キャリアと技能形成に関する全国オンライン調査
キャリアと技能形成に関する全国オンライン調査
調査の概要
みなさまのこれまで、現在のお仕事の経験や、それらに関する意識やお考え、将来の展望をうかがい、今後変わりゆくであろう日本のキャリア形成のあり方を転職(従業先の変更)という側面から明らかにするため、2024年1月に「キャリアと技能形成に関する全国オンライン調査」の第1回目を実施いたしました。ご協力いただいた皆様には厚く感謝申し上げます。
本調査の概要は以下の通りです。
調査対象:2023年12月末日時点で日本在住の25歳から39歳男女個人
対象者数:3,600名
抽出方法:住民基本台帳にもとづく層化二段無作為抽出法
第一次抽出単位:性別、人口規模(21大市、20万人以上の市、その他の市、町村)と10の地域により全国を区分し、人口に比例するように180の調査地点を無作為抽出
第二次抽出単位:各地点から個人を無作為抽出(1地点あたり20名)
調査方法:LimeSurveyによるオンライン回答(ウェブ法)
調査時期:2024年1月~2月
有効回収数:911名(回収率は25.3%)
第1回調査の集計結果
以下では、第1回調査の結果から一部をご紹介いたします。
性別、出生年、就業状況の分布
調査にご協力いただいたみなさまの基本属性のうち、性別(「その他」「答えたくない」は数ケースであったため集計から除いています)、出生年、就業状況を組み合わせた集計結果が以下のグラフです。
集計対象のうち、男性は375名、女性は526名です。男性のうち9割以上の方は調査回答時点で収入になる何らかのお仕事をしています。女性も8割以上の方が就業していますが、男性と比べるとお仕事をしていない方(無業)の割合が高いです。出生年区分別にみると、男性の1995-98年生では就業率が若干低く(93%)、女性の同じ出生年区分では他と比べて若干高い就業率を示していますが(88%)、顕著な差とまではいえません。
仕事に関する意識(1)
この調査では、対象者のみなさまの仕事に関する意識や考え方をうかがっています。そのなかで「仕事は収入を得るためのものであって、それ以外の何ものでもない」という意見についてそう思うか、思わないかを尋ねた結果が以下のグラフです。質問では「1:そう思う」「2:どちらかといえばそう思う」「3:どちらともいえない」「4:どちらかといえばそう思わない」「5:わからない」の選択肢から1つを選んでもらいました。以下の集計では、1と2をまとめて「そう思う」、3はそのまま、4と5をまとめて「そう思わない」の3つに区分しています。「わからない」は少数であったため、集計からは除いています。
全体的に、「そう思う」と「そう思わない」の割合が拮抗する結果となりました。男性の無業の方は「そう思う」の割合が小さいですが、集計対象の人数が少ないため注意が必要です。有業者のうち男女で比較すると、男性の方が「そう思う」、女性の方が「そう思わない」の割合がやや大きい結果となりました。
仕事に関する意識(2)
同じく仕事に関する意識の質問のなかで、「お金を稼ぐ必要がなくても仕事をもちたい」という意見についても尋ねています。回答の仕方は先ほどの質問と同じです。同じように、性別と就業状態を組み合わせて集計した結果が以下のグラフです。
有業か無業かで回答の分布に差がみられます。男女ともに、有業者の方が「そう思う」という回答の割合が20%ポイント程度高く、「そう思わない」の割合が低いという結果となりました。男女差をみると、女性の方が「そう思う」の回答割合が男性よりも大きくなっています。先ほどの「仕事は収入を得るためのものであって、それ以外の何ものでもない」という意見についての集計結果とあわせて解釈すると、女性の方が男性と比べると仕事に金銭的報酬以外のもの(たとえば、やりがいなどが考えられるかもしれません)を求めている可能性があります。
仕事をするうえで重要なこと
調査ではほかにも、仕事をするうえで以下の事柄がどの程度重要であるかを尋ねています。お仕事の有無にかかわらず、「非常に重要である」「重要である」「どちらともいえない」「重要ではない」「まったく重要ではない」「わからない」のなかから1つをそれぞれについて選んでもらいました。ここでは「わからない」を除き、「非常に重要である」を5点、「まったく重要ではない」を1点とするスコアとして集計をおこないました。男性の平均値について、高いものから順番に左から並べています。グラフ中の垂直線は平均値の95%信頼区間で、男女のあいだで垂直線に重なりがなければ平均値に男女差があると判断できます。
平均点が3(どちらともいえない)を明らかに超えているのは「おもしろいこと」「収入が多いこと」「失業の心配がないこと」で、これらの事項を男女問わず多くの人が重視していると読み取れます。その他の項目については平均点が3点台で、人により評価が若干異なる傾向を示しています。
女性については、「自分で働く日や時間を決められること」の平均点が男性よりも高く、女性のなかでは4番目に高い項目でした。いわゆるワーク・ライフ・バランスを重視する方が女性でより多い傾向にあると解釈できます。
その他、男女差がみられるのは「人と接する機会があること」(女性の方が平均点が高い)、「昇進の可能性が高いこと」(男性の方が平均点が高い)でした。仕事のどのような側面を重視しているのかについて、ジェンダー差がみられるといえます。
高い収入を得るのに役立つと思う能力・技能(スキル)
回答者ご自身がどう思うかに関わらず、以下のグラフに示される能力やスキルがより高い給与・報酬を得る上で役に立つと思うかについても尋ねました。先ほどの集計と同様の手続きで、「役に立つ」の4点から「役に立たない」の1点からなる得点を作成し、男女別に各項目の平均点を集計しました。
いずれの項目の平均点も3点(どちらかといえば役に立つ)を超えています。男女問わず今回尋ねた能力、スキルについては収入を得る上で役に立つという認識があるようです。
一方、全体としては高く評価されるそれぞれの能力、スキルのあいだでも、より高く評価されると回答者が考えているものがあるようです。その上位が「コミュニケーション能力・説得力」「課題解決スキル(分析・思考・創造力等)」「チームワーク、協調性、周囲との協働力」「マネジメント能力・リーダーシップ」です。これらは数値化、可視化が難しいと考えられますが、そのような能力、スキルが高収入と結びつくのではないかと多くの人が考えているといえます。
以上の項目と比べると、より具体的な能力、スキルは、あくまで相対的にではありますが低く評価されているようです。他方、男女差の観点でみると、上位の項目の男女差は顕著ではありませんが、相対的下位の項目については女性の方が男性よりも高い平均点を示す傾向があるようです。すなわち、具体的な能力、スキルが高い収入に結び付くと女性の方が考えやすいことを意味しています。高収入とスキルの対応関係の認識について、ジェンダー差があるといえるかもしれません。
キャリア形成に対する考え方(1)
今回の調査のさいごに、キャリア形成に対する回答者のみなさまのお考えについてもうかがいました。「あなたは、自分自身の職業キャリアに対する以下の考え方のうち、どちらに近いですか」という質問で、(A)自分で職業キャリアについて考え、計画を立てたい、(B)職業キャリアについては、会社に提示してほしい、の2つについて、AとBのいずれに近いかを選んでもらいました。以下のグラフはその回答分布です。男女、出生年区分別に示しています。
性別、出生年区分を問わず、全体として「自分で職業キャリアについて考え、計画を立てたい」という考えに近い方が多いようです。「Aに近い」「どちらかといえばAに近い」を合わせると約60%です。出生年区分(年齢層)のあいだでは明確な差がみられませんでした。男女のあいだでは、男性の方が相対的に「自分で職業キャリアについて考え、計画を立てたい」と考えやすいようです。
キャリア形成に対する考え方(2)
キャリア形成に対する質問のうち、ここではもう一つ、転職に対する意識の集計結果をご紹介します。「転職については、さまざまな考え方があります。以下のなかから、あなたのお考えにもっとも近いものを1つ選んでください。」という質問で、(1)つらくても転職せず、一生一つの職場で働き続けるべきである、(2)職場に強い不満があれば、転職することもやむをえない、(3)職場に不満があれば、転職する方がよい、(4)不満がなくても、自分の才能を生かすためには、積極的に転職する方がよい、(5)わからない、の選択肢のなかから一つを選んでもらいました。以下のグラフはその回答分布です。先ほどのグラフと同様、男女、出生年区分別に結果を示しています。
回答の分布は性別、出生年区分のあいだでは大きく異なっておらず、20代後半から30代の人々のあいだで類似しているといえます。「つらくても転職せず、一生一つの職場で働き続けるべきである」を選んだ方の割合は数%でした。回答の分布は転職には相対的に否定的な「職場に強い不満があれば、転職することもやむをえない」、相対的には肯定的な「職場に不満があれば、転職する方がよい」でおおよそ二分されており、次いで「不満がなくても、自分の才能を生かすためには、積極的に転職する方がよい」の割合が大きいという順番でした。
以上の結果は基本的な集計結果で、どのような属性、考え方を持つ場合、どのようなキャリア意識や行動と関連するのかについては、この調査速報では紹介しきれていない他の情報を考慮して詳細に検証する必要があります。今後、回答者のみなさまから寄せられた貴重なデータを活用しながら、現在の日本社会での転職、キャリア形成の機会のありように関する分析を進めてまいります。主として学術研究の成果を発信してまいりますが、結果をわかりやすくまとめた内容の公開もおこなってゆきたいと思います。ぜひ、今後とも本プロジェクトへのご関心をお持ちいただけますと幸いです。