小安峡大噴湯では谷底で噴出する温泉中に多様な好熱性細菌・古細菌が生息し、岩壁にカジカガエルやタヌキランが見られます。大湯温泉には泥火山があり秋田県ではここにしかいない熱帯・亜熱帯性のシダ植物 ミズスギを観察できます。田代沼には浮島を作るミツガシワや浮葉植物のオゼコウホネ、女滝沢森林浴歩道にはブナ・ミズナラ・トチノキ・ヤチダモなどの巨木、近くの秣岳にはアオモリトドマツやハイマツの種子を食べてそれらを分散するホシガラスが生息しています。
カジカガエルは清流の歌姫と呼ばれるカエルで温泉生物の一つです。オタマジャクシが小安峡大噴湯、川原の湯っこ、大湯温泉など川の近くの温泉地で多く見られ35℃程度のところに集中します。38.6℃まで耐えることができます。Thermoleptolyngbyaという糸状性の温泉藍藻が良く見られる場所に生息していますが、その温泉藻をあまり食べず、Cyanobacterium aponinumという単細胞藍藻をよく食べているようです。
タヌキラン (Carex podogyna) は小安峡大噴湯など湯沢市内の幅広い場所に生息しています。それに対して、近縁種のヤマタヌキラン (Carex angustisquama) は生き物にとって適さない川原毛地獄などの環境にのみ生息しています。まるでヤマタヌキランはタヌキランにすみかを追いやられたようです。
小安峡大噴湯に生息するタヌキラン
川原毛地獄に生息するヤマタヌキラン
不動滝の上部。かつて湧出した温泉中のシリカの影響により周辺の岩石が固くなって川に削られずに残り、削られた場所とそうでない場所とで段差が生まれ、滝となりました。
小安峡温泉にはケイ酸塩鉱物を形成するとされるThermocrinis 属 (Aquificales※) などの超好熱性細菌が見つかっています。これらの生物は50℃以上の高い水温で成長します。DNAがスーパーコイルというねじれた輪ゴム状となっており、水素結合で結ばれた二本鎖が熱により離れない構造になっているようです。
※過飽和シリカ (鉄欠乏状態) でのみ、シリカ誘導性タンパク質が発現します。シリカスケールは人の生活にとり馴染み深い物質で温泉だけでなく地熱発電所でも発生します。発電量に大きな悪影響を与えるため、熱水のpHをアルカリにしてシリカの溶解度を高めたり熱水を希釈したりして、シリカが過飽和にならぬよう対策しています。
冬の積雪時でも生き物を見ることができます。セッケイカワゲラは、雪の上を歩き回り雪氷藻類を食べて繁殖する生物です。雪氷藻類はセッケイカワゲラのほかノウサギも摂食しているようです。
小安峡大噴湯の皆瀬川は冬も含め四季を通してエメラルドグリーンのような美しい色をしています。これは川の水の透明度が高いことや、河底に生息している珪藻 (珪酸を含む細胞膜を持つ藻類) が関係しています。大噴湯は皆瀬川の珪藻が成長する上で必要な、珪酸を多く含む温泉を供給しています。
小安峡 (秋)
小安峡 (冬)
温泉熱を利用するのは好熱性細菌・古細菌やカジカガエル、藻類、ミズスギに限った話ではありません。
この地域では温泉熱を活用した産業が進んでおり、温泉旅館のほか、乾燥野菜やドライフルーツといった農産加工所があります。
温泉熱のもととなる熱源はいずれも約23万年前に噴火したとされる高松岳の残存エネルギーです。
温泉熱が豊富な地域ですが、夏場の暑い日には、カモシカといった野生生物が風穴を利用して涼むことがあります。
小安峡温泉の旅館は、栗駒山やシラタマノキ湿原へ行く際の宿泊施設としてもオススメです。
とことん山は自然散策に便利なキャンプ場です。露天風呂付きで雪中キャンプも体験できます。
案内所では足湯も楽しめます。裏に不動滝、国道を挟んで向かい側に女滝沢森林浴歩道があります。