この研究プロジェクトでは、日本国外で働く若年・壮年日本人の方々が、どのような働き方やキャリアを経験していらっしゃるか、そしてご自身の生活や将来についてどのようなことをお考えなのかを、社会調査を通じて明らかにすることを目的としています。研究には計量的手法とフィールド・インタビューの両方を用いて、日本国外でのキャリアが個人、また社会にとってどのように位置づけられているのかを総合的に明らかにしてゆきます。
研究目的の主旨にもとづき、わたくしどもはこのプロジェクトをADIOS-J (Advancing Dreams in Overseas Societies among Japanese Expatriate Workers)と名付けました。このプロジェクトが、少しでも多くの方にご関心を持っていただければ望外の喜びです。
なお、この研究プロジェクトは日本学術振興会・科学研究費補助金の助成を受けています(JP18H00922)。
【日本国外で生活する人口規模の推移】
このグラフは男性、女性の日本人それぞれについて、日本国外で生活する人々の数を示したものです。左側の軸は「男性全体」と「女性全体」の折れ線グラフが示している人数を意味しています。右側の軸は、男性、女性全体のなかで、4つの地域区分が占めている割合を意味しています。
このグラフからは、こんにちに至るまで海外で生活する日本人の数の増加傾向が読み取れます。日本国内の人口と比較すると大きいとはいえないものの、日本国外で生活する人々の相対的な規模は増えつつあると見ても大きな間違いではないでしょう。
このグラフに含まれる人々はさまざまです。北米や西欧では留学生が多く、オセアニアではオーストラリアでワーキングホリデー制度を利用して働く若年日本人が多いといえます。また、早期退職をしてセカンド・ライフを海外で過ごそうとする中高年層の日本人の方も増えています。日本の企業から派遣されて現地企業で「駐在員」として働く人々も代表的な集団でしょう。
【「現地採用」という働き方への注目】
この研究プロジェクトでは、日本国外で生活する人々のなかでも、現地の企業に直接雇用されて働く方々に焦点を当てています。いわゆる「現地採用日本人」と呼ばれる人々です。日本企業の海外展開や日本国内の経済市場状況の双方の変化によって、現地採用という雇用形態が生まれ、拡大してきました。同時に、若年・壮年層を中心に海外でのキャリア経験を持ってみたい方、さまざまな事情から日本社会とは異なる環境で働いてみようとする方も生じてきました。
現地採用という働き方の量や質は、「何らかの理由」で日本人を雇用したい現地企業と、「何らかの理由」で海外就業を希望する日本人のあいだに存在する需給関係によって決まります。しかし、絶対的な規模の小ささもあり、その「何らかの理由」についての体系的な整理・理解はまだ十分ではありません。また、需給関係の結果として生じた現地採用というキャリアの経験が、その後の働き方にどのような影響を与えてゆくのかもよく分かっていません。そのため、このプロジェクトでは統計分析やインタビューの方法を駆使することで、現地採用という働き方を選択した経緯・過程と、その後のキャリア、そして生活やキャリアに関する意識に、できる限り迫ってゆきたいと考えています。
現地採用として働く人々のキャリアから、個人にとっての国際的な経験の位置づけと、その背景となる社会や労働市場の仕組みを明らかにすることが、このプロジェクトの最終目標です。個人の視点に立つ場合、現地採用という働き方がキャリアのステップアップにつながるのかどうか、ステップアップに必要な条件があるのか、そのようなポジティブな経験をどの程度の人々が持っているのか、などが具体的な問いです。
しかし、「ポジティブな経験」がポジティブであるのは、もちろん本人の努力も重要ですが、移住先社会あるいは日本社会の仕組みによるところが大きいといえます。企業や社会全体として、現地採用という働き方や国際経験を伴うキャリアに対して何を期待しているのか(いないのか)、それが反映される組織や仕事の仕組みがどのようになっているのかも、わたしたちが注目していることがらです。
海外での働き方と生活に関する調査
このプロジェクトでは、2020年1月、2021年1月から2月初旬、そして2022年2月の3回にわたり、海外で働く日本人就業者への追跡調査(パネル調査)を実施いたしました。以下のページで、各回の調査速報をご覧になれます。調査の基本設計については、第1波調査の結果をご覧ください。
【研究代表者】
石田 賢示(東京大学社会科学研究所 准教授)
【研究分担者(アルファベット順)】
有田 伸(東京大学社会科学研究所 教授)
元治 恵子(明星大学人文学部 教授)
香川 めい(大東文化大学社会学部 准教授)
【研究協力者(アルファベット順)】
永吉 希久子(東京大学社会科学研究所 准教授)
仲 修平(明治学院大学社会学部 准教授)
Thang, Leng-Leng(Associate Professor, National University of Singapore)