子供の矯正

こども(小児期)の不正咬合

不正咬合とは、上下の歯が適切に咬み合っていない状態をいいます。これには、上顎(あご)と下顎の位置がずれている骨格性のもの、歯と顎の大きさのバランスが悪いことによって歯ならびが凸凹になったり、すきまが生じる歯性のもの、またそれらが合わさったものなどさまざまな種類があります。舌や口の周りの軟組織(皮膚・筋肉・小帯など)も歯ならびに影響し、不正咬合を生じさせる原因となることがあります。

永久歯の反対咬合の場合は、早期の治療による改善が望まれます。これは、前歯の関係を正常にすることで、上顎と下顎の調和がとれるためです。ただ、歯の傾きだけの問題、顎の大きさの問題、その複合など原因はさまざまで、それにより治療の方法も異なってきます。また、下顎の成長が終わる時期(高校生位)まで治療が継続する場合もあります。特にあごの著しい過成長・劣成長が起きる場合(顎変形症)には、外科手術が必要となることもあります。

歯並びの治療として、上顎の成長を抑制したり、下顎の成長を促進する装置を用いて骨格的な不正を改善していくことを行います。歯ならびが悪いということは、肉体的なものばかりでなく、しばしば精神的にも負担となります。むし歯・歯槽膿漏・外傷(前歯が出ているお子さんでは歯をぶつける頻度が高い)および顔の歪みの誘因となったり、食物をよく咬むことが出来ず消化器官に負担がかかる、正しく発音しにくいことなどが考えられます。また特に見た目を意識した場合は社交性が乏しくなることがあります。

こどもの矯正歯科治療は、上記問題を生じさせないよう早期発見・早期改善・成長の管理と予防を行うことでお子さんの健全な発育を促します。

不正咬合の種類

叢生(八重歯、乱杭歯)

前歯が生えかわり始める7、8歳で前歯の凸凹(叢生)に気付きます。習癖などがなく、叢生の程度が軽いと判断されるものは、大概、永久歯と乳歯が完全に生え変わった後に治療を開始することが多いでしょう。しかし、歯の重なりやねじれが大きな場合では、前歯4本程度が生え変わった時期に、前歯から歯を並べる(第一期矯正治療)治療を行うのが良いでしょう。叢生を改善するためには永久歯を抜かなければならない可能性もあります。歯の生え変わりの時期は個人差がかなり大きいため、矯正歯科治療の開始年齢はその方によって異なってきます。

反対咬合(うけ口、下顎前突)

お子さんの反対咬合が最初にはっきりしてくるのは大体2~3歳くらいで、3歳児検診のときに指摘を受けることがあります。ただし、乳児の段階で反対咬合でも永久歯は反対にならない場合もあります。

上顎前突(出っ歯)

上顎の前歯4本が乳歯から永久歯に生え変わった頃にはっきりわかってきます。もし顎の骨の大きさに問題がある場合は、この段階で矯正歯科治療を開始することが多いでしょう。

開咬

咬んだ状態でも上下の前歯が咬み合わないような場合を開咬と言います。原因は、指しゃぶり、舌の癖のほか顎の形や大きさに問題がある場合など様々です。もし、指しゃぶりなど何らかの癖がある場合にはできるかぎり早期に改善することが望ましいと考えられています。また、骨格の問題が内在している場合は、成長に伴って徐々に現れ段々と咬み合わせが悪くなる場合がありますので成長が終了するまでは咬み合わせの観察を続けることが大事になります。

治療目的

小児期の矯正歯科治療は、比較的簡単な装置を用い、

ことを主な目的として矯正歯科治療を開始します。

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治療方法

乳歯列(~7歳くらい)では、不正咬合の予防を目的とし原因となる悪い習癖を除去し、正常な機能の回復を図ります。乳歯から永久歯への生え代わりの時期(混合歯列期、8歳~12歳くらい)では、顎の成長が旺盛な時期なので、今後の成長を予測し、必要に応じて顎の成長抑制や成長促進を行います。口腔内では、比較的簡単な装置を用いて歯列弓(しれつきゅう)の形を整えたり、上下の前歯と6歳臼歯(きゅうし)(第一大臼歯)の良好な咬み合わせを確立することを目的とします。

矯正歯科治療をうけるためには毎日通ってくる必要はありませんが、4~8週間に1度の割合で定期的に通院していただきます。永久歯の生えてくるのを観察したり、適切な治療開始時期まで待つ必要がある場合には、3か月に1度あるいは半年に1度位の通院間隔をあけることもあります。

第1期矯正治療は、おおよそ12歳くらいから始まる第2期矯正治療のための準備として、この時期にしか行えない治療です。したがって、必要な時期に必要な治療を、できるかぎり短期間・単純な装置で行ない、患者であるお子さんの負担、ご家族の負担を減らし、最大の効果をあげることが大切です。

診査・診断の結果、お子さんの第1期矯正治療がほとんど必要がない、もしくは口の中の管理をしながら永久歯が生えそろうまで矯正装置を使わずに待つということもあります。根拠のない、必要のない、無駄な矯正装置の装着や治療は、当然避けるべきで、そのためには、最初の相談・診断をしっかり行い将来の予測を含め治療計画を的確に立案することが重要です。

治療の効果

この時期に矯正歯科治療を行なうことにより、部分的に歯並びが良くなります。一般的には奥歯の咬み合わせや前歯の歯並びがこれに相当し、虫歯・歯周病にかかりにくくなる、顎の発育が良くなる、しゃべりやすくなる、美的改善により心理的負担が小さくなるなどの効果が期待できます。顎の骨の成長をコントロールすると、上下の顎のバランスが良くなります。また、永久歯の正常な萌出を誘導することにより、永久歯がそろってからの本格的な矯正歯科治療が容易で期間も短くなります。

治療中の行動制限

一般には矯正歯科治療開始後の行動制限は特にありませんが、顔面に強い力を受ける可能性があるスポーツを行う場合には事前にご相談下さい。取り外しの出来る装置を用いる場合、水泳などにも注意が必要です。また、楽器演奏などに影響の出る場合があります。

矯正装置の装着中、楽器演奏などに影響の出る場合があります。トランペットやホルンのように唇にマウスピースを押しつけるタイプの楽器は、固定式の表側の矯正装置がついていると、唇が装置と楽器にはさまれて痛みを感じることがあります。ガードをつけること、裏側矯正を選ぶことやインビザラインのような取り外しが可能なタイプの矯正装置を選択することも対策のひとつですが、お子さんの装置をつけ始めた時期と楽器を始める時期が重なり、どちらにも慣れていないことが一番の原因と考えられるため、解決の近道は少しづつ慣れていただくことかもしれません。 

矯正装置は、矯正治療終了後きれいに取り除くことが出来る方法で歯に取り付けています。従って、装置が壊れるような食事のとり方や食べ物の種類についてはお気をつけ下さい。固いものを食べる際は、少し細かくする、軟らかくするなど工夫されるのが良いでしょう。

 

◎注意が必要な食べ物

粘着性のある食べ物: おもち・ チューインガム・ べたべたした飴・ キャラメル

固い食物: せんべい・ あられ・ 肉のかたまり・ りんごやかきの丸かじり・

アイスキャンディー・ ドロップ ・ 大きな氷・ 飴など

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 小児によくみられる不正咬合

前歯の隙間

前歯の間が大きく開いている方がいます。お子さんの永久歯が生えてきてしばらくして気が付くケースが多く、よく相談されます。また、かかりつけの歯医者で指摘されて初めて気が付いた、と言うのもよくあります。考えなければならないのは、お子さんの場合、歯の生え変わり初期にみられる特有の状態として一時的に2本の前歯の間が開いて生えてくることがあり(この場合は隣の歯が生えてくると自然に隙間が無くなっていきます)、今がその状態の場合は問題がありません。しかし、前歯の生える位置・方向の異常、小さいなど形の異常、真ん中に過剰な歯が存在するなどの不正、爪や鉛筆を噛むなどの癖、そして上唇小帯の強直症などは問題です。

今回は、上唇小帯の付着についての話

上唇小帯の付着は、出生直後は歯に近い所にありますが、成長に伴い次第に細くなり上方に移動します。しかし、そのまま高位に残存し前歯の間に強く付着している場合には正中離開つまり前歯の隙間の原因となります。

治療は、発育に伴って上唇小帯の付着位置は移動するため前歯に正中離開が存在していたとしても自然に消失することが多く、犬歯が萌出する時期までは経過観察を行います。しかし、それ以降小帯の高位付着と正中離開が残存する場合には小帯を切除します。正中離開に関しては、必要に応じて矯正歯科治療により歯の空隙閉鎖を行います。

(時に、付着が強くないのにもかかわらず前歯に空隙があることで小帯を切除した方が良いとすすめられる場合があるようですので、高位付着の典型例を載せておきます。)

院長ブログより引用

小帯の異常

〔定義・概念〕

口腔内の小帯には、口唇小帯(上唇・下唇小帯) 、頬小帯および舌小帯があります。小帯の異常は、位置異常、肥厚、過短症あるいは強直症がみられます。

1)口唇小帯の異常

上唇小帯強直症が多く認められます。上唇小帯の歯槽部への付着は、出生直後は歯槽頂付近にありますが、成長に伴い次第に細くなり上方に移動します。しかし、高位に残存し切歯乳頭部に強く付着している場合には正中離開を引き起こします。また、発音障害やブラッシングを困難にすることもあります。発生頻度は、1.5歳で27.3%にみられますが35歳頃には5.9%程度になるようです。

〔治 療〕

治療は、歯槽骨の発育に伴って上唇小帯の付着位置は上方へ移動するため前歯部に正中離開が存在していたとしても自然に消失することが多く、犬歯が萌出する時期までは経過観察を行います。しかし、それ以降小帯の高位付着と正中離開が残存する場合には小帯を切除します。正中離開に関しては、必要に応じて矯正歯科治療により歯の空隙閉鎖を行います。一方、下唇小帯の異常は稀で、治療としては歯間部の小帯を切除します。

2)頬小帯の異常

頬小帯が、小臼歯部において高位に付着していることがあります。上顎より下顎に多く認められ、小臼歯の萌出障害、位置異常、歯間離開、歯周疾患の誘発また義歯装着の障害を引き起こします。

〔治 療〕

治療は、頬小帯の切除または伸展術を行います。

3)舌小帯の異常

舌小帯は、舌下面と下顎正中部歯槽骨に付着しそれらを連結しています。舌小帯が短いことにより舌の運動が制限されるものを舌小帯過短症といいます。一方、舌が口腔底に癒着しているものを舌強直症といいます。舌運動障害のほか、構音障害(サ、タ、ラ行など)、哺乳障害、咀嚼・嚥下障害をきたすことがあります。舌を前方に突出させると、舌尖部がハート形にくびれます。発生頻度は14歳以下では1%、口唇口蓋裂患者では5.3%にみられます。

〔治 療〕

治療は、成長に伴って舌小帯は伸展しやすくなるため経過観察を行うが障害の著しい場合は小帯の切除、もしくは伸展術を行います。また、舌小帯の著しい異常は不正咬合の原因ともなるため矯正歯科治療を必要とする場合もあります。

唇小帯の高位付着による正中離開

舌小帯の短縮と舌突出時にみられる舌尖部の陥凹

 〔文 献〕

古郷幹彦:口と歯の辞典, 第1版(高戸毅ら編集), pp219-221, 朝倉書店, 東京, 2008

山岡稔:ハンディ口腔外科学, 第1版(新藤潤一編集), pp58-60, 学建書院, 東京, 1997.

Lauren MS, Randolph S, et al:Prevalence, diagnosis, and treatment of ankyloglossia. Can Fam Physician,53: 1027-1033,2007.

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