺ではないのでしょうか。つまり、学校司書とは、学校図書館法で言葉が出てきているだけで、学校教育における位置づけに確たるものがないように見受けられます。もうすこし、詳細な法解釈あるいは文部科学省としての見解をお教えください。

第三十七条 小学校には、校長、教頭、教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければなら

ない。

② 小学校には、前項に規定するもののほか、副校長、主幹教諭、指導教諭、栄養教諭その他必要な職員を置くことができる。

中略

⑭事務職員は、事務をつかさどる。

最後に、文部科学省は、学校司書を資格職にすることは妥当ではないという見解のようですが、これは時限的な見解でしょうか。それとも恒久的な措置としての見解でしょうか。

大学で学校司書コースを開講している大学も散見されますが、資格職でもなく、単なる事務職、あるいは派遣の幽霊のような職員(比喩ではありません。現場の学校司書はそうした扱いを受けている方もおられます)にしかなれないのであれば、新卒者が就職を希望することはあまり望めません。こうした現実に対して、文部科学省はどのような学校司書の整備と充実の具体的な方向性を持っておられるのか、お教えいただけないでしょうか。公開されている文書からは読み取ることができなかったのですが、私の情報収集能力が低いせいかもしれません。資料についてご教示いただけましたら幸いです。

  よろしくお願いします。

(3)10月27日最終回答

愛知県立大学名誉教授 木幡 洋子 様

お世話になっております。ご返信いただきました件について、文部科学省として以下のとおり回答いたします。

「学校司書」は法律上明記されておりますとおり、学校図書館法第6条第1項に基づくものでございます。

学校教育法については、当課ではなく初等中等教育局初等中等教育企画課が所管しておりますのでそちらに確認したところ、

学校司書は第37条第1項にある事務職員とはあきらかに区別されるものである。

・したがって、同条第2項「その他必要な職員」に含まれる。また第2項に挙げられる職員は、「設置者の判断」によって置かれる。

との見解です。

学校図書館法・学校教育法に関する解説書はこちらでも調査しましたが、先日お示ししました『逐条学校教育法第8次改訂版』(2016年)の後はここ数年の出版物では確認できませんでした。

現状調査の次回調査方法や通知文書の発出については、ご意見として伺い今後検討させていただきます。

また学校司書の整備と充実の具体的な方向性についても、教育委員会や関係団体等の意見を伺いながら引き続き検討してまいります。

最後に「学校司書」は学校図書館法に基づいた表記ではありますが、「事実上の学校司書」が「学校司書」と呼称することが許されないということでは決してございませんので、その点はご理解いただきますようお願いいたします。

まとめとして

以上のやり取りから、学校図書館法上の「学校司書」と「事実上の学校司書」があるものの、学校図書館の業務に携わる職員を“学校司書”と呼称することを文部科学省は容認していることを確認することができました。また、学校司書の業務内容についても、学校教育法第37条2項の「その他必要な職員」であり、一般的な事務員とは異なる職員として捉えられていることも確認することができました。

(2021年12月9日)



[1] (学校司書)

第六条 学校には、前条第一項の司書教諭のほか、学校図書館の運営の改善及び向上を図り、児童又は生徒及び教員による学校図書館の利用の一層の促進に資するため、専ら学校図書館の職務に従事する職員(次項において「学校司書」という。)を置くよう努めなければならない。

2 国及び地方公共団体は、学校司書の資質の向上を図るため、研修の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。