2016年設立趣意書

「学校図書館総合研究所」設立趣意書

School Library Comprehensive Research Institute(SLoRI)

2016年4月10日版

民主主義社会を熟成させる学校図書館の役割を高めるために

-民主主義社会の担い手育成と教育権保障のために-

情報社会、国際社会の到来に伴う国際的経済競争力を培うための教育改革の中で、批判的思考力、判断力、表現力の育成が教育の目標になっている。こうした中、学校図書館の整備と活用が謳われているが、残念ながら「学校図書館と民主主義社会」「学校図書館と情報拠点」「学校図書館の教育的役割」などについての本質的な意味が、社会に十分に理解されているとは思えない。たとえば、2014年改正の学校図書館法で法定された「学校司書」の役割と機能について、社会的コンセンサスが形成されているとはいえないため、その身分や学校内における位置づけ、職務内容などに混乱が生じている。また、マクロな視点からは、そもそも学校教育における学校図書館の役割は何かについてのコンセンサスが教育行政と現場教師に形成されていないため、学校図書館の活用に格差が生じている。

こうした混乱や格差は、帰するところ、子どもたちへの教育保障の差となって表れる。そのため、社会における学校図書館に対するコンセンサスの形成に資する学術的解明を行い、その成果を現場に還元するシステムを考案するために、学校図書館総合研究所を設立する。

生涯にわたる個の発展の基礎を培うために

-読書とインフォメーション・リテラシー育成のために-

学校図書館は教育権保障のための要であり、学校の心臓部であることは、生涯学習社会において一層の重要性を持ったものとなる。また、幼少時の読書経験が生涯にわたる能力の発展に大きな影響を及ぼすということ、情報時代における基本的な能力としてインフォメーション・リテラシーが重要であることから、学齢期において学校図書館がこれらの育成に資する場として機能することは重要である。こうした学校図書館の機能についての理解が広がり、学校図書館がその教育的機能を十分に果たすことができるためには官民の支援が必要である。研究成果を実践に活かすことができるよう実践と研究の架橋の役割を果たすことで、こうした支援の一翼を担うことを目的とする民間研究所として学校図書館総合研究所を設立する。

地域密着の研究と実践のための場として

-研究所の独自性と民主的な場の具現化-

学校図書館研究のための組織としては、日本図書館情報学会、日本学校図書館学会、日本図書館協会学校図書館部会、日本図書館研究会学校図書館研究グループ、学校図書館問題研究会などがすでに存在し、それぞれ、研究と研修を行っている。また、2003年には、日本図書館情報学会が総力を挙げて取り組んだとされる本格的総合研究としてLIPER(Library and Information Professions and Educations Renewal)研究が始まり、一次と二次の研究を経て2009年には第二次研究(LIPER2)の報告書が政策に資するものとして公表されている。また、現場への組織的な支援団体としてはSLiiiCが活動を行っている。さらに、地域において学校図書館支援を行っている図書館や団体をみることもできる。

こうした状況において、本研究所を立ち上げる理由は、前述の学校図書館の二つの社会における重要性を、地域の専門的研究者による研究の深化、地域の実践者との交流、地域の実践者が参加しやすい研修の組織を行うことで現実化することにある。特に、研究所が置かれている愛知県には図書館情報学の研究者を養成している愛知淑徳大学があり、学校図書館研究者の輩出が期待できる。そのため、学校図書館研究の拠点としての可能性を秘めている。

前述のように百花繚乱の様相を示す日本の学校図書館研究と研修母体の多くの存在は、喜ばしいことであると同時に、日本における学校図書館の教育における意義と行政のあり方についての混乱も示している。本研究所は、地域の学校図書館研究者と実践者の結集により、理論と実践の相互交流による学術的な研究成果を産み出すことを目指す。それにより、日本における学校図書館像と理論を支える研究者と実践者の協働を実現し、民主的で、集うものが自由、闊達に学びあい、探究を進める研究と実践の場として学校図書館総合研究所を設立する。

学校図書館の原点にたった場の提供

-研究所設立の願いとして-

地方における研究は、全国的な研究であるLIPERが目指したような政策提言のレベルに達することは、組織のうえでも、政府からの距離の点でも困難である。けれども、そもそも学校図書館は、日常の生活の中で、その中で一人ひとりが育つためのものでもある。本研究所は、いわば学校図書館の原点ともいえる一人ひとりの子ども、教師、地域の住民から目をそらすことなく、地域が潤い、地域において学校図書館の理想が具現化していくことを願って、地道に研究と交流を、温かい喜びと共に進めていきたい。

設立発起人(50音順)

江良友子・久野和子・木幡智子・木幡洋子・杉浦良二・服部繁彦