針刺しスライド

昆虫本体を貼り付ける台紙、あるいは交尾器などを封入するための針ざしプレパラートとして、セルロイド板やプラスチック板を使う人が少なくないようである。しかし、これらの使用は大きな問題である。時間の経過や防虫剤によって容易に変質し、場合によっては変形を伴う。これにより、将来的に標本の破損につながる可能性がある。

とりあえず、台紙として使用している人は今すぐに紙に切り替え、できれば古い標本お貼り直しも考えていただきたい。

台紙としての使用は紙に切り替えればよいが、問題は針刺しプレパラートとしての使用である。針ざしプレパラートとは、取り外した交尾器などのパーツを小さく切ったセルロイド板の上に滴下したカナダバスサムやユーパラル等の封入剤に封入し、そのセルロイド板を昆虫本体の標本の下に刺す方法である。これによって、乾燥標本同士を見比べるのと同じようにして、下からの透過光によって交尾器も簡便に詳しく比較することができる。通常のスライドグラスを用いた永久プレパラートも解剖したパーツの保存に適するが、本体と別々に保存する場合には管理が面倒であるうえ、個体同士の比較が上記のように簡単に行えない。よって針刺しプレパラートの利便性はどうにも捨てがたい。

そこでセルロイド板に代わる素材を用いた、新たな針ざしプレパラートの方法を紹介したい。まず用意するものは10 mm × 5 mm × 0.3 mm (厚さ)のガラス板である。これはカバーガラスとしてガラス器具メーカーに注文することができる。また、昆虫文献「六本脚」でも販売している。この大きさは3~5 mmの甲虫にはちょうどよいものであるが、基本的に自由に注文できるので、専門の甲虫の大きさによって各自で検討されたい。次に、ガラス板と同じ幅の5 mm × 5 mmの厚紙である。しっかりとしたものが必要であり、市販の四角台紙の10 mm × 5 mmのものを半分に切るとちょうど良い。ガラス板の一部をニカワもしくは木工ボンドを用いて厚紙に貼り付ければ、針刺しプレパラートの材料の完成である。厚紙の部分に針に刺し、セルロイド板と同様に、ガラス板上に封入剤を滴下すればよい(図)。

この方法を用いて論文を書かれる場合には、以下の論文を引用していただきたい。私が考案した後、多くの人が使っているにもかかわらず、ほとんど引用する方がおられないのは残念なことであり、問題でもある。なかには恰も自分が考案したかのように書かれる人もいる。 別刷りはいつでもお送りするので、お問い合わせいただきたい。

Maruyama, M., 2004. A permanent slide under a specimen. Elytra, 32(2): 276.