15:45~16:00 [講演11]

日本生態学会東北地区会一般講演

「異なる標高に分布するアリ類の低温耐性」

大杉嗣弘*・山尾僚(弘前大学)・大崎晴菜(岩手大学)


低温耐性の種間差は、標高経度に沿った生物の垂直分布域の違いを生み出す主要な要因のひとつであると考えられている。アリ類においても標高に伴って異なる種が分布することが報告されているものの、低温耐性の関係性については殆ど明らかにされていない。本研究では、青森県の単独峯である岩木山に生息するアリ類を対象に、種毎の垂直分布域と低温耐性を調べた。2017年と2018年の9月および2020年の5月に岩木山の標高422mから1248mの73箇所の林縁部にベイトトラップを設置し、トラップに集まるアリの種を記録することで、種毎の垂直分布を調べた。その結果、7種のアリ種が確認された。クロオオアリCamponotus japonicus、アメイロアリ Paratrechina flavipes、アズマオオズアリPheidole felvidaは低標高域に、ヤマクロヤマアリFormica lemani、ハラクシケアリ Myrmica ruginodis は高標高域に集中的に分布していた。さらに、野外調査で確認された7種のアリを対象に、低温耐性を調べる室内実験を行った。インキュベーター内の温度を25℃から0℃まで段階的に低下させ、アリの活動量の変化を調べた。その結果、温度の低下に伴う活動量の減少は、アリ種によって異なった。野外調査において高標高に分布していたヤマクロヤマアリFormica lemani、ハラクシケアリ Myrmica ruginodisは、低標高に分布していたクロオオアリCamponotus japonicus、アメイロアリ Paratrechina flavipes、アズマオオズアリPheidole felvidaと比べ、低温条件においても活動量の減少の程度が有意に小さかった。これらのことから、岩木山のアリ類においても、低温耐性の種間差が垂直分布を規定する要因のひとつとなっていると考えられた。