丸山式FIT

 

近年FIT(flight interception trap)という採集法が一つのブームとなっている。とくに甲虫の採集に効果的で、この方法によって新種やいままで数頭しか採集されたことのない珍品が数多く採集されている。FITに関していままでに数多くデザインが考案されている。しかし、いずれも何かしらの欠点を抱え、満足のいくものはなかった。試行錯誤の結果、多くの欠点を解消した新しいFITを考案した。以下にその作成方法と使用方法について紹介したい。

 

 

用意するもの

FITの本体: A3クリアホルダー2枚、中大型のホチキス、長い竹串(27~30cmくらい)、洋ラン線(70cm)、結束バンド(10cm、6個以上)※

FITの受け皿: 全国の青果市場の付近や東京合羽橋などで売っているフルーツパック(イチゴパックの大型のもの、20cmX15cmX5cm程度の大きさ。)を3個※※

受け皿に入れる液: 3~5%酢酸水溶液+洗剤2ml (1基あたり500-700mlの場合)※※※

回収道具: ペン立ての下に穴を開けたもの、ダシパック(不織布でできたもの)、洗濯バサミ、50ccのチューブ(80%のエタノールを入れておく)※

 

※A3クリアホルダー、長い竹串、洋ラン線、結束バンド、ペン立て、ダシパックなどはすべて百円ショップ(ダイソーがおすすめ)で入手可。

※※フルーツパックは全国の青果市場のそばに包装店があり、そこで入手できる。東京であれば、浅草の「本間商店」(台東区西浅草2-6-5; 03-3844-5124)で購入できる。型番:5598フルーツ25 もしくは 5524フルーツ27。

※※※酢酸は、カメラの大形量販店で市販されている写真現像に使用するものが容易に入手できるので、それを適宜薄めて使用する。受け皿に入れる液には、他にもいくつかの候補が考えられるが、酢酸がもっとも状態良く保存できる。ソルビン酸は腐敗がはげしく、プロピレングリコールやエチレングリコールは虫体が硬化する。5%酢酸であれば、7日程度が交換の目安。雨が入って薄まっても、1%程度の濃度があれば、虫が腐敗することはほとんどない。

 

 

作り方

1) ペーパーナイフなどを使い、クリアホルダーを2枚とも開く(接着部をはがす)。1枚(屋根部分)は縦に折り、もう1枚(壁部分)はそのままにしておく。

2) 屋根部分に壁部分の長辺をしっかりと挟み、屋根の背の部分をホチキス(3号以上の大きさ)で3ヵ所ほど止める。

3) 屋根部分の上縁中心から10cm下、壁部分の上縁中心から4cm下に小さな穴を開ける。

4) 壁部分に竹串を通し、続いて屋根部分に内側から差し込むと屋根が開く。

5) 本体の短辺にパンチで等間隔で3ヵ所以上穴をあける(上縁は屋根ごと)。それぞれの穴に結束バンドを通し、リングを作っておく。

6) 洋ラン線の先端1ヶ所をペンチで丸めておき、その際、リングが通る程度の穴をあけておく。

7) 上のリングから洋ラン線を通し、丸めた部分に上部のリングを通せば本体の完成である

 

 

設置方法

1) 地面の平らな場所を選び、洋ラン線の下を持って地面に差し込む。この際、最大限地面と垂直にする。

2) FITの下の地面、受け皿を置くところをクワなどで均す。

3) 受け皿に保存液を流し込む。深さは3~5mm程度で充分。

4) 泥ハネを防ぐため、受け皿の周囲に大きな葉を置く。

 

FITを設置したところ。

 

受け皿に落ちた昆虫。

 

 

回収方法

1) ダシパックを洗濯場バサミでペン立てに固定する。

2) 沈殿しないようにパックを揺らしながら、中身をダシパックのなかに流し込む。

 

受け皿の中身を回収。

 

3) パックをペン立てから取り出し、少し置いて水を切る。

 

回収品の水を切る。

 

4) それを筒状にまるめ、チューブのなかに入れる。

 

パックごと丸めて50ccのチューブへ。

 5) チューブのなかにデータを入れる。

このFITの利点

最も簡易な屋根付FIT。=屋根があることにより、雨水やゴミの落下が無く、標本の保存性とソーティングの容易性が向上し、さらに、ハエやハチなどの飛翔力の高い昆虫の採集が可能。

設置が楽で自立式。=紐を用いて木の間に張る方法に比べ場所を選ばず、数分で設置できる。

作成が容易で安価。=約2分、実費100~300円。

軽く、持ち運びに便利。=公共機関を使った旅行に最適。

 

また、意外に頑丈で、バケツをひっくり返したような豪雨(インドネシア)や木がなぎ倒されるような強風(マレー半島)にも耐えた。さすがに強風下では洋ラン線が曲がったが、この柔軟性が強風による破損紛失を防いだようである。

 

なお、このFITにも少しは改良の余地があり、使いやすいように適宜改良を加えて使用することを勧める。目下の問題は洋ラン線に腰がなく、地面に刺す際に曲がることがあることである。同等に軽く安価な別の素材があれば、ご教示いただければ幸いである。

謝辞

 

堀繁久さん(北海道開拓記念館)と菅谷洋さん(北海道大学)にはFIT改良に関していくつかのアイデアを頂いた。中原直子さんには作成法の線画をお描きいただいた。この場を借りてお礼申し上げます。

 

この方法を使用して論文を書く際には、以下の論文を引用のこと:

丸山宗利 2003. 好蟻性・好白蟻性甲虫の採集法. 昆虫と自然 38(9): 43-47.

 

作成法の図↓