※下記は主に東大学部3年生を対象に書いています.
私の研究室では,主にワイドギャップ半導体を用いた電子デバイスの研究をしています.
ワイドギャップ半導体(SiCやGaN)は,青色LEDの材料として注目され,材料研究が進められました.
2014年に赤崎勇先生,天野浩先生,中村修二先生がノーベル物理学賞を受賞されたことは記憶に新しいです.
ワイドギャップ半導体は,高い絶縁破壊電界や高い飽和ドリフト速度など,電子デバイス応用上も大変興味深い物性を有しております.
このような特徴を活かして,電力変換用素子(パワーデバイス)や携帯基地局(5G通信)などで用いられる高周波増幅用トランジスタなどの応用が進んでいます.
これからの省エネルギー社会の実現のために,ワイドギャップ半導体デバイス実現のための基礎学理を構築する必要があります.
特に重要になるのが,従来の半導体(Si)では考えられないような高電界や超高温における特有の物理現象を明らかにすることです.
例えば,絶縁破壊を決定づける物性値である衝突イオン化係数は,従来の半導体とは全く違った特異な特性を持っており,
衝突イオン化係数が電子と正孔で大きく異なる(正孔の方が大きい),結晶方位依存性が大きいなど,面白いことがわかり始めています.
しかし,まだまだ分からないことばかりで,今後継続した研究が必要と言えます.
我々の研究室では,ワイドギャップ半導体の基礎物性を解明し,デバイス特性の高性能化や新機能発現に学術的な観点から貢献することを目的としています.
現在進行している具体的な研究テーマ:
・ワイドギャップ半導体の高電界ドリフト速度の測定
・金属/ワイドギャップ半導体Schottky界面物性の精密評価
・分子線エピタキシー(MBE)による窒化物電子材料の結晶成長と電子物性評価
・窒化物半導体ヘテロ接合の二次元電子(2DEG)のキャリア輸送特性の解明
・新規窒化物半導体ヘテロ接合による革新的トランジスタの試作実証
・窒化アルミニウム(AlN)系半導体パワーデバイス実現に向けた基礎研究
・放射光分光測定による新奇窒化物材料(ScAlN, NbN)の電子物性評価
独自のアイデアのもと,その物性を正しく精度良く測定するにはどのような素子構造が良いか検討し,
数値計算・シミュレーションに基づいた設計をグループで(時には共同研究者と)徹底的に議論します.
その後,東京大学の有する共有装置(武田先端知クリーンルーム)を活用し,自分たち自身でデバイスを作製し,測定・解析を行います.
これまで誰も明らかにしたことのない自然現象そのものと対峙しているので,簡単ではありませんが,
設計通りの結果が得られた時(あるいは自分の想像もつかない新現象に出会った時),本当に胸が熱くなります.
その感動を客観的・科学的に他者に論文・学会で発表する瞬間も日々の努力が報われる瞬間です.
研究は決して楽ではないですが,やり遂げた・乗り越えた瞬間の心の底から震えるような喜びを是非体験してほしいと思っています.
研究室見学の相談など,いつでも受けておりますので気軽にご連絡ください.
その他,参考になる記事・文献など
・世界を照らす窒化ガリウム(GaN)青色発光ダイオード(LED)
・グリーントランスフォーメーション(GX)に貢献するパワー半導体技術
・窒化ガリウム(GaN) 横型パワーデバイス
・次世代パワー半導体材料: 炭化ケイ素(SiC)
・パワー半導体の次のエースを求めて
・Tsunenobu Kimoto, "Material science and device physics in SiC technology for high-voltage power devices,
Japanese Journal of Applied Physics 54, 040103 (2015). (東大wifiからアクセスすれば読めます)