女性の生殖器奇形と性腺芽細胞腫

このページの内容は、IWSAのウェブサイトリニューアルに伴い、現在原文をみることはできません。リニューアル前に許可を得て翻訳・転載したものです。
元の記事はパワーポイントで作成されたスライドなので、文面がわかりにくく説明の足りないところがあります。
Translated by Madoka Hasegawa/ September 2015

WAGR症候群の女性における生殖器奇形と性腺芽細胞腫
Carol Clericuzio, MD (1) and Kelly Trout, RN (2)
1)UNIM Pediatrics, Albuquerque, NM (2)IWSA – formerly The WAGR Network

WAGR症候群
・染色体11p13遠位部の間質性欠失により生じる、隣接遺伝子小児がん症候群
・40%にウィルムス腫瘍が生じる:WT1遺伝子が11p13に局在する事の同定につながった
・(散発性)無虹彩:新生児期に容易に診断がつく
*全無虹彩のうち2/3は、PAX6遺伝子の突然変異/欠失による常染色体優先遺伝
・男性には、泌尿生殖器異常
・発育・発達の遅延

WAGRの表現型と細胞遺伝学
・この項は記事には複写されていない(元はパワーポイントで作られたスライドのようです(訳者注))。書かれていた内容は、無虹彩の目の写真、男性器、WT1遺伝子とPAX6遺伝子の間の距離が700kbであることが示されている染色体11番の絵。

WAGRにおける生殖器奇形/腫瘍
・XY染色体をもつ人において、様々な程度の外性器・内性器奇形がある。例えば、膣と子宮があるのでまるで女性のような曖昧な性器をもつものから、正常な男性まで幅広い。
・WT1遺伝子は男性の性腺と性器の発達を制御しているので、男性の生殖器異常は、1本のWT1アレル(対立遺伝子)が欠失していることによると仮定されている。
・男性型女性(XY female)の腹腔内に発症した性腺芽細胞腫が報告されている。
・性腺発育不全

WAGRのXX女性における、生殖器の発達と腫瘍はどうか?
・ほとんど知られていない―症例報告の中にいくつか散見する程度
・性腺芽細胞腫に関する文献は、XY femaleの症例が含まれているので解釈が難しい

WAGRである7人のXX女性における生殖器の発達と腫瘍
・女性には内性器奇形と(または)腫瘍が認められるということの認識を高め、その発生機序を示すために、これらを認めた7人の女性について記述した
・この7人とは、WAGRネットワークからの4症例と文献からの3症例
・WAGRネットワーク:全部で19人のXX女性のうち、10人に生殖器奇形があったが、詳細がわかるものはこの4例のみだった

WAGRの7人のXX女性 外性器は正常

WAGR症候群のXX女性7人
・7人中5人の生殖器は、矮小化/索状/ない
・7人中4人の子宮は、「ない」または、奇形を合併していた
・7人中1人に、良性の黄体嚢胞があった
・7人中1人に、早発性の両側性腺芽細胞腫があった
・思春期後の5人中2人に、生理不順があった
・7人中5人にウィルムス腫瘍が発症した
・卵巣機能不全を起こす可能性のある、放射線治療を受けた者はいなかった

WAGRを調べると、生殖器が、矮小化、索状および/または見つからない場合が多い:病因の仮説
・発達過程にある生殖隆起と胎児生殖腺には、WT1が多量に発現しているが、成熟した生殖器では、精巣のSertoli細胞、卵巣の顆粒膜細胞と上皮細胞にしか発現していない
・おそらくWT1のハプロ不全が、卵巣低形成や機能不全を引き起こすのだろう。

性腺芽細胞腫の病理
・性腺芽細胞腫とは、稀な卵巣腫瘍で、Sertoli細胞や顆粒膜細胞に似た性索要素と混合した、始原生殖細胞からなる。腫瘍細胞は、Leydig細胞やルテイン細胞を含んだ卵巣間質細胞に取り囲まれている。50%の症例で、未分化胚細胞腫に進展する胚細胞の過剰増殖がみられ、精巣における精上皮腫(セミノーマ)に相当する卵巣腫瘍である。

性腺芽細胞腫:X’s and Y’s
・性腺芽細胞腫は、Y染色体やY染色体の断片をもっていることに関連して発症した、性腺形成不全がある人に、とりわけ多く発症する。
・gonadoblastoma locus on the Y chromosome(GBY)というY染色体上の遺伝子が関与しているという考えもある。
・TSPYと呼ばれる遺伝子も候補の一つである。
・X染色体上にあるTSPY(testis-specific protein Y-encoded) homologue:これをTSPXとよび、細胞分裂の制御因子である。
・片側性腺芽細胞腫(核型決定された性腺ではない)のある、妊娠可能な(成人では妊娠した)XX女性の報告は10症例に満たない。

WAGRにおける性腺芽細胞腫
・1例を除くすべての症例は、両性的性器(仮性半陰陽)と腹腔内生殖器形成不全をもつXYの人であった
・月齢21カ月の症例は、麻疹後肺炎で死亡した―偶発例である
・両側性であることと幼少期に発症することが、性腺芽細胞腫になりやすい素因を示唆している
・WAGRの他のXX女性でみられるように、性腺は索状である。

WAGRのXX女性における性腺芽細胞腫:仮説
・WT1のハプロ不全が、矮小化卵巣だけでなく、索状卵巣も引き起こすと思われる
・おそらく、細胞周期制御において、WTハプロ不全がTSPXの機能障害を引き起こす、つまり(本来TSPXは生殖細胞の分裂を抑制的にコントロールするはずであるが(訳者注))性腺芽細胞腫に進展させるようなTSPY様の機能に変換させるような、TSPXとWT1の相互作用がおきる。

子宮奇形の発症機序:不明だが、ウィルムス腫瘍と関連がある Byrne & Nicholson(2002)
・ウィルムス腫瘍のある女児の10%未満が、子宮奇形ももっている
・2065人の女性を対象に骨盤超内音波検査を実施した調査では、250人に1人の頻度で子宮奇形が認められた。
・ウィルムス腫瘍のある女児は、子宮奇形をもつ可能性が22倍高いと結論付けられている。
・ごく少数、1人のウィルムス腫瘍患者のみがWAGRであった
・ウィルムス腫瘍のある全ての女児は、思春期以降に骨盤内超音波検査を受けることが推奨されている。

WAGRのXX女性に推奨される医療
・子宮奇形、索状生殖器、性腺芽細胞腫の発生リスクに基づいて、WAGRの女性は骨盤内超音波検査かMRIでスクリーニングを行う・索状生殖器が認められたら、性腺摘出術を考慮する
・生理不順がよくあるので、事前に知らせておく

生殖器発達におけるWT1の役割
・生殖器の発達におけるWT1の複雑な役割はまだまだ解明されておらず、性決定遺伝子であるSRYやsteroidogenic factor 1(SF1)を含む、いくつかのWT1の標的遺伝子も示されている。

謝辞
The WAGR network(IWSAの前身(訳者注)):www.WAGR.org
Catherine Luis and her daughter Irma.
Kelly Trout (co-author) and her daughter Caroline.