2017年12月3日
マクセル株式会社 エネルギー事業本部 竹田 和弘
この文章は、2017年7月25日にUAS測量調査協議会主催で行われた「測量調査分野におけるUASの安全運航に関する講習会」での講演「リチウムイオンバッテーの取扱いと廃棄方法」を講演者自身が編纂したものです。
目次
リチウムイオンバッテリーは、下図に示したように、酸化物である正極(+極)とカーボン材料である負極(-極)、セパレータ、電解液で構成されています。充電放電の仕組みは、リチウムイオンが正極と負極の間を行ったり来たりする反応です。 充電をすることで、繰り返して使用できる二次電池です。リチウムイオンバッテリーは、従来の二次電池よりはるかに高い電圧を出すことができる電極材料とその高い電圧に耐えることができる有機電解液を用いたことで、小型軽量でより多くのエネルギーを利用することができる特徴を持っています。
UAVに用いられているバッテリーは、よく『リポ(Li-Po)』や『リチウムポリマー』と呼ばれていますが、基本的にはリチウムイオンバッテリーそのものです。UAVに用いられるバッテリーの多くは、電極や電解液などといったバッテリーの中身の材料を収めている“容器”の材料が、レトルト食品でおなじみの樹脂製のラミネートフィルムを使用しています。このことからラミネートフィルム製容器のリチウムイオンバッテリーを、模型飛行機(ラジコン)業界でリチウムポリマーバッテリー(リポ、Li-Po)と呼ぶようになったようです。
元々、リチウムイオンポリマーバッテリーというものは、電解液としてゲル状の重合体(ポリマー)を用いたものを指していました。電解液がゲル状であることでバッテリーのラミネートフィルム容器が破損しても液漏れが起きにくい性質があり、薄型の情報通信機器(主にタブレットPCやスマホ)に用いられています。しかし、ゲル状電解液のバッテリーは、内部抵抗が高いために大電流で使用されるUAVには適していません。UAVに用いられているリチウムポリマーバッテリーには、重合体(ポリマー)ではなく液体状の電解液が用いられています。破損すれば電解液が漏れ出します。
様々な用途にいられるリチウムイオンバッテリーによる火災が増えています。携帯充電器やスマートフォン、タブレット、電子たばこ、ノートパソコンなどに使用されているリチウムイオンバッテリーが、充電中及び使用中などに出火する火災が増えています。平成23年から平成27年までに、65件の火災が発生しています。本年(編集注:平成28年)は11月末現在で50件(速報値)発生していることから、東京消防庁では注意を呼びかけています。(消防庁HP引用 http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-kouhouka/pdf/281222.pdf)
リチウムイオンバッテリーは、充電電圧を誤ると発火することがあります。メーカーが指定しているそのバッテリー専用充電器を用いることが一番安全です。専用充電器がない場合は、指定された充電電圧を正しく設定しなければなりません。いろいろなタイプのバッテリーの充電を行うことができるマルチタイプの充電器では、バッテリー種の設定誤りは充電電圧の設定誤りを意味します。誤って高い電圧を設定して充電すると、過充電という状態になり、発火してしまうことがあります。
リチウムイオンバッテリーでは、充電のときは正極のリチウムイオンを負極に移動させる反応が起こっています。実は、リチウムイオンバッテリーの正極が持っているリチウムイオン量は、負極が受け入れることができるリチウムイオン量より多いのです。したがって、負極が受け取るリチウムイオン量を充電電圧で制限する必要があり、充電電圧に上限を設けてリチウムイオンの移動(充電)量を制御しているのです。この上限の電圧を超える電圧での充電は、過充電状態となります。過充電状態のバッテリーは、負極にはリチウムイオンが金属状態のリチウムとして析出しています(溶液から溶質である成分が、固体として現れます。これが内部短絡の原因となり、バッテリーを発熱させ、発火を起こすことがあります)。 正極の材料は、設計された以上にリチウムイオンが少なくなり、化学的には不安定な状態になります。
では、なぜ化学的に不安定になると、電解液は発火してしまうのでしょうか。下図に示したように、満充電状態や過充電状態の負極では、約150℃を超えると自己発熱が止まらなくなる“熱暴走”状態が起こります。 同様に正極では、200℃で“熱暴走”状態になります。そして280℃くらいになると、電解液の熱分解が起こって正極の成分である酸素と反応、つまり発火してしまうのです。また、電解液は、消防法上は危険物第四類第2石油類にあたる灯油に近い可燃性の液体であるため、激しく燃えます。
低すぎる温度(メーカー指定の最低充電温度以下)では、負極がリチウムイオンとうまく反応できず、上記のような過充電と同じように、負極にはリチウムイオンが金属状態のリチウムとして析出します。また、逆に温度が高すぎる(多くの場合45℃以上)場合は、正極材料の結晶構造が不安定な領域で充電には適しません。充電温度の条件は低温度側、高温度側どちらも、バッテリーのセルに使われている材料で変わりますので、各バッテリーメーカーの指定温度範囲を確認してください。可能なら、バッテリーメーカー指定の温度監視装置がついている、専用充電器の利用を推奨します。
短絡とは、一般にはショートと呼ばれる現象で、本来の設計とは異なる電気の流れが発生し、電気設備の回路が破壊されてしまうことで、発火したり、爆発したりします。内部短絡は、この現象がバッテリー内部で起きることをいいます。リチウムイオンバッテリーは、内部短絡が起こりやすい製品です。
リチウムイオンバッテリーの取り扱いでもう一つ注意が必要なのが、内部短絡の可能性を作らないことです。 バッテリーの内部は、十数ミクロンのセパレータで正極と負極とを絶縁しています。リチウムイオンが通ることができるのは多孔質のポリエチレンですので、きわめて傷付きやすいものです。バッテリーを構成しているセルに損傷を与えますので、バッテリーに重いものを乗せる、落とす、切る、曲げる、ぶつけるなどはしていけません。内部短絡するとバッテリーに充電されたエネルギーが、電極を加熱する事象を起こします。前述したように負極が150℃超えたり、正極が200℃を超えたりすると熱暴走がおこり、バッテリーが発火するのです。内部短絡はその前兆を察知することはできません。
変形したバッテリーは、直ちに使用を中止し、発火防止のために放電する必要があります。放電する装置がない場合には緊急避難として、水に浸漬する、塩水に浸漬することが、発火防止・類焼防止に役立つでしょう。ただし、水や塩水に漬ける場合は、発生するガスに危険がありますので、後述する注意を守ってください。
膨れたバッテリーは、内部短絡しやすいので使用を中止してください。膨れたバッテリー、特に、ラミネートフィルム容器のバッテリーは、電極がセル内部で動きやすいので、内部短絡による発熱や発火の可能性が高くなります。使用を中止し放電して廃棄すべきです。
水に濡れたバッテリーや電解液漏れしたバッテリーにも、危険が潜んでいます。バッテリーの内部でセルを固定するためにプリント基板が使われていることがあります。この基板に、水や電解液が付着することがあります。基板に水や電解液が付着してしまったときに、バッテリーに十分な電力が残っていると発火することがあります。 これはトラッキング現象と呼ばれ、電源プラグとコンセントの間にホコリが溜まり、湿気が加わって電気の道を作り、発火する現象と同じです。基板に水や電解液が付着したと思われる場合は、使用を中止し、放電し、廃棄すべきです。
機体は接続しているだけで、電気を消費していることがあります。バッテリーは、機体から取り外して保管してください。過放電は、リチウムイオンバッテリーをひどく劣化させます。 保管温度と充電状態に関しては、保管温度が低い方が劣化は進みにくいです。温度が高ければ高いほど、また、充電状態が高ければ(=バッテリーの電圧が高ければ)高いほど、バッテリーの劣化が速く進みます。これらから、保管温度は低い程良いといえます。一般的に45℃以上は多くのメーカーの保証外です。保管時の充電状態(=電圧)がどの程度ならよいかというのは一概に言えませんが、公称電圧より低い電圧(充電状態が50%より低い状態)での保管を奨めます。
また、安全確保の観点で重要なことがあります。UAVでの利用では、落下や衝撃、突起物への衝突などが起こる可能性は高いと思われますが、バッテリーの損傷は必ずしも確認できるとは限らないのではないでしょう。このような損傷は見られないが、落下や衝撃などで変形して内部短絡やトラッキング形成のポテンシャルを抱えているバッテリーが混在していて、万が一、発火しても、類焼しないように保管しておくことは火災事故などの防止に必要なことだと思います。バッテリー間に距離を置く、耐火物で仕切るなどの対策をとって保管しておくことが肝要です。
低温時、一旦離陸できても、出力低下(墜落)の可能性があります。 劣化したバッテリーでは、より顕著に、あまり低くない温度でも起こることがあります。計測器による測定ですと、30秒後辺りまで電圧が急激に下がり、その後はバッテリーの内部抵抗による発熱で温度が上昇、内部抵抗が下がって電圧が上昇することがわかっています。低温度環境の飛行前には、あらかじめバッテリーを暖めておくと良いでしょう。飛行開始後10秒から1分程度、極低空でホバリングさせ、安定飛行できることを確認することも墜落防止に役立つと思います。
完全に鎮火するまで、大量の水を掛け続けてください。水に浸けてバッテリーを冷やすことも消火を速めます。砂や粉末消火器、防火布等は類焼防止に有効なので、大量の水がない場合は砂や粉末消火器、防火布等で消火活動(類焼防止)をしてください。鎮火後は念のため、防火容器に入れて保管するなどの対策を取ってください。
現在のところ、残念ながらリチウムイオンバッテリーの寿命を簡単に見極めることはできません。劣化すると容量が少なくなりますので、墜落防止のためには劣化状態の掌握は必須の課題です。UAVユーザーの経験による判断に依らざるを得ないのが現状です。そのためには、充電回数を管理するようにしてください。まず、バッテリーに購入日を記し、充電を1回するごとにバッテリーにマークを付けるなどによって、使用期間や充電回数を記録管理することをお奨めします。さらに、あらかじめ決めた充電回数(又は飛行)毎に、飛行可能時間の確認フライトなどを行い、皆さんユーザーが決めたフライト時間分の容量があるバッテリーだけを使用することが、思わぬ墜落の防止に有効でしょう。インテリジェントパックと呼ばれるものには、充電回数や利用可能容量を計測しているものがあります。インテリジェントパックを利用することにより、適切な管理が期待できます。
ネット上には、廃棄前に水や塩水に浸けて放電させることを推奨している記述がありますが、水に濡れたバッテリーは、廃棄物処理法による広域認定を受けて資源有効利用促進法に基づく小型充電式電池のリサイクル活動を推進している一般社団法人JBRCでは回収できません。落下などで変形してしまったバッテリーの発火類焼防止のために水や塩水に浸けておくことは緊急避難としては有効なので否定するものではありませんが、回収や廃棄のための放電手段としては行うべきではありません。
水や塩水に浸ける処理には、次のような反応があります。水や塩水の電気分解が起こり、マイナス極からは水素、プラス極からは酸素、または塩濃度が高い場合は塩素ガスが発生します。水素ガスは滞留すると引火爆発の危険があります。塩素ガスは毒性が強く中毒の危険があります。緊急避難のために水や塩水に浸ける場合は、屋外で、または、十分な換気をして行わなければなりません。
リチウムイオンバッテリーは、「資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)」において、「指定再資源化製品」に指定されおり、製造業者等 (製造業者、輸入販売業者)に回収・再資源化の責務が課せられています。通常、バッテリーの販売者に問い合わせれば廃棄方法を教えてもらえます。
マクセル株式会社は、利用者のリチウムイオンバッテリーリサイクルを促進するため、「JBRCスキームの活用」を提案しています。リチウムイオンバッテリーは、そのバッテリーの製造者や販売者に回収義務があります。JBRC会員会社が販売したリチウムイオンバッテリーはJBRCの回収スキームが利用できます。 詳しくは、JBRCのホームページ(https://www.jbrc.com/project/)をご参照下さい。回収スキームの概要、回収できる電池、できない電池(バッテリー)、梱包方法などは、JBRCの「小型充電式電池 安全回収のハンドブック」(https://www.jbrc.com/images/project/p6/Safety_hand.pdf)に詳しく書かれています。
一部のUAV販売事業者を含むリチウムイオンバッテリー販売業者は、回収・再資源化のための取組を行わずに販売している事例があるようです。Web上には「自治体の分別に従って廃棄する。」との記述も散見されますが、これは民生用の取り扱い方法で、事業に用いたバッテリーは産業廃棄物(廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第三条による)であり、皆さま事業者に適正処理義務があります。販売事業者が回収に応じない場合は、皆さまが事業者として産業廃棄物処理許可業者に処分を委託してください。
免責事項:記載内容に関しまして弊社の最新の知見に基づいて記述しておりますが、本記載内容の情報に基づいて行ったことによって生じた如何なる損害に対しても弊社は責任を負いかねますのでご了解ください。