先生のためのアドバイスシート

IWSA Teacher Advice and Suggestions

WAGR症候群の生徒:教室での実践的アドバイス

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WAGR症候群の子どもたちの得意不得意や教育的なニーズには幅があります。ここには、WAGR症候群の生徒の困難を克服し助けになるような情報が記されています。

会話と言語、コミュニケーション

WAGR症候群の子どもたちは、言語発達遅延、聴覚情報処理障害や口腔機能の問題を持っていることがあります。
・短く具体的な指示をだしてください。大事なポイントだけを伝える短いフレーズや文章を使ってください。
・双方向の、非言語コミュニケーションができるよう、そしてフラストレーションを減らせるよう、ASLやマカトンのようなサインを用いたコミュニケーションを使ってください。サインと同時に言葉かけも必ずしてください。
・非言語的に選択したり要求できるように、マカトン、PECSや印刷物によるコミュニケーションのようなシンボルを使ってください
・生徒が好きなコミュニケーション手段を使えるよう許可してください
・総合的なコミュニケーション方法をとってください;言語的な手掛かり、文書、シンボル、写真、サイン、モデルなど。
言語聴覚士に相談すると、ASLやマカトンを使うにあたりとても助けになってくれるでしょう。

学習障害

WAGR症候群の子どもたちは、軽度・中等度あるいは重度の認知障害があります。認知障害がない人もいます。
・言葉の指示を理解し反応するためには、少なくとも10-20秒の時間を生徒に与えてください。
・可能な限り視覚的な手段、例えばやって見せるなどの方法をとってください
・課題は小さく分け、それぞれのステップを順に与えてください
・生徒にマルチタスクを期待しないでください。割り当てを終わらせるために余分に時間を与え、やり終えさせるようにしてください。次に進む前に一つのタスクをやり遂げさせることが大切です。
・生徒が求められていることが予想できるように、わかりやすいルーチーンを作ってください。
・生徒の集中を保ち、できたという満足をえられるように、短くて達成しうる活動を与えてください。
・般化できるようになるまで、新しいことは何度も、長い時間をかけて、繰り返し行えるよう機会を与えてください。
・様々な感覚を使ってください;文書を見サル、写真を使う、3Dモデル、実物、音、におい、肌触り、シンボル、サインなど。

視覚障害と羞明

WAGR症候群の子どもたちは無虹彩と呼ばれる、眼の虹彩(茶目の部分)の一部、あるいは完全にない状態にあります。ほとんどが著名な視覚障害と同時に、羞明、(特に外で)光への感受性が高まっている状態、つまりまぶしい状況にあります。

学校や教室では、最初の個人的なツアーをすることによって、生徒が初めての環境の位置関係を学ぶ援助をしてください。各場所を回りながら、それぞれの部屋や場所を言葉で説明し、その後数日間は続けてください。そして生徒がそれぞれの場所を覚えたと確信するまで続けてください。それぞれの場所でキーとなるもののところに生徒を連れて行ってください。例えば次のように声を掛けます「ここがロッカーで、あなたのロッカーはここです」「ここが手洗い場所です。ここに紙タオルと石鹸があります」

WAGR症候群の生徒は次のようなことが役に立ちます;
・教室の前のほうに席があると、意思表示がしやすく、先生がやっていることがわかりやすい
・全ての学習教材は色のコントラストをはっきりさせる
・拡大したプリントを使う
・マット素材(照り返しがない)のもので文書をラミネートする
・はっきりと、しかしながらぎらつきがない明りをつかう
・外の光やまぶしさをコントロールするために窓にはブラインドを使う
・スロープを使って眼の高さ・近くに調節して物を見せる
・遠くで起きていることは言葉を使って説明する
・質問や指示を出す前に、生徒の名前を呼ぶ
・外では防止とサングラスを使用する

学習教材がある場所を知るのには、わかりやすく方向を伝える言葉を使って示してやるための支援者が必要でしょう。例えば、「地図は、ドアの左の壁にあります」のように教えます。さらに、生徒の眼から欲しいものに向かって、注意が向くように指し示してやると、見てほしい場所、もの、人を生徒が見つけやすいでしょう。

生徒がものを視野にとらえる(固視する)まで、見てほしいものを視線上に保ってやると助けになります;生徒は、はっきりしたコントラストのものなら、ゆっくり動いているものでも目で追うことができます。注意をひくために音を出してやると、ものを見るきっかけの助けになるでしょう。

生徒は表情によるジェスチャーや身振り手振りは見えないかもしれません。褒めたり注意するときには、声にだして知らせてください。

拡大鏡、白杖、拡大文字キーボード、Braille note taker、Video magnifier、Voice over appのような支援機器や技術を使うよう可能な限り推奨してください。

オリエンテーション、移動、日常生活技術、支援技術、作業療法などに関して、最良の支援を得られるように、地域の視覚支援学校や、地域の学校に所属する視覚障害者支援員、歩行訓練の専門家に相談をしてください。

聴覚情報処理障害

WAGR症候群の子どもたちは、軽度・中等度から重度の聴覚情報処理障害をもっています。
・あなたが話をする時には、生徒の近くに立ち、生徒にあなたのことを見させるようにしてください。
・簡単で、1ステップずつの指示を出してください。
・少しゆっくりの速さで、少し大きめの声で話してください。
・あなたの指示を生徒に繰り返させ、(もし可能ならば)メモを取らせてください。
・もし家で完成させてくるべき課題があるならば、指示を書き留めさせておくべきです。
・ 生徒を教室の前の席に座らせ、集中しやすいよう気をそらすものから遠ざけるようにしてください。
・ 部屋の外の騒音を減らすために、ドアと窓を閉めて聞こえの状態をよくしてください。
・ 周囲の騒音や聞き取りづらさを減らすために、ワイヤレスFMシステムのような、音の増幅システムを使ってください。
・理解と記憶を強固にするために、画像やジェスチャーを使ってください。
・ テストをうけさせるときは、静かな部屋を用意してください。
・ 周囲の騒音をなくすために、個別の課題に取り組むときにはノイズキャンセルヘッドフォーンを装着することを許可してください。

運動機能障害

WAGR症候群の子どもたちは筋緊張が低すぎたり高すぎたりすることや、失行、固有角・前庭の機能障害があります。

粗大運動能力
・ 体幹の筋力を強化するような活動、抵抗運動に取り組んでください。例としては、ブランコ、ジャンプ、山登り、トランポリン、水泳などがあります。
・様々な姿勢を交互にとりながら課題に取り組むことを許してあげてください(うつ伏せに寝る姿勢、立つ姿勢、膝立ち、黒板やホワイトボードのような垂直面上で課題をするなど)。
・でこぼこした地面を歩く、ものをまたぐ、斜面をのぼりおりする、細い光線や地面に書いた太いチョークの線に沿って歩く、片足立ち、物に手を伸ばす、走る、トンネルや輪の中を通り抜ける、エアートラックでの運動を楽しむ、飛び跳ねる、ボールを蹴るなどの動きを生徒に取り組ませてください。

微細運動能力
・握りやすいようなグリップの筆記具を使用させてあげてください(例としては、太いもの、三角のもの、ペンなどです)
・様々な筆記具を使ってみさせてください(チョーク、絵筆、指や手に絵の具をつけて描くこと(フィンガーペイント)、クレヨン、鉛筆、フェルトペンなどがあります)
・いろんな画材を使い、様々な角度で書かせてみてください。黒板、ホワイトボード、イーゼル、書見台、ペーブメント(立体描画)など。
・書くことについては、タブレット・キーボードの使用を認めてあげてください。
・握りやすい補助はさみ(loop scissorなど)を使えるようにしてください。握るーはなすの動作をペグやトングを使ったゲームを使って練習してください。
・手の強さと巧緻性を養うために、様々な材料や器具を使ったゲームをしてください。例えば、ねんど、砂、水、料理、シェービングフォーム、梱包用のぷちぷち、ホイル、布、土、スポンジ、ビン、つぼ、ひしゃく・シャベル、カトラリー(スプーンやフォークなど)、ビーズ、ねじ巻きおもちゃ、ペグ差し、fuzzy feltなどがあります。

感覚統合障害

過敏:
・感覚を調整するための小部屋/感覚調整室(sensory room)/テントに、自発的に入るという(「タイムアウト」ではなく)「タイムイン」を、生徒自身に選択させてください。
・騒がしい/にぎやかな状況では、ノイズキャンセリングヘッドフォーンを使うことを許してあげてください。
・座ったり、学習をする前後には、ジャンプ、走る、その他の動きをはさむようにしてあげてください。
・静かで構造化された学習環境を提供するために、教室の環境を整えるようにしてください。
・生徒の感覚を整えるのを手助けするために、ゆっくりした揺れ、深呼吸、ブランケットで強く巻き上げる、bean bagに座る、重みのあるブランケット(weighted blanket)やひざ掛けを使うことなどをさせてください。
・手が汚れる遊びをさせてください:泥まんじゅう、フィンガーペイント、ねんど遊び、プリン作りやプリンを使って遊ぶ、トライの上でシェービングクリームで遊ぶなど。

鈍感:
・刺激するために光を使います(天井に光を照らし「星」を動かします)
・座位での活動やサークルタイムの前後に、ジャンプ、走るなどの動きをはさむようにしてください。
・騒がしくリズミックな音楽を演奏したり、押したり引いたりする活動をしてください。
・窓やファンからのそよ風を使ってください
・軽い感触のfidget toyを与えてください。
・微細運動への興味を持たせるために:ぴかぴか光るペン、においのするマーカーやgel pencilを使ってください。
・アロマブレスレットや破片を使って、ミントやシナモンのような香りの刺激を使わせてください。

感覚欲求:
・wiggleシートクッション、ボールチェア、ビーンバッグチェア(bean bag chair)のような、生徒が立ったり動いたりしやすい形で座らせるようにしてください。
・課題が終わっていないからという理由で、生徒の自由時間を奪わないでください。行動がエスカレートするだけです。
・Thinking activityを伴った動きのある活動をさせてください。一定の間隔で、ちょっと歩く時間を与えてください。
・手、足、口の感覚をコントロールし続けられるように、いじって刺激を与えられるもの(fidget objects)を使わせてください。
・「力を使う作業」をさせてください(椅子を机の上にあげる、外で遊ぶためにボールの入った重い箱を運ばせる、図書の本を運ばせるなど)。
・可能なら狭い空間にいさせてください。
・事務室にメッセージを運ばせるような雑用/仕事を指示してください。
・滑り台、ブランコ、ジャンプ、山登り、トランポリン、水泳、止まる・動くゲームのような動きのある活動をさせてください。

聴覚障害

片側の聴覚障害
・生徒の左/右側に、座る/話しかける してください。そちらが生徒の良い耳のほうです。
・話している人の顔は、生徒に見えるようにしておくようにし(手や髪の毛、物で隠さないように)、可能なら近くでお願いします。話をするときは生徒を見てください。
・ 生徒の良い耳を先生に向けるようにし、聞こえが悪いほうの耳を教室から遠い側に向ける(壁側のように)ように座らせてください。
・ 話題や課題を変えるときには特にですが、生徒が指示を理解しているかを確認してください。
・ 周りの騒音を最小限にするよう努力してください。

両側の聴覚障害
・1度に話すのは1人だけにしてください。
・話している人の顔は、生徒に見えるようにしておくようにしてください(手や髪の毛、物で隠さないように)。話をするときは生徒を見てください。
・見えづらい、または聞き取りにくい人が話をしたときは、その内容を繰り返してあげてください。
・可能ならば、手をあげたり名前を述べたりして話している人が誰かをわかるようにし、生徒が話している人をとらえるための十分な時間をあげてください。そして話し始める前に、生徒を見てやるようにしてください。
・ 生徒は小グループでの活動が適切でしょう。
・ 定期的に生徒が理解できているかを確認してください。
・ 何かをするのには十分な時間をあげてください。
・言葉による学びだけに頼らずにすむよう、様々な理解手段を提供してください(情報取得手段を聴覚に限らないように)。
・集中や聞き取りに力を使うので、同年代のこども達よりも疲れやすいでしょう。

行動

WAGR症候群の子どもたちは、自閉症、自閉的行動、不安障害、うつ、強迫性障害のような精神疾患を持つことがあります。
・適切な行動を示すために、「ソーシャルストーリー」を作ってください。
・生徒が適切な行動を思い出せるような、よい行動のシンボルを使ってください(聞く、見る、座る、手をあげる、待つ)。
・我慢を手助けするために、カウントダウンタイマーやカウントダウン用のめくりボードを使ってください。
・良い行動は褒め、選ぶ機会をあげてください。
・問題な行動それぞれを分析してください。すべての行動は、何かを伝えようとしている表れです。フラストレーションを避け、生徒に何かを伝える用のシンボルを与え、感情や要求を表現するためのサインを教えてあげてください。
・かんしゃくへの対応
 原因となるものを予期し取り除く
 ・生徒を静かな場所に移動させる
 ・安全を優先する
 ・コミュニケーションは最小眼にする
 ・生徒に時間と場所を与える。その後、安心を与える。
・ 次のような機会を設けることによりソーシャルスキルをつけるようにします:平行遊び、発話順序の交代(turn taking)、共有、二人組で作業をする、他者の気持ちを説明する。

スクールカウンセラーに相談すると助けになってくれるでしょう。

このページは、International WAGR Syndrome Association(IWSA)の許可を得て翻訳・掲載したものです
Translated by Madoka Hasegawa, Oct 2020