レジストリーからの報告

WAGR症候群についての最新の論文です
・IWSA Patient Registryのデータを基にまとめられた論文です

・WAGR症候群に関係する多彩な関連疾患について、病気とその頻度がまとめられています
・レジストリのデータをもとに、WAGR症候群の患者さんのケアマネジメントモデルが示されています


「Results from the WAGR Syndrome Patient Registry: Characterization of WAGR Spectrum and Recommendations for Care Management」

-Frontiers in Pediatrics, December 2021

こちら (IWSAのウエブサイトにとびます。オレンジ色の「ACCESS FULL ARTICLE」ボタンを押すとダウンロードできます(英語)

著作権などの問題から、全文訳を掲載することはできませんので、要点と大切だと思う点を列記します

今回の文献では特に、腎機能障害についてと、メタボリックシンドローム(肥満、高血圧、脂質異常症、耐糖能異常など)に気をつけることが重要だということが強調されていました。

①腎機能障害について

・ウィルムス腫瘍の治療歴がある、特に腎摘出術を受けていると、重症なCKDになるリスクが高くなることはこれまでにも言われていましたが、ウィルムス腫瘍やNephrogenic Restの既往がない患者さんでも腎機能障害を発症していて、その場合はメタボリック症候群(肥満、高血圧、脂質異常症、耐糖能異常)を持っている割合が高い。メタボがあるほど、リスクや重症度が悪くなる

・腎臓や尿路の奇形があると尿路感染症になりやすい場合があり、尿路感染を繰り返すことも腎機能に悪影響を及ぼすことがあるので、症状がなくても尿検査などでモニタリングして、早期に介入したほうが良い。

②肥満について

・肥満の罹患率は高い

・今回の調査では、BDNF遺伝子欠失があると、10歳までに100%の確率で肥満を発症していた。一方で、もっと年長になってから肥満になる場合もあり、小さい時に肥満ではないからといって将来肥満のリスクがないわけではない。

・知的障害や過食があると、食事の管理が難しく、行動療法のカウンセラーが役に立つ。

・過食症や暴飲暴食は、見られていないときに隠れて食べることも多いので、親の見守りが必要。食事日記を使うときは、親が気づかないうちに食べ物を探して食べている場合があるので、正確に記載できているか要注意。

・食べてしまう原因は、満腹感に気づかないようだ。

これまであまり言われていなかったこととして、

③聴覚の問題をもっている患者が15%程度見られていて、耳の感染症を繰り返すことが、聴覚の異常に影響しているかもしれないとのことです。WAGRでは視覚障害があるので、聴覚を維持することはQOLのために大切です。耳の感染症や聴覚に影響を与えるようなことには適切な治療をしながら、聞こえ方の状態に注意しておくことが大切です。

④女性の卵巣や子宮の異常が、これまで言われてきたよりも実際は多い可能性があります。卵巣などの生殖器は小さい時は見えづらいので、思春期頃になったら定期的に骨盤内臓器の画像検査(エコーやMRI)をするとよいでしょう。

④WAGRの「R」について、具体的な内容や頻度が示されていました。特に、言語障害やコミュニケーションの問題が多いことに言及されていました。

⑤ウィルムス腫瘍のフォローについて、新しい提案がありました。

・ウィルムス腫瘍(WT)のリスクがある期間についてはまだわからないことも多いので、8歳を超えてもスクリーニングをすることがすすめられる。特に、Nephrogenic Rest(NR)があると、より長い期間WTの発症リスクがあるというデータがあるので、WTやNRの既往がある患者さんでは、特に長く検査を続ける必要がある。

・より詳しいことがわかるまでは、腎エコー検査をする間隔は次のようなものが考えられる

・3か月毎:8歳まではウィルムス腫瘍のスクリーニングのために必要(最低限の間隔)

     患者に先天性の腎尿路異常、尿路感染、最近診断されたウィルムス腫瘍(またはその疑い)がある場合は、より頻回に検査することも考慮される。

 ・6か月毎:8-18歳の間は6か月毎に検査する(最近の尿路感染症がなく、腎臓の状態が落ち着いていて、ウィルムス腫瘍の既往がない場合など)

     もし異常があったり画像検査で異常が見つかっている場合は、状態をモニターするために、3か月毎に間隔を変えることを考慮する。

 ・1年ごと:18歳以上の患者では、慢性腎臓病のスクリーニングのために必要(臨床状態や小児期のスクリーニング、メタボの状態が落ち着いている患者での、最低限の腎エコー検査の間隔)

    異常があったり画像検査で異常が見つかっている場合は、状態を観察するために、3-6か月ごとに間隔を変えることを考慮する。

最後に、健康を長く維持するには、定期的な腎臓の検査とメタボリックシンドロームの管理に注意しておくことが大切だということでした